持ち得る可能性

 深緑の最大魔法を前にエルクリッドとシェダ、ヒレイとディオンの闘志が砕かれた。

 だが、最後の最後でと思うとその目に光が戻りエルクリッドは強く足に力を入れて倒れるのを防ぎ、ヒレイもまた外骨格を砕かれ全身に植物が根を張る中で体内から熱波を放ち一気に身体を焼き翼を広げ飛翔する。


「エルクさん!」


「あたしよりシェダの方をお願い、まだ、あたしは折れてない……!」


 ノヴァに答えながら真っ直ぐ前を見るエルクリッドは大量の血を履きながらも立ち続け、折れぬ闘志に応えるようにヒレイもまた破れた翼で滞空しノヴェルカと向かい合う。

 

 満身創痍なのは間違いない、深手を負い戦闘不能となっているのはシェダとディオンがかろうじて意識を持ち、動けなくなってるという事からも事実としてあるとセレファルシアとノヴェルカはわかっていた。


 だがエルクリッドとヒレイの眼光が放つそれはそのような認識など簡単に焼き尽くす程に強く、星のように煌めく美しさと紅蓮の炎の如き猛々しさがあった。かつて自分達と相対した、熒惑けいこくのリスナーとそのアセスと同じように、と。


 風が吹き抜ける。静まり返る中で大精霊と火竜が相対し、セレファルシアが静かに懐へ手を伸ばすとエルクリッドもカード入れへと手を伸ばす。


(カードは使えてあと一枚、これで、決める……!)


 エルクリッドの思いに応える形でヒレイが全身に力を入れ体温を上げて攻撃態勢へ移りいざ、となった時、セレファルシアが手を引きため息をつくと共にノヴェルカが緑の光に包まれながらその姿を消して行く。


 それには肩透かしを食らったような気がしてエルクリッドは戸惑うものの、大きな葉から下りて着地するセレファルシアが厚みのある葉を咥えながらやめだと漏らし、エルクリッド達の方へ歩み寄り落ちてくるノヴェルカのカードを取るとすぐに少女姿のノヴェルカが傍らに現れた。


「いやー、強かったねー。まさかガイア・ノヴェルカまで耐えてくるとはねぇ……紡がれる可能性、ってのはホント馬鹿にならないね」


 明朗快活に語りながら踊るように進むノヴェルカは疲労の色一つ見せず、それには驚愕するしかないエルクリッドは戸惑うものの、自分達の前までやってきたセレファルシアがオレの負けだと口にした事でようやく肩の力を抜き、その場にぺたんと座り込む。


「あたし達、勝った、んですか?」


「オレの魔力が続かねぇ。それにセレファルシアもこれ以上力を出すと流石に国に影響が出る……それだけの事だ」


 ここでエルクリッドはセレファルシアが普段から咥えかじる葉を戦闘中は口にしてない、魔力の補給を行いながら戦わなかった事に気づいた。

 またノヴェルカの規模も地の国への影響を踏まえ抑えられていたと知り、加減していたとわかると少し気が沈む。実質的に手加減されていて全力を出しようやく互角、いや、僅かに届かないという事実に改めて大精霊ノヴェルカの強さを思い知らされる。


 エルクリッドが思う事は先に戦闘不能となったリオも、ノヴァにヒーリングのカードを使われているシェダも思い、自分達が未だ届かないのを思い知る事となった。一方で、タラゼドがセレファルシアと向き合い、口を開きかけるとセレファルシアが先に口を開く。


「元々、オレとノヴェルカに挑んでくる奴なんていねぇって想定をしていた。その上で挑んでくる奴に対しては十分力がある事、覚悟がある事を試すって決めてたんだよ」


 大精霊ノヴェルカがいかに強大であるかはエタリラに住まうもの、特にリスナーであれば知っていて当然の事だ。

 その余りの強さや不死性は難攻不落そのもの、試練として成立しないとなれば催しとして欠陥があると言われるのも致し方無い。だがもし彼女らが全力でとなれば、それはそれとして問題が起こり得るのも間違いなくその上で認められた事も少しずつ受け入れられた。


「お見事でした、セレファルシア。いえ、姉上」


「言い直すな気持ち悪い。先に戻ってる、怪我人共の応急処置してから来い」


 ノヴェルカと共にタラゼドとすれ違い診療所へと戻っていくセレファルシアが何処か爽やかなのを感じつつ、タラゼドは微笑みながらエルクリッド達へ手をかざし治療を始める。


 そしてセレファルシアと入れ違うようにシリウスが前へと進み、振り返り笑顔を見せるもふらっと倒れ込むエルクリッドを受け止めた。


「ありがとおじさん。ちょっと、疲れちゃったな……」


「良いものを見せてもらった。ゆっくり休みなさい」


 シリウスがぽんぽんとエルクリッドの頭を優しく叩いてやると彼女は微笑んでから目を瞑ってそのまま眠り、そっと抱えてその場に寝かせる。


 一人のリスナーとしての力は強く、一人の存在としてはまだ発展途上、その二つを併せ持つ事が不安ではあれども、戦いを通しシリウスは杞憂と感じエルクリッドの顔を見てからすっと立ち上がり踵を返す。


「行ってしまうんですか?」


 あぁ、と呼び止めるノヴァに答えつつシリウスは空を見上げ、妹スバルの遺した生命を改めて感じつつゆっくりと歩を進めていく。


「十分なものを見せてもらった、それに今生の別れというわけでもない。また会いに行くと、エルクリッドに伝えてくれ」


「わかりました。シリウスさん、身体に気をつけてくださいね」


 ノヴァの返事にシリウスは微笑みを浮かべつつ手を上げて返しそのまま歩き去る。その後ろ姿は何処か穏やかで、安堵に満ちている気がした。


 シリウスが見えなくなるまで彼の方を見ていたノヴァが振り返るとシェダも座り込めるくらいには回復を済ませ、魔力を切らしていたリオも肩の力を抜いて一息つく。

 激闘を経て認められた、その事でエルクリッドの獲得した星は七つとなり、星彩の儀の参加証を入れているカード入れから光が漏れていた。


「これでエルクさんはバエルさんに……」


 参加証に七つの星が揃う時、唯一にして最後の五曜のリスナー・バエルへ挑む資格を得る。エルクリッドにとってそれは強く願い続けているものなのはノヴァ達も重々承知であり、幾度も戦い十二星召の半数以上に勝利し研磨されたその実力は紛れもないものだろう。


 とはいえ今はまだ彼女も眠りについたまま、このまますぐにとはいかないのとも思えたのでノヴァもエルクリッドに寄り添うように手を握って座り、それを見てタラゼドも回復魔法を施しながら微笑ましく見守るのだった。



NEXT……

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