第2話

第五章 仲間たちの夜


夜、幽体でスーパーに忍び込み、誰かの身体を借りて割引惣菜を購入。後で密かに回収し、地下通路へ持ち帰る。

仲間たちに配ると、缶ビール片手に小さな宴が始まった。

「秋山さん、どこでこんなの?」

「……運が良かったんだよ」


笑い声がこだまし、久しぶりに人の温もりを感じた。


第六章 小さな恩返し


あの日パンをくれた女子高生たちを探し、正樹は駅で見つけた。通りすがりのサラリーマンに憑依し、彼女たちの前に立つ。


「この前、困っている人にパンをくれましたね。あの人、とても救われたそうです。ありがとう」


二人は照れくさそうに笑った。

憑依を解いた正樹は、遠くからその笑顔を眺め、涙をこらえた。

――だが、そのサラリーマンの身体には違和感があった。

鍛えられた筋肉、複数名義の名刺、英語の暗号、政治家のスケジュール、使い捨て携帯。

ただの会社員ではない。


そして一瞬、彼の視線が宙の“こちら”を掠めた気がした。

――気づかれたか?


第七章 仮面ライダーの修行


子供の頃に夢中になった仮面ライダー。

――悪を倒すヒーローになりたい。


正樹はその憧れを胸に、幽体で武道家に憑依して修行を始めた。

柔道の受け身、空手の突き、剣道の間合い、合気道の流れ、特殊部隊の実践。公園の太極拳や裏通りのボクシングすら吸収した。


五分という短さの中で断片を必死に掴み、体に戻れば幻の筋肉痛が残った。それでも繰り返すうちに動きが自然に染み込んでいった。


ある夜、酔っ払いが仲間を殴ろうとしたとき、正樹は咄嗟に前に出て、柔道で学んだ崩しで床に転がした。仲間は驚き、正樹は心の中で呟いた。

――これが、俺の“変身”だ。


第八章 黒い影


若手大臣の街頭演説が行われる日。

群衆の中に、不自然に“目立たない”黒い帽子の男がいた。ケースを抱え、屋上を見上げている。

直感が叫ぶ。――スナイパーだ。


その場には、あのサラリーマンもいた。正体はおおよそ検討がついた護衛のSP諜報員。

正樹は幽体で彼に飛び込み、五分だけ体を借りた。

肉体能力の100%が発揮される。


第九章 五分の指揮


鍛え抜かれた身体が瞬時に反応する。風の向き、銃口の光。

「右のビル、二時方向! 盾、下げるな!」


護衛隊が即座に動き、大臣は伏せ、屋上の影は制圧された。

正樹は限界が来て体を抜け、空に漂った。


任務を果たしたSP諜報員は何事もなかったように群衆に紛れたが、その視線は一瞬だけ宙を探っていた。

――やはり、気づかれている。

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