鉱石生命体になりましたが大地に立てません。

ようよう白

第1話 アレだよアレ。

 その鉱石生命体は、ゆらめく光の中で意識を取り戻した。


 記憶の奥にちらつく人間の言葉──「足」。


 それは体を動かす何か……のはずなのに。


 「……『足』ってなんだっけ?」


 「足って、あれやん!」


 「……なんじゃこりゃ――!」


 自分の結晶の突起を、なんかこ~いい感じにアレしようとするけど、水晶のようなつるんとした結晶の体は動かない、けっこう透明度高いな~なんかちゃうなぁ~と転げ回ろうとするけど動けない。


 自分の体が結晶ってのは分かるけど、全身がなんか違う、ゴロゴロもできないし


「足ってなんやねん!」


 と大声で叫んでしまう。


 その横で、同じく生まれたばかりの黒曜石のような鉱物生命体が、当たり前のように空中に浮かんだ。


「ねえ、そんなのに埋まってないでさ」


 なんかすごく優しい声(?)が伝わってくる。


「重力場に干渉して動いてみなよ」


 俺の脳みそ(※無い)に電撃が走る! 水晶の体をキラリと瞬かせながら期待を込めて黒曜石を見る。


 「俺、できるん?……え、そんなことできんの!?」


 と目(※無い)を丸くしながら聞いた。

 

 「うん、みんなできるよ」


 黒曜石が答えているのを聞きながら周りを見てみると、あっちもこっちもで結晶体が浮かび上がっていた。


 「空に浮かんだ宝石箱みたいだ」


 幻想的な世界を見ていると、よっしゃ俺にもできると根拠のない自信がみなぎってくる!


 意識を集中する……念じる……祈れ! 灰をまきあげるように俺の体はヨロヨロと宙に浮かび上がった。


 「……え、え、浮いた!? なにこれめっちゃ楽しい!」


 ひゃっふ~と浮かんでいた俺だが、ちょっと冷静になる。


 俺は、足で大地に立ちたいんだ。


 てなわけで、なんとなく俺よりも物知りそうな、みんなに聞いてみる。

 

 「俺……足で大地に立ちたいんだ!」

 

 水晶のような結晶の体をキラキラ震わせながら、俺は、決意を込めて叫んだ。

 

 黒曜石や他の仲間? は一瞬フリーズしたあと、宝石のような結晶をキラキラと光り輝かせてから、ぶわっという感じで思考の洪水を送ってきた、おーぼーれーるー。


 俺の許容量を超えちゃったので、まとめるとこうなる。


 『なに言ってるの? 変な電磁波でも浴びちゃった? おいたわしや……』


 「ちっちがう! 俺は、ちゃんと『足』ってやつで──この星に立つんだ!」


 「足だけじゃない! 俺は――体を手に入れるんだ!」


 俺は、水晶の体をピカピカさせながら、決意に満ちた声を放った。


 『……』

 

 仲間達は、キョトンとした雰囲気のあと、黒曜石が代表して、生暖かい感じで語りだす。


 「……あのね、あんた、もう立派な体あるよ」


 おおぅ、なんか、なにかが違う。


 「俺の言う『体』は……こう……なんかこう……」


 俺は、言葉を探して結晶の体を不規則に光らせることしかできなかった。


 「体ってのは、その、アレだよ!」


 結晶の体を、ふんふんと振り回しながらボディランゲージでどうにか説明しようとする。

 

 「頭があって、腕や足があって、指があって……自分の思うように動くんだよ!」


 しばしの沈黙、なんかすごくソワソワする。

 

 黒曜石が動きだす。


 「うーん……もしかして、こんな感じ?」


 黒曜石はクイッと重力場をねじり、地面の砂をふわりと巻き上げ整形していく。


 舞い上がった砂は、渦を巻きながら一つの形を創る──古典SFに出てくるタコのような火星人だった。


 「……えっ、すごい技術! すごいんだけど違う! もっとなんかこう近いけど近くなくて、そうじゃなくて! なんかそれっぽいのがね!!」

 

 俺は、目をグルグルさせながら、タコ火星人の周りを回った。


 「それは置いておいて、話かわるけど、それって俺もできるのかな?」


 尖った結晶の先で、タコ型宇宙人をツンツンしながら聞いてみる。


 黒曜石が、結晶の奥でニッコリとほほ笑んだ気がした。


 「うん、できるよ、 同じ鉱物種なんだし」


 「まじか! やったぜ!」


 俺は、全神経を砂に注ぎ込みながら……

 

 「人型……人型……!」


 と必死に念じた。


 だが、記憶の奥に残る“手”や“指”の感覚が、動きを混乱させる、重力場に対しての干渉がうまくいかない、この指の先から腕が生えて足になった体を動かすような別次元の感覚。

 

 砂は腕になりかけては崩れ、脚になりかけては倒れ──時間は無常にも流れていく。



♦♢




 「俺は、う、うぅ……も、もうっ!」


 造形の才能が無いというか、それ以前の状況に落胆した俺は、諦めて地面に結晶の先端を突き刺し、『人型』の絵を描き始めた。


 砂に線を引く俺の行動を静かに見守っていた黒曜石は、黒く透明な結晶をきらめかせながら、「興味深い行動」をしている固体がいると感じ、同族すべてへ映像として共振通信を行った。


 タイムラグなしに同族に伝達できるこの通信は、種族全体から強い好奇心が集まった。


 星系内からの反応は。


 《おい見ろよ、新しいのが『足』とか言うのを作ろうとしてるぞ》 《奇怪だな》 《初めての感覚だ》


 星系外は、似たようなモノを見たことがある固体もいるらしく。 


 《炭素系で、こんな感じになったのいなかった?》 《なんか柔らかそうなのいたよね》 《すぐ動かなくなって消えちゃうよね~》 《ね~》


 外の世界を知らない鉱石たちは、俺が描いている『人型』の上下さえ理解できない、そもそも俺には絵心が無かった。


 ニョロンとしたナニカを見た固体から質問が来る。


 《これのどこらへんが“足”なの?》 《この細い20本あるのかな?》 《21本あるよ?》


 ゆるい楕円形を描いているのを見た別固体が聞いてくる。

 

 《“頭”ってなんだ?》 《なんだろね?》


 こんな感じで、俺に質問しながら全種族の間で議論が白熱していった。




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