Real Fantasy物語 勇者ジェミニの伝説

Real Fantasy物語

序章

遥か昔、この世界とは少し違う、魔法が〝存在していた〟世界。



同じ名前を持つ剣士と魔道士がいました。


ひとりは臆病者の光の剣士ジェミニ。

そしてもうひとりは勇敢な闇の魔道士ジェミニ。



光の剣士は優しく、何ものにも勝る正義感がありました。

しかしとても臆病で、凶悪な怪物や襲い来る危機に怯え、いつも勇気を振り絞れずにいました。



一方、闇の魔道士は正義に興味はありませんでした。ただ利益だけを追い求め、手段を選ばず、時に残酷な方法もとるほど冷酷でしたが、とても勇敢でした。



姿かたちは似ている2人でしたが、性格や考え方、好みなどは正反対でした。


そして容姿と名前以外に、共通している部分がもう1つありました。


2人の魂は不完全だったのです。


それゆえに精神が不安定であり、この世とあの世の狭間にいるものを目にしたり、不思議な体験をしたりすることも多々ありました。


ある日、2人のジェミニは魔王を退治するために旅に出ました。


光のジェミニは正義のため。

闇のジェミニは利益のため。


ジェミニは旅の途中、魔王を退治するための力を授けてくれるという伝説が残る、精霊の祠を訪れました。


祠の中へと歩みを進めると、その奥深くには祭壇がありました。


そしてそこで出会ったのは精霊ではなく、なんともうひとりのジェミニでした。


2人は同じタイミングで精霊の祠を訪れていたのです。


自分とそっくりな人物が目の前にいることに二人はとても驚きました。



光の剣士ジェミニは自分と似た相手との出会いを楽しみ、笑顔で喜びましたが、闇の魔道士ジェミニは自分と似た相手との出会いを何かの罠だと疑い顔をしかめました。



「やあ、魔道士さん。僕はジェミニ。世界の人々を苦しめる魔王を退治するために旅をしているんだ。ここは暗くて不気味だよね。とても不安だったから君がいてくれて安心したよ。」


「なんだって?俺の名前もジェミニ。俺は王様からがっぽり褒美をもらうために魔王を退治する旅をしている。お前、魔王の手先じゃないだろうな?近寄るな!」



ふたりがいくつか言葉を交わすと、突然、祭壇がまぶしい光に包まれました。


そしてその光の中に、精霊が現れたのです。



「よく来ましたね、2人のジェミニ。」



「あなたがあの伝説の精霊ですか。僕は人々を苦しめる魔王を退治して、この世界を平和にしたいんです。どうか力を貸してくれませんか。」


「貴様が精霊か?俺が魔王を退治してやるから、こんなひ弱なやつは放っておいて俺に力をよこせ!」



「今から大切なことを話しますからよく聴きなさい、二人とも。

貴方たちは、元々はとても強い魂と大きな力を持った1人の人間でした。

そんなあなたの存在を恐れた魔王は、手先の魔女を使い、貴方が生まれて間もないころにその魂を2つに分裂させ2人の人間に分けてしまったのです。


しかし、この世界を作ったとされる創世の神の力を持つという聖なるクリスタルを手に入れられれば、貴方たちは再び1人の人間に戻ることができます。そして、魔王を倒せるほどの大きな力をも手に入れることができるでしょう。」


衝撃的な事実を知った2人のジェミニは驚き、うろたえましたが、聖なるクリスタルを手に入れるために共に旅を続けることにしました。



光のジェミニは正義のため。

闇のジェミニは利益のため。



聖なるクリスタルを手に入れるための旅はとても険しいものでした。


ドラゴンが住む雪山を登り、断崖絶壁の岩山を越え、魔女の森を抜け、命の危険にさらされながらも、2人のジェミニは互いの強みを活かし前へと進んでいきました。



そして途方もない苦労の末、2人はついにクリスタルを手にしたのです。



クリスタルを手に入れ、精霊の祠に戻った2人へ、ついに1人の人間に戻る瞬間が訪れました。


しかし、2人のジェミニの顔は曇っていました。




「本当に、これでいいのか…」




旅を続ける中で、ふたりはいつしかとても信頼のおける戦友になっていたのです。


そして2人のジェミニにはそれぞれ人格があり、思い出があり、感情があり、物語がありました。


ふたりは互いを尊重し、認め合っていたのです。



1人の人間に戻り、大きな力を手にすればきっと魔王を討ち果たせるでしょう。



精霊は何も発することなく、ただ静かにふたりの決断を待っていました。




長い、長い沈黙が続きました…






…そしてふたりは決断しました。






クリスタルの力は使わず、協力して魔王に挑むことを。


大切な友のためでもありましたが、何より2人には厳しい旅の中、互いに信頼し協力することで得た強敵に打ち勝つ力と自信がありました。


それからいくらも立たずしてふたりは魔王の城に攻め入りました。


魔王と対峙したふたりのジェミニは魔王の恐ろしい出で立ちと不気味さに震えましたが、一歩も後には引きませんでした。


戦いは苛烈を極めました。


世界の気候がかわり、島の形が変わるほどの壮絶な戦いが繰り広げられました。



どのくらいの時間が過ぎ去ったでしょうか。


時間の感覚もなくなるほどの戦いが続いた末、2人は互いの力を合わせついに魔王を倒すことができたのです!



2人のジェミニはその疲れ傷ついた体を引きずりながら各国を見て回り、平和の訪れを噛み締め、喜びに震えました。


どの国でも2人は国をあげて讃えられました。




臆病な光の剣士ジェミニはもう臆病ではありませんでした。


魔王を倒す旅の中で数々の試練を乗り越え、闇の魔道士の勇敢さに影響を受け、立派な勇者に成長していました。



冷酷な闇の魔道士ジェミニは、もう自分の利益だけを求めることはありませんでした。


魔王を倒す旅の中で数々の試練を共に乗り越えた光の剣士の正義感に影響を受け、優しく、正しい心を持った勇者に成長していました。



最後に訪れた大国でも、ふたりのジェミニは盛大に讃えられました。



ふたりの〝勇者〟は歓声が沸き起こる民衆の前で互いの剣と杖を重ね、勝利の雄たけびをあげました。



そのとき、聖なるクリスタルが輝きだし、奇跡が起きました。


なんとクリスタルは不完全な2人の魂を完全なものとし、別々の人間として存在させたのです。



こうして世界に、2人の勇者ジェミニが誕生しました。



この2人の勇者とクリスタルの伝説は平和になった世界でも永く受け継がれています。

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