第31話 原作改変開始
決闘が終わってから一週間ほどが経った。
その間に大体クラス内でのグループ分けというものが出来はじめていた。
しかし、そのグループに属せない人間もいた。
俺もその一人だ。
俺はずっとエリンと一緒にいたし、エリンも俺もそれで構わなかったから自然とそうなった。
まあ挨拶のことや決闘のことも大いに影響しているだろうが。
しかし俺以外にもぼっちの奴はいる。
俺の後ろの席のサミュエラと、前の席のユカリだった。
サミュエラは目立たないことを目標としているので、いまだにぼっちだ。
原作では、この後の〈ダンジョン攻略祭〉でユカリやエリンと仲を深めることになるのだ。
その〈ダンジョン攻略祭〉では、俺ヤウェルとユカリ、エリンとサミュエラというメンバーになる。
そして、ムカつく奴だったヤウェルをジゲンが殺し、その後の対決を経て三人の絆が深まる、という寸法だった。
で、ユカリ。
彼女は〈翠弦流〉がうまく扱えないという焦りから、孤独になってしまっていた。
もしかすると俺が決闘で見せた実力も影響しているのかもしれない。
彼女は原作の頃よりも焦っているように見えたし、話しかけられてもほとんど返事すら返さない始末だった。
……まずはユカリを育てるか。
俺は具体的にジゲンを殺す算段を考える。
三ヶ月後に行われる〈ダンジョン攻略祭〉。
これにジゲンは審査員として参加する。
原作ではここでエリンの魔力を吸収し尽くして、第二形態に変化する。
彼は魔族であり、進化形態が存在するのだ。
第二形態の能力は相手のレベルを100奪う、というイカれたものだった。
100以下であれば強制的にレベル1になってしまう。
レベル1の状態だとパリィは確定で失敗になってしまうのだ。
だから俺はこのジゲンとの戦いの前にレベル100を超えることにこだわっていた、というわけだった。
レベルが2を超えてさえいれば俺は100%の確率でジゲンに勝てるからな。
だからまあ、基本的に俺の勝ちは変わらない。
が、俺以外のメンバー……例えばユカリやエリンが死なないように立ち回る必要がある。
彼女たちの能力は今後必要になってくるし、何より原作キャラに死なれるのは目覚めが悪い。
エリンはすでに鍛えてあるから問題ないだろう。
サミュエラも腐っても主人公だ。
死ぬことはないはず。
しかし、一番危ういのがユカリだった。
まだ彼女は〈翠弦流〉の本質に気がついていない。
この状態で第二形態のジゲンと戦ったら100%で殺される。
それだけは避ける必要があった。
なので俺はまずはユカリに接触し、彼女を最速最短で鍛え上げようと思っていた。
すでに俺のレベルは足りているし、ユカリにつきっきりで鍛えるのがいいだろう。
俺はそう思い、前の席で暗い表情をして俯いているユカリに話しかけた。
「なあ、ユカリ」
俺の声かけに彼女は振り返ってこちらを見た。
「……なんでしょうか」
「お前、〈翠弦流〉の本質を知りたくはないか?」
俺の言葉に彼女は一瞬目を見開いた後、苛立つように眉を上げて言った。
「貴方に何がわかるというのですか?」
「俺にはわかる、わかるんだよ。〈翠弦流〉というものが何か。どうすればユカリがその本質を引き出すことができるのか、をな」
俺は不遜に笑ってそう彼女に告げた。
そんな俺にユカリの鋭い視線が突き刺さった。
彼女の握りしめた拳が微かに震えていた。
〈翠弦流〉は彼女にとって一族の誇りであり、同時に今の自分を縛る呪いでもある。
それを部外者、それも入学式で大言壮語を吐いた男に本質がわかるなどと言われ、平成でいられるわけもなかった。
「……戯れ言を。貴方のような力任せの剣士か振るえない人に我が〈翠弦流〉の何がわかるというのですか。私の剣は貴方のそれとは違う」
拒絶と軽蔑が入り混じった声。
決闘で俺が見せた、技を度外視した圧倒的な
それは技をこそ至上とする彼女の信念とは真逆のものだった。
「力任せ、か。違いないな」
俺はあっさりとそれを認める。
その反応が意外だったのか、ユカリはわずかに眉をひそめた。
「だが、お前は勘違いをしている。俺が力で全てをねじ伏せているからって、技を理解していないことにはならない」
俺は席に座ったまま、人差し指でトン、と自分のこめかみを叩いた。
「お前の悩みはこうだ。ーー〈翠弦流〉は魔力を刀身に纏わせ、斬撃そのものを飛ばす流派だと教えられてきた。だが、いくらやっても魔力が刀身に定着せず、斬撃も飛ばない。だからお前は刀を捨てて、不得手な魔術で戦うしかない。違うか?」
「――ッ!?」
ユカリの呼吸が止まった。
彼女が誰にも打ち明けず、一人で抱え込んできた最大の悩み。
それを俺は完璧に言い当ててみせた。
「な、ぜ……それを……」
動揺する彼女に俺は決定的な一言を突きつける。
「簡単なことだ。お前は〈翠弦流〉の根本を間違って教えられている。いや、意図的に間違った解釈を植え付けられている」
「間違った……解釈……?」
オウム返しに呟くユカリ。
彼女の背後、俺の真後ろの席で、サミュエラが息を殺して俺たちの会話に聞き耳を立てている気配がした。
面倒ごとは避けたいはずの主人公も、この特異な会話には興味を引かれたらしい。
「〈翠弦流〉の本質は魔力を刀にまとわせることじゃあない。刀を弦に見立てて、己の魔力を矢として弾き出す技術だ。お前の一門ではその神髄を失伝しているか……あるいは、お前を疎む誰かが意図的に隠しているか、そのどちらかだろう。どちらにせよ、今のままではお前は一生、刀士の面汚しのままだぞ」
「……黙れ」
ユカリの低い声が教室に響いた。
彼女はゆっくりと立ち上がり、その瞳には怒りと……それに相反するように藁にも縋りたいような必死の色が浮かんでいた。
「放課後、第一訓練場に来なさい」
ゆかりが言った。
「ほう?」
「貴方の言葉が真実か、偽りか。私のこと刀で確かめさせてもらう」
それは決闘の申し込みだった。
プライドをズタズタにされ、それでもなお真実を求める彼女なりの精一杯の行動だったのだろう。
「いいだろう。受けて立つ」
俺はニヤリと笑った。
「ただし、条件がある。俺が勝ったらお前は俺の指示に三ヶ月間、絶対に服従だ。俺が、お前のその錆びついた剣技を根本から鍛え直してやる」
「……ッ! 望むところです!」
ゆかりはそれだけ言い放つと、ぷいっと前を向いてしまった。
その背中は怒りに震えているようにも、期待に震えているようにも見えた。
俺の隣でエリンが心配そうに囁きかけてきた。
「ヤウェル様……また決闘ですか?」
「ああ。だが、今度のは少し趣が違う。これは指導だ」
俺は窓の外に視線を戻す。
これでいい。
まずはユカリの凝り固まった常識を真っ正面から打ち砕く。
彼女を〈翠弦流〉の熟練者にまで育てるには、そこから始めるのが一番だろう。
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