その妄想、僕の脳内で音漏れ中です。~心が読める僕と、声フェチ妄想ヒロインの君~
弓葉あずさ
01 言うほどいい声じゃないと思うけど
夕方と言っても差し支えない時刻になろうとも、日差しの強さが衰えない夏まっただ中。
無心にキーボードのキーを叩きつけながら僕は溜息をついた。
夏休み、空調の壊れたゼミ室でレポートをやっている物好きなんて僕くらいのものだった。
開け放たれた窓からは蝉の合唱がうねりとなって絶えず飛び込んでくる。
年々蝉の声を聞かないだの弱々しくなっているだのとネットニュースで見かけるが、この辺は都心の割に緑が多いからか、未だ元気に儚い命を輝かせているようだ。
「あっつぅ……」
滴ってきた汗をぬぐって、大きく伸びを一つ。
どうしてこんな過酷な状況で粛々とレポートをやっているのか。
それは僕――
物心がついたころには聞こえていたし、両親にそんな能力はないようなので、理由はわからない。それでも確かに僕には人の心の声、考えている言葉が脳に響くように聞こえるのだ。
大なり小なり便も不便もあった。
だが、幸いなことに人間不信にはなっていない。両親が細かいことは気にしない性格なのもあっただろう。環境や人に恵まれてもいただろう。むしろ上手く立ち回れてきたと思う。
だからそこまで大きく困ったことはなかった。
強いて言うなら、図書館みたいな空調の効いた快適な場所で勉強すると多くの雑念がなだれ込んでくるので、こうして人の少ないゼミ室に通うはめになっていることくらいだ。
家の前の工事がうるさくなければ、まだ、自室で頑張ろうと思えたのだけど。
「どうぞ」
カラリと氷の涼しげな音が耳に届く。
顔を上げると、同じゼミに所属する、
盆には麦茶が入ったコップが二つ乗っており、その内の一つを差し出してくれる。
まさか物好きが僕以外にも増えるとは。
「ありがとう、白川さん」
「ううん、お疲れ様。精が出るね」
楚々とした声と笑みで、白川さんは自分にも用意した麦茶に口をつける。
僕も「でも全然進まなくて」と苦笑しながら、ありがたく麦茶に口をつけた。
冷えた麦茶が心地良く喉を通っていき――。
『はあ……っ。いい声だなあ響野くん……っ』
脳に響いた恍惚とした声に咽せそうになる。
僕は人の心の声が聞こえる。
それで多少辟易することはあれど、大きく困ったことはなかった。
なかった――今までは。
僕は最近、この白川芽衣さんに大いに困らされている。
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