太陽と星耶
第4話
同じ系統で作られた、制服がちらほらと確認できる通学路。
制服ばかりで溢れる正門前、昇降口、廊下。
それらを通る度に届く「やば」「朝から王子接見とかラッキー」「やっぱかっこい……」などと言った声を飲み込み処理する上手い対応を、未だに模索していたりする。
いつも、無難に微笑み、僅かに頭を下げるだけで終わってしまっていた。
「太陽、ちゅーしていい?」
「ごめんね、だめ。」
「つまんねー」
「まあまあ。おはよう、星耶」
「おはよう太陽。それにしたって……今日も今日とて紳士な対応するねえ、お前さんは。さすが学園の王子様」
賑やかな教室前に到着したとき、唐突に肩を組まれ懇願された要求。苦笑でやんわりと断る。
それでも何故か満たされた表情でうっとりと感想を述べる自称バイセクシャルな星耶との身長差は、殆ど無い。
海外で染み付いた〝レディーファースト〟〝ダンディズム〟な振る舞いを、日本仕様〝恥じらいと遠慮の侍〟に直す機会もなくここまで生きてきた所為なのかおかげさまでなのか。
いつの間にか気が付けば、通う高校で付けられた異名は星耶が言う〝学園の王子様〟らしい。
初めは日本独特の遠回しなイジメ戦法なのかと悩んだりもしたけれど、頬を赤らめて騒ぐ女の子たちが示す反応により、真面目でガチなやつなのだと悟った。
「つーか、例のババアとはどうなってんの?」
「星耶、優雨さんはババアじゃないよ。怒るよ。」
「じゃあ、二十代後半な年増とはどうなってんの?」
「星耶、」
「……あの大人とはどうなってんの、太陽」
「うん。まあ、合格範囲、かな。」
教室に入り交わされる挨拶を1通り終わらせ、席に着く。前方にあるイスへ腰掛け振り返ると同時、聞き逃せない暴言を吐く相手。その名前を、撤回の促しを含めた低いトーンで呼ぶ。
僅かだけれど素直に改善した部分を褒めれば、星耶は拗ねたように尖らせた唇をほんの少し嬉しそうに緩めた。
そして「今日、いっしょに朝ごはんしたよ」と、数時間前のエピソードを語る。
「へぇ……朝からようやりますね。」
「って言っても、俺が優雨さんの仕事終わりに、無理やり押しかけただけだけど。帰り際とか、すっごく眠たそうだったよ。無防備なそれ可愛らしくて、こっちがドギマギしちゃった。」
「ふざけてんなあのババア……太陽と過ごせる貴重な時間をうとうと過ごしやがって」
「こら、星耶」
「………………」
「いいの、それで。」
1限目に必要な教材を机の中から取り出した。
嫌悪感たっぷりの表情で怒りを呟く相手を視線で宥めつつ、牽制してしまう。
長く深い息をしながら小さく肩を上げ微笑んでしまったそれは、もしかすると。
しょうもない強がりが、混ざっていたのかもしれない。
伸ばしてくる真剣な視線に、同じものを返した。
「俺が、優雨さんといっしょの時間、過ごしたいだけだから」
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