それは月暈(つきがさ)が描くように優しい世界…とかいうエモいロマンがあると思うか馬鹿め!
褄取草
第1話 右上に!?
ガタガタガタ…
『ちょっと聞いてください皆さん…
隣の兄の部屋から奇妙な声が聞こえたんですよ…この深夜に差し掛かる手前の時間で怪現象ですよ…
私、確かに「あーーおいしい!」って声が聞こえたんですよ兄の部屋から…それも兄以外の声で、ですよ!?女の子のような声で、美味しいってなんなんだよ!!!何が美味しいっていうのよ!!!ひょっとして人肉か!?人肉美味いですか!?カユウマですか!!??』
ブルブルブル…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
お!?発見!!
姫、あの娘が見えますか?心の声が聞こえていますか?
ほら、あの一人でパニックになっている中学生女子…見ていて実に痛い子が。自分で実況しながら突っ込んでますね。ん~?あらあら、生まれたての小鹿の様に足がガクガクしながら硬直してますね…
名前は…【白上夜風(しらがみ よかぜ)】らしいですね?
あーえーっと、彼女の現在の場所は…少々田舎の住宅地の一軒家の二階のあの部屋。今の時間は21時を越えた頃。
壁一枚挟んだ先の次兄の部屋から変な声が聞こえてきた事で、ここから物語はスタートですよ『彼女と姫様の』!さあ、参りましょう!!
‥‥‥‥ボソボソ
…え?スタートを放棄…ですか?マジですか?後悔しますよ??
‥‥‥‥ボソボソ
残念です…実に残念です!これがラストチャンスかもしれませんよ?いいんですか??お願いします!どうかこの子にお決めくださいって!ほんとマジで!!(土下座)
‥‥‥‥ボソボソ
…はあ、「私にも選ぶ権利はある」ですか。…とか言ってもう何年お役目を果たしていないんですか?
何年、お役目を、果たして、いないんですか!?
この子!確かに痛い子…ゴホン、ちょっと『弱い子』だと思うんですが、やれば出来る子なんです!?
ほら、『彼女の中の今は空席になっている部分』、見えます?この子のポテンシャルの高さを!現代日本には珍しいレベルですよ!本来彼女に収まる筈の大きな力が今はガッポリ空席なんですよ!?こんなだだっ広い優良物件…優良…
‥‥‥‥ボソボソ
「ほらアンタもドモるじゃない、評価に!」ですか…すみません嘘をつく機能がついてませんので私…
‥‥‥‥ボソボソボソボソ
え?「だがこの子、この家の家族では最弱」ですか?どっかの四天王への評価じゃないですわよぅ!!
もーうーいーいーでーすぅーーーー!わーかーりーまーしーたぁー!!
私、姫にはガッカリしました!!!それはもう心底ガッカリしました!
『私だけが彼女に憑りつきます』からね!!『姫は間(はざま)』で見物していてください!女中の私だけでやり遂げてみますからね!!!私に変な誤作動があっても知りませんからね!!!
姫のばーかばーか!うわーーーーーーん!(号泣)
‥‥‥‥イッテラー
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ってビデオ通話か~ビックリしたなあもう」
恐怖に耐えて兄の部屋の様子を見に行った私はどうやら勘違いしていたらしい。
兄の部屋から聞こえてきた声は、兄の幼馴染の姉とビデオ通話で話していた声だということだった。
(実に迷惑…)
てっきりオバケの声だと思っていたけれどやっと安眠できそうだ、と私は盛大に息を吐いて自分の部屋へと戻った。自室の扉を開けると机にはライトが点き、今は学校の宿題の途中だったと思い出して今度は深いため息が出た。
「ん~~~里美に宿題を見せてもらおう~…いや、だめだって。ちゃんと自分でやろう。うん、そうしよう」と私は両手で頬を叩き眠い目を覚まし机に座った。
…でも眠気が飛んでもやる気は出ないのが残念でしかたがない。頬は痛いだけ損だな、次回からは叩くのを止めよう、自虐反対!と思った。
ボソボソ
(お兄ちゃん、まだ喋ってるんだ。サッサと寝なきゃ体壊すって。今日だって結構バテバテの状態だったじゃない…高校大変なんだろうな~入学一ヵ月目だし。って私も中学生一ヵ月目ですけどね!)
私は白紙のノートを眺めながら、壁越しに未だ小声で喋っている兄の声が聞こえてきては兄の体調をちょっとだけ心配していた。すると…
キーーーーーーン
(あれ?耳鳴りかな?さっきお風呂で耳にお湯が入った…のかな?)トントン
ギーーーーーーーーーーン!!
(んんん?なんだかさっきより音が大きく‥‥)
ドゴーーーーーーン!!!
「ギャフウ!!!!」
轟音と共に頭部に猛烈な衝撃が走る!ついでに変な悲鳴も口から飛び出した!
そして衝撃によって私の頭部は壁側に吹っ飛ばされた、体ごと!!
下記の用に↓
(私の頭ビフォー)―移動距離→(私の頭アフター)|壁(次兄部屋の壁にクラッシュ!)
盛大に壁ドン(頭部)をかまして
「ギャン!!」
と第二の奇声が口から漏れた!流石に元気な女子中学生とはいえ痛いからコレ!!!ってか何が当たった!!??などと思ったときには意識が白くなっていった…
・・・・・・・・・・・
チュンチュン
耳にスズメの朝の朝礼が聞こえるが目を開けるのが辛い。そして頭が痛い。
(朝か~…朝からスズメは元気だな~私頭痛い~休みたい~でも朝練遅れるのはいやだなあ)
と思っていると耳元で ピピピ と目覚まし時計が鳴り響いた。私は痛みがある頭を摩りながら目覚まし時計を手探りし警報を止めた。すると隣の部屋から
「ってめえ!カサ!心臓に悪いぞ!!」
と次兄が叫ぶ声が聞こえた。
(はあ?お兄ちゃん何言ってんだろ?傘?雨がふってんの?…って明るいじゃない)
とやっと目を開けることが出来た私は窓にさす朝日の明かりを目に取り込んだ。ついでに机の上にある未完成の宿題も。
「ふあ~…って私、昨日…うは!宿題出来てない!ってもう時間ない!でもお腹は空いた!!」
朝から色々一杯一杯になりながら「昨日何で寝たんだっけ?」と頭を撫でつつ朝の支度を始めた。
「里美~宿題見せてくださいお願いします!!」と空欄ばかりの問題集と白紙のノートを鞄に入れながら友人へのお願いを練習し、急いで一階のリビングに向かった。
・・・・・・・・・・
「おはよーー!」
私は一階の台所に入ると大きな声で朝の挨拶をした。
台所では次兄と祖母が朝食を作ってテーブルに並べているところだった。実にタイミングが良い。流石おばあちゃん!ついでにお兄ちゃん!と心で感謝しつつ食卓についた。私が椅子に座るのを見て二人も自分の席に座って「いただきます」と手を合わし朝食が始まった。
…始まったのだが、さっきから変だ。
何が変だというと、私が【次兄の裕也(ゆうや)】を見ると、視界の右上に何か円形の靄が見える。温かい光を放つソレは向こうが透けて、視界の邪魔になるようではないのだけれど…違和感の塊だ。
(飛蚊症ってやつ?それとも朝日が目に入って残ったやつ?)
と私は首を傾げ見方を変えたのだが、やっぱりソレは消えなかった。
んんんん?と思っていると次兄の裕也は「どうした?」と不思議そうな顔をしていたので焦って言い訳が口から洩れた。
「お、お兄ちゃん、朝、元気があるのは良いことだけど、流石にうるさかった」
私にしてはナイスな言い訳だ!100点!と心で思った。すると祖母がその意見に同意したらしく
「近所迷惑だから朝は叫ぶもんじゃないよ裕也!あたしゃ心臓が止るかとおもったね!」
と追撃してくれた。おばあちゃんナイス!
すると裕也は
「悪かったって!昨日の猫が部屋に居たんだよ!びっくりするって!ベッドの下から出てきた時には心臓が止ったわ!全部猫が悪い!」と説明してくれた。
野良猫が部屋に入っていたらしくビックリしたらしい。「それはビックリするよね」と私もウンウンと頷いて目の前の朝食を只管口に放り込んでいく。のんびりする時間など朝にはないのだ。でもお腹いっぱい食べなくてはと空になった茶碗を兄に差し出し「おかわりー!」と叫んだ。裕也は「へいへい、俺が悪うございました~」と言いながら大盛のご飯をよそおってくれた。
(やはっぱり裕也お兄ちゃん!【大和お兄】とは違うね!優れた弟なんですよ裕也お兄ちゃんは!兄より優れた弟なんですよぉ!!)
この場にはいない不愛想な長兄と優しい次兄を勝手に比べながら、手渡されたホカホカ大盛ご飯をニコニコ顔で掻き込んだ。
そんな次兄をもう一度チラッと見たのだけれど、やはりあの光る輪(?)はそこにあった。
(これなんだろな?おばあちゃんには…無いよね?ん?あるのかな?無い、かな?)
と祖母の右上を見るのだが、やはり何もない。再び私は首を傾げるたのだけれど、事態は改善しなかったので…無視することにした!時間がないしね!!
急いで残りのご飯を掻き込み「ご馳走様!」と挨拶をしながら鞄と運動部の服が入ったバッグを手にした。
「こら【夜風(よかぜ)】!ちゃんとご馳走様の挨拶をしな!まったくお前って子は!」
と祖母が私の名前を呼び小言をいったけれど、ごめんおばあちゃん!遅刻する!!と心で謝りつつ玄関まで走り
「行ってきます!!!」
と叫び家を飛び出し、玄関先の自転車置き場に走った。
(…までは良かったんだけどな…普通の一日の始まりだったんだけどな~…)
なんで私の自転車のサドルの上に
『悦った顔しながらI字バランスをしているメイド』
が居るのよ!!!
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