深窓の未亡人の耽美な真相―誰も知らない公爵家の物語―

あいまいにあい

1,公爵家使用人の証言


【公爵家の家令の証言 】


 ミレイユ様は弱冠十三で後妻として公爵家に入られました。そして嫁がれてたった三年で前公爵様が亡くなられてからは公爵代理を務めておられました…。 ミレイユ様は大変聡明な方です。




 学舎を飛び級されたといいますから存じ上げておりましたが、真面目なだけでなく、大人同士の争いにもきちんと対応され、社交界でもそつなく年上の女性方に上手く可愛がられておいででした。




 御気性は穏やかで控えめですが、時に大胆な決断力がおありで、現公爵様が成人されるまでしっかりと公爵家を守っていらっしゃいました。




 後妻だからと常日頃着飾らず、前公爵様が亡くなられてからはずっと喪に服され、黒のドレスは常に首元まで襟があるものをお召しです。屋敷の中でもです。


 それでも、長い黒髪や口元の泣きぼくろに…多くの領内の男たちがざわめき立つのですが、浮いた話は全くありませんでしたよ。







【引退したメイド長の証言 】




 旦那様はあの麗しい若い奥方に手をお触れになりませんでした。ええ、一度も。


 ミレイユ様は一番上の坊ちゃんと同い年です!


 旦那様はそんな恥知らずではありませんわ…お優し過ぎる方ですよ、前の奥様の不倫を許されたり....いえ、今のは失言です。




 とにかく、そうですつまり、ミレイユ様は未亡人ながら清らかでした。その類い稀なる美貌ですのでそれはもうお誘いが多かったのですが、ずっと公爵家を懸命に支えてらしたので殿方とどうこうする余裕なんかありませんでしたとも。




 旦那様や前奥様が遺した子らは皆『母上』と後ろをついて回って慕っておりました。


 


 あの方は聖母のような方です。子らの相談に乗り、悪戯に笑って…あの優しい微笑みに溶かされない人はおりませんわ!


 


 たくさん苦労なさったのに、微塵もそんな気配を感じさせないんです。だから坊ちゃんたちもお嬢様たちも使用人たちも、あの屋敷のみんながミレイユ様に頭が上がらないのです。





【洗濯場の下働きの娘の証言】


 あの黒いワンピースで首まできちんと隠しているのに、あのほっそい腰や大きな胸はそんなもんじゃあ、隠しきれない色気があるわよね! よく胸のボタンがほつれちゃって大変らしいわ。




 そうそう、髪をほどかれるところを一度だけ見たけどね、まっすぐ長くて艶があって…あたしあんな綺麗なものは初めてみた。一緒に見た侍女たちだってうっとりしちゃってさぁ.....




 そんでもってあたしらみたいな下働きの庶民にだってとってもやさしくって!


 『いつもありがとうね』って砂糖菓子をこっそりくれるんだ。




 いい匂いはするし、手は柔らかいし、なんだか逆に仕事が手につかなくなっちゃうわ!





【 若い馬丁の証言 】


 嫁さんいる坊ちゃん方もよく里帰りしてきますよお


『母上の顔見に』ってさ、嫁さんたちどう思ってんでしょうねえ


 


 帰ってくると落ち着くのに、離れると胸がざわざわするって言うんですよ。


 …なんとなく、俺もわかりますけどね。

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