第1節 新たな剣の行方 3話目
「…………」
「…………」
「……いつまでついてくるつもりだ」
「今は特に誰からも命令されていないし、暇つぶしに丁度いいなって思って」
あくまで真意を悟られないよう、表情にも瞳にも感情を宿らせずの発言。しかし執拗に後を追ってくるあたり、恐らく目的はひとつ。
「…………」
「……あれ? 随分と入り組んだ路地裏に入ったね」
ドゥリィが述べた感想の通り、ビゼルラのようなギルドが仕切る街であろうと、薄暗がりの道ばかりを選んで行けば自然と治安の悪い場所へと向かって行くことになる。
そうして周りを見てもギルドのパーティからあぶれたような、目つきの悪いゴロツキがちらほらと見受けられるような場所でレーヴァンは足を止める。
「ああ。ここならテメェも用件を済ませられるだろ」
そう言ってレーヴァンは振り返りざまに剣を抜くと、刃に赤々とした炎を纏わせる。
「――口封じ、だろ? テメェのアホくせぇ失態とはいえ、同胞じゃない俺に対してここまでついてくる必要はねぇ筈だ」
一切人間の雰囲気がしない――先程発された言葉に対して、レーヴァンは呆れた様子を見せて何も言うことなく背を向けて去っていった。それに対してドゥリィは人違いだとそのままその場を離れるのではなく、レーヴァンの跡をつけるという行動をとっている。
十中八九、本当に人違いだという事は推測できる。そして恐らくは単なる口封じでの始末が目的だという事も。しかし万が一このドゥリィと名乗る者に自分が魔剣であることを見透かされていたとすれば、レーヴァンとしても放っておくわけにはいかない。
「テメェも剣を抜けよ。無抵抗の女を殺す趣味はねぇ」
こういった場所では生存本能が高い者だけが生き延びられる。そして警鐘を鳴らすような事態を目の当たりにしたゴロツキどものとる行動といえば、自分は無関係だとその場を刺激しないよう静かに姿を消していくことだけ。
(見えていた分だと相手の得物はダガーが一本……一回
睨みつけながらも、レーヴァンは冷静に相手の装備を観察する。
自分と同じ革製の装備。しかし肩回りなどの動きやすさを重視してか、上半分はボディラインが浮かぶほどピッチリとしている。
「……ふーん。だったらこのダガーナイフは抜かないでおこうかな」
そうして緊迫が高まっていく状況でドゥリィのとった行動は、レーヴァンですら想定していなかったものだった。
「ハァ?」
「だって剣を抜かなかったら殺されないんでしょ? だったら私は抜かないかな」
「なっ、テメェは俺を始末するつもりで尾行してんじゃねぇのかよ!?」
「だから、暇つぶしだって最初から言ってるでしょ?」
「……マジで言ってんのか?」
「貴方の言葉を借りるなら、マジで言ってるってことかな」
「……ハァー……んだよ、そりゃ」
本当に何を考えているのか分からない者を相手に、いつまでも真面目に付き合ってはいられない。そう思ったレーヴァンは地面に剣を突き立てると、そのまま二人の間に線を引くかのように地面に炎を走らせる。
「えっ? 何それ?」
「悪ぃが付き合ってられねぇ。テメェをここで撒いて終いだ」
そうして二人の間に炎の壁を発生させたところで、レーヴァンは悠々とその場を去っていく。
「あらら……人付き合いって難しいなぁ……とは言っても、お互いに道具だから人付き合いではないのかな。どうしたらそんなに人間らしく振る舞えるのかとか、教えて貰おうと思ったんだけどなー」
「おいおい、人付き合いをご所望なら、俺達とも付き合ってくれよ」
明らかに危険そうな炎を操る魔法剣士が姿を消し、残ったのはあまり強くなさそうな女剣士ただ一人。そうなってくれば先ほどまで息を潜めていたゴロツキ達も、再び姿を現してくる。
「……悪いけど、
「俺達はお前に興味津々だけどなぁ」
「へっへっへ、そんな娼婦みてぇな薄着しやがって、誘ってんのかぁー?」
ゴロツキからそう言われたドゥリィは首を傾げて自身の装備を見回したが、一通り見たところでやれやれと言った様子でため息を漏らす。
「残念だけど、私に性処理機能は求められていないんだよね」
「馬鹿が! ヤれるかどうかは、俺達が決めるんだよぉ!!」
そうして炎を背にしたドゥリィに向けて、欲望にまみれたゴロツキが次々と襲い掛かっていく。
「……分かってくれないなぁ。私にあるのは――」
ドゥリィはそう言って腰元のダガーを手に取ると――
「がぎゃっ!?」
「ぐがっ!?」
「――殺しの機能だけなのに」
――殺人の道具として、遺憾なくその本領を発揮させていった。
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