悪役のくせにノリノリな私、煉久紫アーカーシャ様――ここに誕生よ!!!




「みじめじゃないの?」


 プラン変更!

 私はゆっくりと立ち上がって、やつら――元・侵略者たちを見下ろす。

 ああ、久しぶりのこの視点。高いところから見下ろすって、ほんと気持ちいいわね!


 でも、私は笑ってなかった。いや、違う、笑顔ではいたけど全然笑ってなかった。

 そのくらい、腹が立ってたのよ。



「あんたたちさぁ……プライドとか、もうないわけ?」


「……は?」


 ゼーベインが顔をしかめるけど、それに構わず私は続ける。


「かつては世界を震撼させた“誇り高き侵略者”が!!! 今じゃただの一般市民のフリして、のほほんと暮らしてるだけ!?!? スーパーの特売でテンション上げて、犬にビビって道を譲る侵略者??? ……あっははは!!! 何それ、ちょっと冗談みたい!!! そんなことで満足してるなんて、私、心の底から驚いたわ!!!」


 そう、これは煽りでもなんでもない。

 ただの――事実。

 彼らは確かに負けた。私たち――魔法少女に、ね。

 でもさ、そこから何もしないでうずくまって、尻尾巻いて生きるだけ?


 それ、どうなのよ。


 こっちはね、あんたたちを“もう一度使ってあげよう”って、わざわざアジト作って、名前まで考えてあげて(←ここ重要)、演出もバッチリ整えたのに!


 その反応が「なんでお前がボスなんだよ」??


「看板が手書きだった」???


 あーもう、アホかお前ら! 私が手書きで書いたんだから逆にプレミアだろ!


 いい?

 私、煉久紫アーカーシャ様は――「ちやほやされたい」その一心で、あんたたちをもう一度戦わせてやろうって言ってんのよ!?!??!

 少しは感謝しなさい!!!



 侵略者たちの表情が、見るからに険しくなっていった。


 ――ふふん、効いてる効いてる。


 だって私、事実しか言ってないもの!

 あんたたちは確かに負けた。

 そこはいい。戦いに勝ち負けはつきものよ。うん、わかる。悔しいよね。泣いていいよ?


 でもさ――「負けた後、どう生きるか」ってとこ、なんにも考えてなかったでしょ?

 今やただの“隠れ市民”。

 世を忍び、人の目を避けて、地味~に暮らしてるだけ。

 スーパーの半額シール見て喜ぶ程度の存在になってんのよ?


 なにそれ、マジで。

 で、そんな自分たちの姿を――この私、かつてのヒーロー様に笑われたわけよ。

 そりゃ、悔しいわよねぇ? ねぇ???


「おい、テメェ……」


 低く唸ったのはゼーベイン。あら、まだ言い返す元気あったのね?


「そういうテメェはどうなんだ? “元魔法少女”って肩書きにすがって、ちやほやされて満足してるんじゃねぇのか?」


「は? 私が?」


 私は鼻で笑ってやったわよ。どこの誰にそんな薄っぺらい妄想吹き込まれたの?


「“満足してる”? いやいや、全ッッ然足りてないわよ?」


「……は?」


 いい? ここでちゃんと説明するから聞きなさいよ?


「だって、ちやほやされるのが足りないから――」


 私はバァン!と胸を張って、堂々と宣言してやった。


「こうして、私が新・悪の組織――エターナル・カオス・システムを立ち上げに来てるんじゃない!!!!!」 


 ……沈黙。


 みんな揃ってフリーズ。よし、インパクト抜群。完璧なセリフ回し!



「…………はぁ!?」



 おい誰だ今叫んだの。いや、全員か!!!

 ちょっと、いい感じにクールな空気出してたのに!!!!



「バカじゃねえの!?」


「ちょっと待て、そもそも何言ってんだお前!?」


「結局それ“自作自演”じゃねぇか!!!」


 はいはい、全部想定内のリアクションよ。


「でも、“ヒーロー”が活躍するには“悪役”が必要でしょ!?」


 私はビシッと指を突き立てて力説する。


「なら、悪役は“私がコントロールできるやつら”がいいじゃない!!」


「なんて都合のいい……!」


 ああうるさいうるさい!

 ヒーローが称賛されるには“舞台”が必要なの!!それを私は構築してるの!!!

 つまり私は「全人類に感謝されるべき」ってことよね!?!?!?!



「……はは、バカバカしい」


 ゼーベインが呆れ顔で笑った。

 わかってる、わかってるわよ。自分でも突拍子ない提案だってことは!


「なら、こんな話に乗る奴なんかいねぇよ」


 ――よし、ここからが本番。


 私はにっこり笑って、一歩前に出る。

 顔の角度、声のトーン、完全に“悪のカリスマ”モード。演出は完璧よ。


「……そう? じゃあ、"利用する"ってのはどう?」


「……利用?」


 引っかかったわね! ゼーベイン、あなたってほんと素直!


「そうよ。私が率いる“悪の組織”として活動して、思いっきり強くなりなさい」


「お前を倒すために?」


「そうよ。そして、もし私を超えられたら――」


 私はふふんと笑って、ゆっくりと口角を吊り上げる。

 完璧な“黒幕スマイル”で決め台詞。


「その時こそ、“本物の悪”として、世界を蹂躙すればいいわ」



 ……どうよ、この完璧な流れ!


 我ながら天才的なプロット運びじゃない!?!?!?


 ――その瞬間、空気がピリッと張り詰めたのがわかった。

 私のこのムチャクチャでご都合主義で支離滅裂な提案が――奴らの心を確実に揺らがせてる。

 そう。再び“かつての自分たち”として立ち上がるチャンス。

 そして最後には私を叩き潰して、世界を征服する。


 ……あー、やっぱり敵役って最高じゃない!?


「……ははっ」


 その時、ゼーベインが笑った。


「……あっはははははは!!!!」


 完全に吹っ切れてる笑い方ね。うんうん、悪役っぽくてイイ!


「いいだろう!! お前をぶっ潰すために、利用させてもらうぜ!!!」


 その言葉を聞いた瞬間、私はバッとコートを翻した。


「そうこなくっちゃ♡」


 悪役のくせにノリノリな私、煉久紫アーカーシャ様――ここに誕生よ!!!

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