放課後の勉強

「ねぇ、正道は今日何か用事ってある?」


 帰り道、七瀬がそんなことを聞いてきた。


「勉強する予定」


 俺はそう返事をした。


「じゃあさ、一緒に勉強しようよ」


「え、でも、二人だと集中できなくないか? 個別に勉強した方が......」


「もー......! 正道、自分がなんで入院したか忘れたの?」


 俺はそう言われ、あまりにも勉強に集中し、疲労から意識を失ったことを思い出す。


「勉強のし過ぎです......」


 おそらく、七瀬は俺のために一緒に勉強しようと言ってくれているのだろう。

 それなのに、一人で勉強することを提案したことが申し訳なくなり、敬語で返事をしてしまった。


「だから、私が見ててあげないとね?」


 七瀬が笑顔で俺の顔を覗き込む。


「お、おう......。頼む......」


 そんな七瀬に、少しだけ照れてしまった。



 それから、俺は七瀬の家で一緒に勉強をすることになった。

 七瀬の家は、俺の家と同じく、和風の少しボロッちい家だ。

 七瀬が玄関の扉をガラガラと開け、入っていく。

 俺も七瀬の後に続き、家に入った。


「お邪魔しまーす」


 家に入り、挨拶をする。


「あ、うちのお母さん。今在宅で仕事してるから返事がないかも」


「あ、そうなのか」


 俺は靴を脱ぎ、家に上がる。

 足音を立てると迷惑になるかもしれないので、すり足で歩く。

 そして、七瀬の部屋に入り、床にバッグを置く。


「そういえば、七瀬の家って久しぶりだな。小学四年生とか、それくらい前か?」


「あれ? そんな前だったっけ?」


 俺は部屋をキョロキョロと見渡す。

 棚には教科書や演劇の本が入っており、勉強机の上にはシャーペンが数本置いてあった。

 それ以外には特徴が無く、飾りなども一切ない殺風景な部屋だった。


「あの......。一応女の子の部屋だからさ。ね......? あんまりジロジロ見るのは......」


「あ、悪い......」


 俺は反省し、おとなしく床に座った。


「七瀬、練習頑張ってるんだな」


「な、何? 急に?」


「いや、今時の女子と言えば、イケメンアイドルや可愛いマスコットにハマって、グッズで部屋を飾ったりもしそうだなぁって思ったんだけどさ。それらに目もくれないほど、頑張ってるんだろうなぁって」


 俺は七瀬のストイックさに感心する。


「そ、そう? ......それより、勉強しようよ。時間無くなっちゃうからさ」


「おう、そうだな。そうだ、まずはお互い問題を解いて採点しないか?」


「オッケー。じゃあ、数学からどう?」


 俺と七瀬はバッグから数学の教科書やノート、問題集、筆記用具を取り出し、テーブルの上に置く。

 準備を終えた俺と七瀬は、問題集の問題を解き始めた。

 解答をノートに記載していき、二人とも終わったところでノートを交換する。

 そして、七瀬の解答を確認していくが、俺は眉をしかめた。


「なぁ......。どんだけ勉強サボってたんだ......?」


 七瀬は俺と同じか、それ以上に学力があった記憶があるが、正答率は良いものとは言えなかった。


「えへへ......。正道の心配に加えて、演劇の練習もしてたから......」


 どうやら、全くと言っていいほど勉強をしていなかったようだ。


「はぁ......」


 俺は呆れてため息をついた。


「じゃあ、みっちり復習しないとな......!」


 少しだけ笑いながら、七瀬を脅すように言う。


「お、お手柔らかにお願いします......」


 それから、勉強をサボり、おバカになってしまった七瀬にみっちりと勉強を教えて。



「もー無理! ギブ!」


 時刻は六時半を過ぎていた。

 七瀬は根を上げ、床に寝転んでしまった。


「お疲れさん。それじゃあ、毎日頑張れよ」


「えー......」


 外は既に日が沈み、暗くなりかけていた。

 道が見えなくなるのを心配した俺は、家に帰ることにした。


「ねぇ正道?」


「なんだ?」


「......また、一緒に勉強してくれる?」


「......断ったって、心配して無理やり勉強することになるんだろ?」


「まぁね。それじゃ、気を付けて」


「ああ。また明日な」


 七瀬は俺に手を振る。

 俺は七瀬に挨拶し、七瀬の部屋を出る。


「お邪魔しましたー」


 俺は仕事をしている七瀬の母親に聞こえるように言い、七瀬の家を後にした。



「ただいまー」


 家に帰ると、母さんは既に夕飯の支度を終え、食事をテーブルに並べていた。


「今日のおかずはマグロのお刺身よ。明日も早いんだから、お風呂入ったらちゃっちゃと食べちゃいなさい」


 俺は母さんにせかされ、すぐに風呂に入る。

 パパっと全身を洗い、髪をドライヤーで乾かし、食事を食べ始めた。


「ご馳走様でした」


 食べ終えた俺は、食器を洗い、収納する。

 そして、自分の部屋に向かい、勉強を始めた。



 黙々と勉強をしていると、既に時刻は十時を回っていた。


「もう少しだけ......」


 そう思ったが、俺は倒れたことを思い出す。

 このような積み重ねにより、俺は倒れ、みんなに迷惑をかけてしまったのではないか。


「......いや、今日は寝よう」


 俺は切り上げ、おとなしく寝ることにした。



 次の日の朝、目が覚めた俺は学校に行こうとした。

 だが、俺の体調は最悪だった。

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