006 わんこラーメン

「とってきたよー、はいこれ。面接のための質問一覧」




 いきなり目の前に僕が出てきたからかびっくりした顔をしている執事君に、僕は書類の束を投げかけた。






 並行世界の銀河を破壊してしまってから、僕の体感時間では数時間が過ぎた。


 さっさと面接の資料を探して現世に戻りたいと思い、超特急で作業していたものの。途中で変にテンションが上がってしまい、「どうせなら全部破壊したんだし僕の秘密基地とかそんなの建てちゃおー」と奮発した結果、結構な時間を並行世界で消費してしまった。


 おかげで腹ペコである。


 


「ねえねえ、ご飯って食べれる?」




「え?今ですか...あー、まだ三時なので夜ご飯はまだですね――」




 ――ぐうううぅうう




「おっと失礼。ちょっとお腹がすきすぎて」




「...食べ歩きでもしてきたらどうです?夕飯が食べれなくならないならお金も出してくれると思いますよ?」




「...いってくる」




 ここは東京。


 日本の首都なんだし、屋敷の近くでも少しくらい食べ歩きとかできるところはあるんじゃないかな。




 そんな淡い希望を抱きつつ、僕はお金をたかりに行くのだった――






――――――――――――






「うーん、店がありすぎてどこがおいしいんかわからん」




 運よく元春くんが家にいたので、取り敢えず1万ほど強奪してきたのはさっきのこと。


 さっそく東京の食べ歩きスポットこと浅草に来ていた。


 あ、ぶんどったお金の対価としてもちろん対価として異世界の宝石を置いてきたよ。この世界で何円になるのかはわからないけど、少なくとも僕の世界では一般の魔石として扱われていたダイアモンドごときが高級宝石として扱われている世界なんだ。


 たぶん10万円くらいはゆうに超えるだろう。純度99%なんだし。




 さて、そんなお金のことに関しては置いておくとして。


 あたりを見渡すと色とりどりの看板を立てたお店が所せましと並んでいる。


 キャッチもいっぱいいるし、いっちょ僕に話しかけてきた人のお店にでも行ってみようかな?




 ...うむ。全く声がかからない。


 一応、今は3時ごろ。遅めの昼ごはんかおやつの時間帯。


 周りに見えるキャッチさんたちはいろんな人に話しかけているのにどうしてか僕には話しかけてこないでいた。


 えぇ、これが見た目年齢の弊害かな?一応二種類の戸籍――お酒の無用の成人確認用の戸籍と学校潜入用の高校生戸籍――を用意してもらってるんだけど...それでも、見た目というものは人を判断するときにおいて大部分を占めるらしい。




「うーん、キャッチに期待するのはだめか...」




 どうやって店を選ぼうか。


 特に何が食べたいとかの希望はないし...よし!




 ポケットから支給されたスマホを取り出す。




「Hey Seri!近くのラーメン屋さんを教えて」




 困ったときはAIである。


 僕の世界で言う自立型ゴーレムくんで、たぶんこの世界のAIはそれよりも知能がある。


 便利だよね、Seri。すぐに要望通りのお店を調べて教えてくれるんだから。


 もうSeriがいなきゃ生きていけない体になっちゃったよ。




 そんなことを考えながら、うつされた候補をスクロール。


 僕の場所から一番近いラーメン屋さんでいいかなと、候補を探していると、一つのお店が目に入った。




「うーんと?わんこ...ラーメン?え、わんこそばのラーメンバージョン?何それ面白そう」




 それは、わんこそばのラーメンバージョンというもの。


 ただせさえおいしい日本のラーメンを無限に食べれ――なんと、20杯を超えると


 ラーメンいっぱいの平均値段は約720円くらい(2025平均)。


 そして、もしこのチャレンジに成功すれば720 × 20で14400円分お得することになる。え、なにこの魅力たっぷりのチャレンジ。そんなの、挑戦する以外ないじゃん?...背も高くなりたいし。




「それじゃあ、そうときまれば速Goだね!」




 おっとしまった。大きな声で呟いちゃったせいで周りの人の目が集まっちゃった。...あぁ、ほとんどが外国人だね。


 日本人の中でも主に関東に住んでる人、あまりにも奇人に慣れすぎてて叫んでも反応しないの、これちょっとおかしいと思うんだ。




 そんなことを考えながら、僕はラーメン屋へと足を進めるのだった。


 ちなみに迷って20分くらいは消費した。まさかの裏路地にあるとは思わんやん?






――――――――――――






「おかしいでしょ?!なによこの量、普通こんなの食べれないわよ?!?!」




 店に入って最初に聞こえた声は、それだった。




「あっ...入る店間違えたかも」




 入店して最初にこんなクレームが大音量で聞こえてくるお店。


 入った瞬間判断を間違えたことを悟り、外に出ようとするものの――






「――へいらっしゃい!ご注文はわんこラーメンかな?」




 外に出るためのドアノブに手をかけた瞬間、僕の前に「ラーメン命」と書かれたはちまきをつけた男性が躍り出た...というよりはタックルしてきた。




「あっ、ハイ」




 つい、その勢いにおされ肯定してしまう。


 男性――たぶん店長――の後ろを顔を赤くした女性がヒスりながらもついてきている状況に困惑しながらも、僕は席に案内されてしまった。


 まさかの個室で、ドアには鍵付きである。なにこれ?今から何が始まるんだ...?




「じゃあ、ルールを説明するよ?」




 店長がそういいながら何かのスイッチをポチっとする。


 大変ここちの良い「カチッ」という音が鳴った。そのスイッチ、ポチポチするように僕も欲しいかも。ボタン押すの、好きなんだよね。




 ――ガガガガガガ




 すると、大変耳ざわりな何かがこすれるおとをならしながら壁の一部に穴が開く。「しゅるるる」と、そこから太いチューブが出てきて、店長がどや顔をする。


 ここで腕を組んだらよくラーメン屋にあるポスターそのものである。


 こっそり写真を撮っとこう。始めたんだ、SNS。「異世界賢者」って名前で。このおじさんの写真乗っけたらフォロワー増えたりしないかな。




「さて、今このチューブが出てきただろ?ここからどんどんとラーメンが流れてくる。こぼしたらアウトだ。その時点でわんこラーメンチャレンジ終了。そのときは20,000円払ってもらうぜ」




「え、まって高くない?」




 僕が今持ってる所持金、一万円なんだけど...宝石で手を打ってくれないかな?近くに質屋...うん、あるわ。最悪そこで換金するしか。


 手持ちのダイアモンドをすべて売るくらいの覚悟は持っとかないとね。値崩れ?知らんがな。僕には関係ない。




 そんなことを考える僕の顔を焦っていると勘違いしたのか、店長らしきおじさんは僕に問いかけてくる。




「そりゃあそれくらいせんと俺は儲からんもの。どうした?持ち合わせが足りないとかあったか?入店料として5000円はもらうが今のうちに出とくか?」




「何そのぼったくり?!」




 どうやら僕は、入る店を間違えたらしい。最初から察していたけど、たぶん多すぎるとか叫んでた女性も無理やりチャレンジさせられたんだろうなぁ...こんな条件出されたら「ハイチャレンジします」以外の返答できないじゃん、相当な金持ち以外。5000円はでかいって。




「ふっ、どうする?チャレンジをしてくれるんだったら入店料は除外だぜ?」




 ニヤニヤニヤニヤ...趣味が悪い笑みで見つめてくるなぁ。


 ...はぁ、しょうがない。




「やるよ、もし達成したらちゃんと無料にしてよね?」




「そりゃあ、この店のルールだからな」




 あとで、この店警察に通報しとこうかな。


 ぼったくりよりもやばいことしてますっていえばつかまったりするでしょ。




 そこまで考えたところで、店長が紙を差し出してくる。




「ん?...契約書?」




「あぁ、ここで会ったことは誰にも話しませんという契約書だ。ちなみにこれにサインしないとこの店からは出さないぜ」




 にやっとサムズアップ店長君。


 なんだろう、本格的に殴りたくなってきた。


 しかもなに?なんでこんなくだらない契約書にが適応されてるの?...あぁ、聖遺物アーティファクトか。


 この国もあるんだね、バチカンに集まっているとか言われてたからてっきりこの国にはないのかと思っていた。




 怒りを関心が上回り、ついついサイン。


 僕に”呪い”が付与されたのを感じたけど...残念なことに、割と簡単に解呪ディスペル可能だ。




「よし、それじゃあ頼むよ」




 解呪した僕を見て目を見開いた店長に、僕はそういった。


 どうやら、この店長も神秘の力を認知できるようである。


 さては僕の【虚空記録層】、役に立たないな?神秘を使える人、割といるじゃないか。




 とまぁ、そうして僕のわんこラーメンチャレンジが始まるのであった。


あとがき――――

ちなみに虚空記録層、こいつは神の領域に片足踏み入れてるため神視点での情報が与えられます。

神にとって数十人とはほぼ存在しないも同義なんだぞ☆

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