第15話
「冷た。レンさん冷た。」
「どこが。事務所の後輩に気遣ってないだけですがなにか。」
「言い分がおかしいです。むっちゃくちゃです。」
「じゃあ……事務所の後輩を蔑ろに扱いましたがなにか。」
「やだなにこの人……さらに超えてきちゃったよ…………」
はぁ、と態とらしく大きなため息を吐いてみせる。
それでも、堂々としたレンさんと同じように向き合えない。
どうしようもなく心臓がバクバクして内心焦りまくっている時点で、私の負けなんだろう。
「………………なんだこのやりとり。」
「のっかってくれたのレンさんです。」
だからね、レンさん。
そんな全力で後悔してるぜみたいに眉間を寄せなくて大丈夫ですよ。
私の乙女ハートはぱりーんですよ。
粉砕ですよ。
このまま帰ったら、後悔と反省で暴れ出すこと山の如しになる自分を回避するため、深く瞼を落とした。
そして長く広く、深呼吸。
改めて向き合うレンさんは、相変わらず気だるそうに立っていて。
さっきまでスポットライトに照らされていたときとのギャップに、戸惑ってしまいそうになる。
「レンさん、」
「なに」
「私、意地、でした。」
「聞いたよ」
「でも、今日、本当に感動しました。」
「………………」
「……ウソっぽく、安っぽく、聞こえてると思います。それでも、本当に、心から、最高でした。vegetabloose。」
「………………」
「関係ないと思われる覚悟で言うと、私も頑張ろうって。もっともっと、上に行こうって。思わせていただきました。」
「………………。」
目立たないよう着てきた、黒いシンプルな膝丈ワンピース。
その裾をぎゅう。と握りながら、小さく頭を下げた。
そして、思い出す。
いや、思い出さなくても、覚えている。
きっと、もう一生、記憶からは抜け落ちない。
落ちた証明。
輝くスポットライト。
現れた4人。
遠すぎる位置。
それでも、それぞれから、放たれてた光。
響く音。
歓声。
音。
音。
音。
そして、テツさんの唄声。
命が吹き込まれた、言葉たち。
vegetablooseの、全て。
「…………夢のような時間、ありがとうございました。」
無言を貫いたままのレンさんを、見上げることは出来ない。
怖い。
本格的に、嫌われちゃったかな。
馬鹿で単純で、しょうもない女って、思われちゃうかな。
でもね、レンさん。
それだけは、今言ったそれらだけは。
どうしても、伝えたかったの。
知ってて、欲しかったの。
…………20歳そこそこな、一小娘の感想だけどね。
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