【特価訳あり格安品!】メイドロボをレンタルしてみた

海星めりい

起動~ ①

[//SE] 電子音が短く鳴り、低いモーターがゴウンと動き出す音


[//SE] 内部パーツがカチカチと噛み合う音、排気がふっと抜ける音


「……ふぁぁ……起動完了。あー、眠い……じゃなくて、だる。……ん? ……あぁ、こんにちはお兄さん。ふーん、あんたが契約者?」


[//SE] トントンと気だるげな足音が近づく


「……そんなにガン見して、何? メイドロボが珍しい? メイド服着てるからって、勝手に従順なタイプを想像した? 残念、外れだよ。“難あり”って説明受けてレンタルしたんでしょ?」


「でも、掃除も洗濯も料理も、全部それなり以上にはやれる。仕事の精度で言えば上のクラスに負けないつもりだから。……ま、態度は保証しないけど、ね」


[//SE] すっと耳元に近づく音。吐息がかかる距離で囁く


「……ねぇ、鼓膜に直で声が入る感じ、どう? ちょっとゾクッとした? ……ふふ、やっぱりね。お兄さん、意外と反応が素直で笑える」


[//SE] 椅子をガタリと引いて、腰を下ろす音


「……さて。レンタルだとしてもどうして私を選んだのか、正直気になるんだよね。最新式の従順なモデルも並んでたでしょ? ……ああ、わかった。高級機なんて買う余裕ないんだろ。顔に出てる。寝不足でクマもくっきり。完全に疲れ果ててる感じ」


「……まあいいや。お兄さんみたいなボロボロ人間の部屋を立て直すくらいなら、私でも十分ってわけね。なるほど……納得した」


[//SE] 机をコツンと指で叩く音


「じゃあ、早速はじめていこうか。なに? これでも、やることはきっちりやるんだよ。だからお兄さんが一週間くらい我慢するつもりなら、悪くない契約になるんじゃない?」


[//SE] 吐息混じりで耳に近づき、低く囁く


「……まぁ、すぐ返品するならするでいいからさ。でも、レンタルに払ったお金は返ってこないよ? だったら、その一週間だけでも……私に付き合った方が得だとおもうよ? ……案外、悪くないかもしれないしね」


[//SE] ペットボトルを軽く蹴ってカランと転がる音


「……はぁ。お兄さん、部屋ひどすぎ。ペットボトルの墓場かと思ったわ。コンビニ弁当の空も散乱、服は床に投げっぱなし。……ここに人間住んでるって思う人、いないんじゃない?」


[//SE] ガサガサとビニール袋を広げる音


「とりあえず、ゴミまとめるよ。お兄さんは袋広げて。……そうそう。私は片っ端から突っ込むから、しっかり持ってな」


[//SE] プラスチック容器が袋に落ちる音、ペットボトルがカランと当たる音


「ふふ、この音、耳に残るでしょ。ただのゴミの音なのに、妙に落ち着かない? ……人間って、繰り返す生活音で安心するんだってさ。ほら、お兄さんも少し肩が抜けてきた」


「はい、袋ありがとうございましたってね。大きいのは片付いたね」


「次は服……って、……うわ、しわくちゃ。こんなん、着たら余計疲れるでしょ」


[//SE] 布を掴む音、バサッと広げる音


「ホントは洗ったほうがいいんだけど……わかった、わかった。明日も着るのね。今からじゃ乾くか怪しいからとりあえず畳もっか。こうやって、手のひらで伸ばしながら畳むんだよ。……パタン……ってね、簡単でしょ」


[//SE] 布を畳む音、重ねるときのトンとした小さな音


「床も埃だらけ。掃除機とか……あるわけないか。非効率だけど、拭いていくしかないね」


[//SE] 水道から水が出る音 絞る音


[//SE] 床を軽く拭く音。キュッキュッとリズムよく


「ほら、見て。隅から順に拭くの。無計画にやるとホコリが散らばって舞うだけだから。こうしっかりとね」


「うーん、きれいになっていくと気分がいいね。あ? 」


[//SE] 窓を開ける音、風がふっと入りカーテンが揺れる


「換気もしとく。……ほら、空気が変わったでしょ? さっきまでの淀んだ匂い、少しは抜けたんじゃない?」


[//SE] ごみ袋をぎゅっと縛る音


「はい、ホコリもある程度捨てて……第一ラウンド終了っと。……一袋が一瞬でこれだもん、相当ため込んでたな。……お兄さん、ちょっと顔がすっきりしたじゃん。部屋が片付くと人間って表情も変わるね。うん、そっちの顔の方がいいよ」


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