第14話 残轍剣
咽せ返るような熱気の中、金属を叩くような甲高い音だけが響いている。
グレンリンは真剣な表情で炉と向き合い、俺の渡した古代竜種の鱗を剣の形に成形していた。
ハンマーを振り下ろし、鱗が変形するたびに、それは徐々に武器としての姿を手に入れていく。
鍛治は早さと正確さが命だ。
まだ熱せられている高温の状態で形を整えなければならない。
俺も以前は鍛治師ビルドでキャラクターを作り、鍛治を嗜んでいたこともある。
まあ俺には合わずに結局すぐに諦めたが。
グレンリンはいくつものスキルを発動し、組み合わせながら素早く成形を終わらせた。
そしてその熱された大剣を今度は一気に冷やしていく。
これは冷却用のスキルを使って一気に冷やしていくのだが、おそらくグレンリンの使っているスキルは一般的なものではない。
その実態は公式資料集にもかかれていなかったから、推測でしかないが、おそらく武器の耐久値などを上昇させるものだと思う。
まあ急冷用のスキルだけではなく、彼の全ての鍛治スキルにおいても一般的なスキルとは異なるだろうし、様々なステータスに付加値が加算されているはずだ。
完全に冷え切ったら、後は研いで少し形を整え直して完成だ。
「……最高傑作かもしれん」
グレンリンは自分の作り上げた大剣を眺めながら呟いた。
俺もそれには同意だった。
ゲーム内で彼の作品はいくらでも見てきたが、それらよりもよっぽど凄みを放っている。
ひしひしと力強さが伝わってくる大剣だ。
間違いなく第一級だろうし、その後の隠しステータスの上限値もおそらく圧倒的に伸び代がある。
「凄いな……これは……」
俺は思わずそう呟いていた。
グレンリン作だけではなく、この世界のありとあらゆる武器を見てきた俺でさえ、そう言葉が溢れる。
それほどまでの出来栄えだった。
「……ここまでのものができたのはお前のおかげだ。感謝する」
グレンリンは達成感と優越感の籠った声で言った。
俺は首を横に振り言葉を返す。
「いや。ここまでのものに仕上げたのは全て貴方の実力だ。感謝するのはこちらの方だな」
俺はそう言って手を差し出した。
グレンリンは一瞬差し出された手に困惑したが、すぐにがっしりと握り返してきた。
「それで、この大剣の銘はなんという?」
「——〈残轍剣〉と呼ぶ。今までの全ての武器を旧世代と化す、といった意味だ」
俺は口の中で彼の言葉を反芻した。
「〈残轍剣〉か——。悪くない」
俺はグレンリンから〈残轍剣〉を受け取り、軽く片手で振るう。
……重心の位置、剣身の長さ、重さ、全てが俺の体に完璧に馴染む。
「さて。ちょっと試し切りにでもいくか」
俺はグレンリンから背中に背負う用の鞘を受け取って言った。
グレンリンは俺の言葉に頷く。
「そうだな。じゃあダイダスとかも呼んで、国の外に出るか」
そうして俺たちはダイダスたちが待っている先ほどの酒場に戻るのだった。
***
「……やはり何度見てもその〈残轍剣〉は凄まじい威圧感を放っているな」
ダイダス国王は俺の持っている〈残轍剣〉を眺めながら呟いた。
レイラも俺を見て、ガタガタと震えながらこう言った。
「やばいです、ヤウェル様が今までよりももっと強くなっちゃいました。素手と裸であんなに強かったのに、あんなヤバそうな武器まで手に入れたら本当にどうなっちゃうんですか……。私こわい、にげたいおうちかえりたいみなかったことにしておふとんにもぐりたい……」
いつも通りレイラは何かほざいている。
が、気にせず俺は〈残轍剣〉を片手で軽く振るった。
ブンッという風を切り裂く音とともに素早く振るわれる。
瞬間。
スパッ、と半径数メートルに渡って聳えていた木々が、尽く真っ二つに切り裂かれた。
この剣身の長さでは絶対に届かない位置にあるというのにも関わらず、だ。
「うわぁ……とうとうヤウェル様が空間すらも無視し始めましたよ……。わたしもうついていけない……」
レイラが顔を真っ青を通り越して真っ白にしながら呟く。
ダイダス国王も口元を引き攣らせ、まるでドン引きしているかのように言った。
「神魔大戦を終わらせたかの大英雄は剣を振るっただけで、木々が倒れ、山が裂けたと言う。まさに神話を体験している気分だな……」
まあ今のは全力ではないから、本気を出せば山も切り裂けるかもしれない。
今の俺のレベルは78。
大英雄と呼ばれている奴のレベルが93だから、まだ彼女にはほんの少し及ばないんだが。
山を切り裂くくらいならできるにはできるだろう。
やってメリットがあるとは思えないけどな。
それに、その大英雄だって学園に入学することにはとっくにレベルは越している予定だ。
何度か剣を振って感覚を確かめる。
……うん、最初から完璧に馴染みすぎていて合わせにいく必要もないくらいだ。
ともかく、何度か振って完璧に戦えるようになったので、俺は今度は戦闘をしてみることにした。
この山脈地帯には確かアイツがいたはずだからな。
「それじゃあ、ちょっと魔物と戦ってくるから待っていてくれ」
俺はそう言って、ものすごい勢いでその場を離れる。
「あっ、ちょ、ヤウェル様……!」
レイラの静止も虚しく、俺はすぐに三人の見えない位置まできた。
レイラはともかく、ダイダス国王とグレンリンにこんなところを見られるわけにはいかないからな。
「【テイムスキル:召喚】」
スキルを使用し、復活しているであろうニベルヴァを召喚する。
すぐにニベルヴァは俺の目の前に現れ、拗ねたように顔を背けた。
「すまなかったって。今からお菓子を獲ってくるから、それで機嫌を直してくれ」
俺の言葉に、本当か? という表情でこちらに顔を向け直すニベルヴァ。
俺が本当だと言うように頷くと、ニベルヴァは背中を落として俺が乗りやすいようにしてくれた。
ふむ。
やはりニベルヴァは単純で扱いやすい。
まだ精神年齢が幼いからな。
こんな安上がりなもので釣れてしまう。
そして俺はニベルヴァの背中に乗って山脈の頂〈孤高なる巨人族ジャグレス〉の住処に向かうのだった。
***
氷結山脈の頂。
そこには〈孤高なる巨人族ジャグレス〉が住み着いている。
住み着いているというよりかは、ボス部屋といった方が正確な表現か。
ジャグレスのレベルは107。
実はダイダス国王が言っていた大英雄よりもレベルは高い。
まあ技量の差でジャグレスは勝てないだろうがな。
で、巨人族というのは、神魔大戦で魔王側で猛威を振るった一族である。
その巨大な体と圧倒的な筋力により、神々や人族たちを捻り潰していったとされている。
そしてこのジャグレスは、その巨人族の中で唯一地上に取り残された存在だった。
ちなみに、俺が現状周回しているダンジョンにも、巨人族が出てくる。
が、そのダンジョンは記憶世界なので、出てくる巨人族は本物ではなかった。
まあ、幻影のようなものだ。
もちろん幻影といえど、倒せば同等の経験値はもらえる。
そして俺は、ニベルヴァに連れられ、山脈の頂に降り立った。
そこは巨大な火口になっており、その窪みにジャグレスは丸まるように眠っている。
しかし俺がその目の前に降り立った瞬間、ジャグレスはゴゴゴと起き上がった。
高さは五メートルほど。
俺を完全に見下す形で立っている。
しかしこいつの倒し方は簡単だ。
いつも通りパリィをし、致命を決めるだけ。
なのだが——。
「今回ばかりは普通に倒しちゃあつまらないよなぁ」
俺はそう呟くと、大剣を片手で持ち、肩に担いだ。
「GRUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ジャグレスの絶叫が響き渡る。
戦闘の合図だ。
ジャグレスはドシドシと地面を揺らしながら俺に突進してくる。
俺はそれをステップを踏んで軽々避けると、通り過ぎていったジャグレスの背中に思い切り〈残轍剣〉を振るう。
ガコンッ!
と、硬いもの同士がぶつかる鈍い音が響き渡り、ジャグレスはものすごい勢いで吹き飛んでいった。
俺の筋力値とこの〈残轍剣〉があって初めて為せる攻撃だ。
ジャグレスの脇腹は俺の〈残轍剣〉によって大きく切り裂かれ、紫色の体液を撒き散らしながら飛んでいく。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
痛みからかジャグレスは絶叫をあげる。
俺はそれにニヤリと笑みを浮かべ、地面を蹴って距離を縮める。
俊敏性が四桁を超えたおかげで、あっという間に吹き飛ばされていくジャグレスに追いついた。
空中で逃げ場もないジャグレスの腹部に向かって、俺は上から叩きつけるように〈残轍剣〉を振るった。
ズンッ、とジャグレスは地面に思い切り叩きつけられ、石礫が八方に飛び散った。
それにより、ジャグレスは肺から全ての空気を吐き出し、同時に紫色の体液も飛び散らせる。
俺はピクピクと痙攣するだけのジャグレスに〈残轍剣〉を突き刺し、瞬間、光の粒子となって消えていった。
【〈孤高なる巨人族ジャグレス〉の討伐を確認しました】
【経験値1,840,000を獲得しました】
【経験値を使用してレベルを上昇させますか? YES / NO】
お。
どうやらジャグレスを倒したことによってレベルが上がったらしい。
これはラッキーだ。
俺はすぐにYESを選択して、レベルを上げた。
【レベルが1上昇しました】
もちろんこれで上がるレベルは1。
俺はとりあえずステータスを確認する。
――――――――――
Name : ヤウェル・クルーシャ
Lv : 79
STR : 867
DEF : 579
INT : 562
DEX :981
AGI : 1024
LUK :681
SP : 68
・Skill
【特殊スキル:魔術パリィ】
【特殊スキル:致命】
――――――――――
ふむ……。
悪くない数値だ。
レベル79の想定値よりも少しだけ高い。
ちなみにサンタ帽のデバフが消えたので、他のステータス値も正常に戻っている。
おかげで以前までの低数値ではなくなっていた。
まあ敏捷値や器用値に比べたら少し低めだが。
「さて。ドロップ品は、っと……。まあレアドロップは無しか」
通常ドロップである、巨人族の肉と、巨人族の骨がドロップしているだけだった。
ここのレアドロップは孤高なる巨人族の眼玉といって、とあるポーション作成に使用できるアイテムだ。
いつかはまたそのレアドロップ目当てで取りにくることになるだろうが、今はまだ必要ない。
俺はその肉をニベルヴァに渡し、骨をインベントリにしまうとニベルヴァに乗った。
ニベルヴァは「え……もういくの? まだ肉食べてたい」といった表情でこちらを見てくる。
が、俺はそれを無視して飛び立つように指示をした。
ニベルヴァは諦めたように飛び立ち、俺を先ほどと同じ場所に降ろしてくれた。
そしてスキルを使って〈竜人族の揺籠〉のボス部屋に戻すと、俺は何事もなかったようにダイダス国王たちの元に戻った。
「おおっ、ヤウェル殿! どこに行っていたのだ!」
俺が戻ってくるのを目視したダイダス国王がそう声を上げる。
その隣でレイラが死んだ目で呟いている。
「絶対今の一瞬で強敵を倒してきたんですって……私にはもうヤウェル様の行動が手に取るようにわかってしまうんですよ……」
そう言うレイラをダイダス国王は豪快に笑い飛ばした。
「はははっ! そんなわけなかろう! ヤウェル殿が消えてから10分ほどしか経ってないではないか! それでどうやって強敵を——」
そんなダイダス国王の目の前にジャグレスの骨を差し出した。
空気が凍る。
「……それは?」
「これは〈孤高なる巨人族ジャグレス〉のドロップ品です。俺には必要ないから差し上げようと思いましてね」
ダイダス国王は長い間沈黙していたが、しばらくして動き出すと、ようやくこれだけを絞り出すように言った。
「…………………………は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。