感情ぐっちゃぐちゃすぎて整理できないんだけど!?!?

 ド派手な雷撃で敵機を一掃し、私のカリスマは頂点に達していた。

 ああ、これよ……この賞賛される空気! 最高すぎて、全身の毛穴から魔力が溢れてくる気がするわ!!


 ……まあ、気がするだけなんだけど。


 その時だった。


「ッ……あれは――」


 戦場の奥から、どすん、どすん、と重たい足音。

 砂煙を割って現れたのは、明らかにスケールが違う“真打”の敵。


 全身を重厚な装甲で覆い、しかも巨大な魔力バリアを張ったまま、悠然と歩みを進めてくる。

 砲撃を受けても、雷撃を浴びても、かすり傷ひとつつかない。


「……ふん、こざかしいわね」


 私はマントを翻し、雷速で一気に駆ける。

 空気がバチバチと震え、私は白兵戦の間合いへ――ッ!!


 ガキィンッ!!

 ――しかし。


 私の雷刃はことごとく弾かれた。


 (うっそでしょ!? なにこのバリア、カッチカチじゃない!?!?)


 剣戟の火花を散らしながら、私は冷静に、天才的な観察眼で相手を睨む。

 そして――見抜いた。


 (……あれだわ!! このバリア、強い攻撃を受けた“直後”だけ、一瞬だけ弱まる!!)


 そのタイミングを狙って、私は大技を解放する。


「――雷撃大砲ヘヴンバスターMk.II!!!」


 雷鳴が大地を割り、紫紺の光が空間を貫いた。

 敵の巨体を包み込み、バリアが一瞬だけ揺らぐ――!!


「――今よッ!!」


 私は全魔力を拳に込め、一気に距離を詰める。

 渾身の雷拳を振り抜いた。


 ガンッ!!!!


 空気が爆ぜ、轟音が鼓膜を焼く。

 巨体がのけぞり、重厚な装甲が罅割れる。


「がっ……! ば、バリアを……突破した、だと……!?」


 敵が動揺する声を聞いて、私は高らかに笑った。


「ふふん! この天才に、不可能なんて存在しないのよ!!!」

 

 私は手を掲げ、全身から奔流のような魔力を吐き出す。

 次の瞬間――


 バリバリバリバリッ!!!!


 紫紺の雷が、空を埋め尽くすほどに降り注いだ。

 ひとつひとつが大砲のごとき破壊力を持つ雷撃。

 それが連打され、絶え間なく戦場を叩きつける。


 爆音が世界を震わせ、光が大地を焼き、熱が砂塵を吹き飛ばす。

 敵兵器たちは一瞬で薙ぎ払われ、金属が弾け飛ぶ悲鳴がこだまする。


 「ギギギィィィ――!!」


 「……ッ! ひ、退避――!」


 誰かの声が掻き消されるほど、轟音と閃光が支配する。


 空は真昼のように輝き、夜空のような暗い戦場が一瞬にして白銀の海へと変わった。

 大地を踏みしめていた兵士たちでさえ、恐怖と畏怖で言葉を失う。


 その中心で、私は雷光を纏い、堂々と立ち尽くしていた。

 カリスマの化身。悪の象徴。天才にして唯一無二の存在――煉久紫アーカーシャ。


 そして雷撃の雨を浴びた“真打”は、焼け焦げた装甲を軋ませ、巨体を揺らしながら後退していく。

 その姿は、さながら神罰を受けた怪物。

 私は鼻で笑い、声を張り上げた。


「ふふん、どう? これが私の――天才の力よ!!!」


(よし……これで決まりよ! 悪のカリスマ、煉久紫アーカーシャ様の華麗なフィニッシュシーン!!)


 私は勝利を確信して、堂々と指をパチンと鳴らした。


 ――ピチッ。


「……ッ!?」


 出てきたのは、蚊に刺されたようなしょぼい稲光ひとつ。

 それが敵のバリアにコツンと弾かれて、消えた。


 ――沈黙。


 戦場が、一瞬で凍りついた。

 敵も味方も、魔法少女も幹部たちも、そして私自身すら……全員が同じ顔。


 「……は?」


 私も思わず声に出しちゃった。


(ちょ、ちょっと待って!? 今のは私の大技、トドメの一撃だったんだけど!? なんで“ピチッ”だけ!?!?)


 慌てて魔力の流れを確認する。

 ――スッカラカン。


 (え、えええええ!? 魔力が……空っぽ!?)


 思い返せば……そうだ。

 もともと私は“内在魔力”型。外部から吸収して使うなんて、効率が悪すぎるやり方だし。

 しかも直前まで兵器改良に自分の魔力をつぎ込んで、さらに雷ド派手連打でテンション上げて無駄撃ちしまくったせいで――。


 (うそでしょ!? カッコよく決めるつもりだったのに、残魔力ゼロ!? そんなオチある!?!?)


 その瞬間。


 ゴォォォォッ!!!!


 真打が咆哮とともに、私めがけて突進してきた。

 巨体を揺らし、地を砕き、魔力砲をチャージしながら一直線。


(あ、これ……ヤバい!!!!)


 ゼーベインの位置は遠い。

 イングリットもヴェルトも、間に合わない。

 援護は――ない。


(わ、わたし……終わった!?!?!?)


 心臓がバクバク鳴る。マントの下で足が震える。

 ――悪のカリスマ、まさかのここで退場!?


 ――だが。


 ドンッ!!


 私の目の前に、誰かが飛び出した。

 土煙を裂いて立つその背中。細い体に、不釣り合いなくらい強い光をまとって――。


「……アーカーシャさんは、下がってください!」


 ……魔法少女!?

 さっきまで膝をついてボロボロだったはずの銀髪の子じゃないの!!?


「え、ちょ、あんた何やって――」


 言い終わる前に、その子は顔を上げて、ぎゅっと拳を握った。


「アーカーシャさん見てたら、なんとなく分かりました!」


「……な、なにその“なんとなく”ってぇえええええ!!??」


 頭がぐらんぐらんした。

 いやいやいや!!? “なんとなく”って何!?

 私が命懸けで、天才的観察眼を総動員して、何十秒も必死に分析した結果を――!?

 それをあんた、ノリと直感で済ませるわけ!?!?


(ちょっと待って!? 私は理論派よ! 超知能派よ! カリスマよ! それを「なんとなく」で追いつかれるとか天才の立場ないじゃない!!!)


 でも……でもね。


(……助かった……! マジで死ぬかと思った……)


 胸の奥に、ズキュンと妙な感情が突き刺さる。

 安堵と混乱と、理不尽な敗北感と、ちょっぴりの感謝……?


(ちょ、感情ぐっちゃぐちゃすぎて整理できないんだけど!?!? 私の中身いまカオスすぎ!!)


 私はもう、怒りと困惑と安堵がぐるぐる回転する中で、ただ口を開けたまま立ち尽くしていた。

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