第26話

澪とくだらない会話を続けながら、“見慣れた”公園を横切りさまざまな家が立ち並ぶ住宅街を進み続け、目的地が見え始めた頃、かき氷は残り半分以下に減っていた。



「…でも、寂しいです。もうすぐ、いなくなっちゃうので…8月中に。」


「あら…どうして?」


「留学するんです。あの子。アメリカに。」


「そうなの…寂しいわね…それは。本当に…。」


「はい…でも、仕事は切り替えて、ばりばり働きますので。」


「…頼りにしてるわ、サラちゃん…ってあら、澪。晟も。おかえりー」


「こんばんは。比沙子さん。」



平凡な暖かい見た目な周りの一軒家より、遥かに抜きん出てお洒落感が凄いモデルハウスみたいな澪の家、そこの玄関前で、誰かと話し込んでいる比沙子さんに、小さく頭を下げる。



澪の顔の綺麗さは、確実に比沙子さんからの遺伝だと思う。



30代後半な年齢とはとても思えないスタイルと容姿で洗練された雰囲気が漂よっているのは、この人自身の職業の所為でもあるんだろうけれど。




「比沙子ちゃんやっほ~。晟、確保してきましたよー…っと、あ、ついでに泊まるってよーん」


「お!でかした!さすが私の息子。」


「あ、比沙子さんの息子さんですか?」


「そうそう。こっちが息子の澪で、こっちが晟。澪の悪友よ」


「比沙子さん…」



そんな比沙子さんの隣に立つ人も、似たような大人だった。



品格ある、少しきつそうに見えてしまうほど整った綺麗な顔を持つその女からの笑顔に応え、澪と俺を順番に指差し愉しそうに笑う比沙子さんに顔を顰める。…どんな紹介の仕方だ…。




「晟、何よその顔。」


「いや…比沙子さんらしさが溢れた、荒い説明だなと思って」


「言ったな。今日は寝かさないわよ。」


「きゃー。じゃあ、俺はそんな2人を横で鑑賞しよーっと」


「…誤解を与える言い方やめろや澪…比沙子さんも。どうせまた、格闘ゲームにつきあわせるだけでしょ。」


「あ、ばれたか」


「ばれますよそりゃ」



無邪気にはしゃぐ親子の手強さに、肩を落とし脱力した。



俺の目の前に佇むあの大人も、静かに微笑んでいる。




「ふふ…っ。楽しそうで、羨ましいな。やっぱり男の子がいると、賑やかな空気になるんですね。」


「そんなことないわよ~煩いだけ…って、あ、そうか…サラちゃんのとこは、娘さんひとり、だったね…。」


「はい。私と娘の2人家族なんで、はしゃいだりすることないんですよー。私より、大人ですし。あの子は。」


「…なに言ってんの。優秀で、すごくいい子じゃない。前、店に来てくれたとき驚いたわ。すごく綺麗な顔立ちの女の子で…」



口元に手をあて上品に笑う“サラちゃん”というらしい女の華奢な肩を、比沙子さんが豪快に叩いた。…いい音したな。




「ちょいちょい、比沙子ちゃん。あんた芸人のツッコミじゃないんだから。サラちゃんの肩破壊する気?」


「そんな巨人並の強力もってないわよ!大体、あんたがサラちゃん言うな馬鹿!初対面でしょうが!…ごめんねサラちゃん。チャラすかな息子で…」


「いえいえ…そんな。大丈夫ですよ?」


「(…チャラすか…)…っ…。」


「晟くーん?笑い堪えてんのばればれ。」



澪の後頭部に手のひらをあて、頭を下げさせるという母親しか出来ない荒技を目の当たりにしてる今、どう我慢しても肩が小刻みに揺れ続ける。



そんな俺を見逃さなかったらしい澪が、不自然に低い声で指摘し、重く長い息を吐き出した。

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