第3話
「いいだろ、別に。ここ、あんたの所有地なの」
「……違う。」
「ん。俺の勝ち。」
細い足を組み、悔しそうに視線を横に逸らす女が座るベンチに、人ひとり分ほどの距離を取り腰を下ろす。
こげ茶色の、ボブヘアー。切れ長の、気の強さを感じる二重な瞳。す、と通った鼻筋。小さな顔に、華奢な肩幅。
大人っぽくもあり、どこか子どもっぽくもあるこの人物の名前や年齢は、知らない。今日で会うのは2回目だけれど。
1週間前、偶然ここで出逢い――――また、同じ曜日の同じ時間、ここへと自然に足を運んでいた。
それがどうしてか、なんて。俺には、分からない。
「どうしたの。なんか用事?」
冷たそうに見えるも、会話をしてくれる気はあるらしい。誰にも懐かない野良猫に擦り寄られたときのような優越感が芽生える。
「用事ってか……しいて言えば、あんたと話しに?」
「何で疑問系なのよ……しかも、この前結構話した気するけど」
それでもやっぱり一向に警戒心を解かず、訝しげに顔を歪める様が可笑しくて。どことなく、楽しかった。
この、時間が。
「でもそれ、あんたがよく分からないスーパーボールの話と木の雑学、永遠と語ってただけだろ」
「あんたにあんたって言われたくないんだけど。」
「名前知らねえし。呼びようがない。」
理不尽な文句に苦笑すれば、面食らったような顔でぽかんとしている。どうやら、不自然な“未確認情報”に違和感を覚えていたのは、俺だけだったらしい。
「……更級亜依子(さらしなあいこ)18。」
「18?高3?」
「うん。」
そして、意外にも素直に教えてくれた数字に驚いた。
年上だった、のか。
まあ、納得は、出来るけれど。
さらしなあいこ、が子どもにも大人にも思えた理由は、実際にその狭間の年齢と言えるからなんだろう。きっと。
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