ネアポリス~いつか、きみと辿り着きたい場所~
@ibu0311
第1話 モノローグ
ギィ、キィ、ギィィィ――
さびついた鉄筋が悲鳴のような音を立てて、巨大な輪を回し続けている。
外円に取りつけられた電飾の生き残りがチカチカと明滅しながら緑色のイルミネーションを四方に投げかける様は、まるで誘蛾灯を思わせる。
――そうだ。
自分たちはおびき寄せられてしまった。
この死へ誘う遊園地に。
俺の首にしがみつき、怖いものを見まいと胸に顔を強く押しつける息子の小さな背を抱く腕に力が籠った。背後には、顔面蒼白になりながらはぐれまいと俺の背を必死に追う妻がいる。
――救わなくては。
自分の家族を。
この悪夢のような現実から……。
どこからともなく黒い雲霞のように押し寄せてくるおぞましい半死者の群れに追い立てられ、包囲網がじりじりと狭まるにつれて、次第に一点へと導かれていった。
軋んだ音を奏でながら回る、半ば崩れかけた巨大な観覧車。
それが、この死の遊園地の目玉アトラクションであるらしい。
「――ようこそ、貴重な生き残りの人間諸君」
錆びついた声が言った。
LEDライトを点灯させながらゆっくりと回り続ける観覧車の中心部。
巨大な輪を回す車軸のすぐ近くで、放射状に延びた鉄骨の一部が折れて、赤茶けた断面を晒している。
そのギザギザした先端に、
まるでモズの速贄さながら、あおむけの状態で串刺しにされていた。胸から太い鉄筋を生やし、下半身は何か巨大な力で捥ぎ取られたのように千切れていた。はみ出た薄桃色の贓物が風に吹かれてぶらぶらと揺れている様が凄惨でありながらどこか滑稽で、何かの冗談かのようだった。
どう考えても即死級の外傷。少なくとも、瀕死に近い状態だ。
だが、そいつは生きていた。
その、夜目にも鮮やかな生き血のごとく真っ赤な双眸で俺たち家族の姿を粘着質に捉え、ギラギラと強い輝きを放っていた。
「わたしはこの通り、動けないのでね。餌の方から来てもらう必要があるんだよ。さあ……、何の心配もいらないよ。一番高いところから飛び込んでおいで。わたしの血肉となるためにね!」
ヒャハハハ。
歪んだ哄笑が、錆びた鉄筋の軋る音よりもなお高く、響き渡った。
押し寄せる半死者たちが放つ鼻の曲がりそうな腐臭が迫ってきていた。俺たちはそのおぞましい死の
タラップを上り、足場として敷かれた網敷の鉄板に立つ。
そして、白い線を越えて、乗り場へと着いた。ちょうど真後ろに周回してきた、傾いたゴンドラ内部に、なすすべなく足を踏み入れる――。
ここには、チケットを切るクルーはいない。
だが、俺たちにはわかっていた。
これは、地獄への片道切符である、と――。
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