ほしがりの旅 声劇台本

塚原蒔絵

第1章

笹倉 「ほしがりの旅 第1章」


○教室


 SE ざわつき+黒板を日誌で叩く


小林 「はーい、では星狩係は笹倉と相川に大決定しまーす。質問ある人いるかな~?」


 SE 椅子を引く


相川 「はい」

小林 「はーい、相川」

相川 「星狩係って、なにするんですか」

小林 「そうだね~、簡単に説明すると天文部のお手伝いだね。今年一年、君と笹倉は天文部にくる依頼を解決するんだ! うは、特別待遇」

相川 「俺、違う部活に所属したいんですけど」

小林 「うちの学校、兼部できるから大丈夫」

相川 「……どういう理由で俺が選ばれたんですか?」

小林 「ぶっちゃけ先生の直感!」

相川 「……ざけんな、この腐れ教師っ!」

小林 「ん~、なになに、聞こえないよ相川? 君生徒、私先生。ね? んじゃ、ほかに質問は? ――OK、ないみたいだね。それじゃ二人とも、頑張ってね!」


 SE チャイム+ざわつき


笹倉 「ど、ど、どうしたら」

相川 「おい、笹倉。天文部ってどこにあるか知ってるか?」

笹倉 「あ、えっと、ごめんなさい。知らないです」

相川 「だよな。はぁ~、面倒だけど天文部の部室、探すか」


SE  扉を開けようとすると小林が素早く閉める


小林 「ふっふっふ、お困りだね、お二人さん! そんなときは、この小林先生に相談しなさい!」


 SE キラリン


相川 「笹倉、天文部の部員に知り合いとかいるか?」

小林 「おおーっと見事なスルースキルだ相川! けど、先生も負けないよ!」

笹倉 「え、えっと、えっと、いないです。あの、先生は――」

相川 「じゃあ教室にいても仕方ないな。天文部、探しに行くぞ」

笹倉 「でも、先生が……あ、あの、相川くん」

相川  「くそ、ここにいるとばばっちい小林菌が移る!! 避難する……行くぞ笹倉!」


 SE 相川が笹倉の手を取る


小林 「おーいこらー、先生がいるじゃないかぁ~、二人っきりとかずるいぞー!」


○廊下


 SE 走る


笹倉 「っは、っはぁ。あの、相川くん。手を」

相川 「あ、悪い。俺、小林、苦手だから」

笹倉 「そう、なんですか。えっと……私、笹倉舞花と言います。よろしくお願いします?」

相川 「そういや名乗ってなかったな。俺は相川。相川誠一」

笹倉 「いきなり星狩係になっちゃいましたけど、どうすればいいんでしょう」

相川 「ったく、いい迷惑だよな。なんで小林の都合で決められなきゃいけないんだよ」


 SE 扉が開く


本郷 「おやおやぁ? 我が部室の前でなにかお困りかな? 麗しいボーイアンドガール。もしよければ、その胸の内を僕に話してごらん?」

相川 「……なんか出た。まずい笹倉、なんか出た!」

笹倉 「あの、天文部を探してるんですけど」

相川 「こら! 気軽に変な人に近づくんじゃない!!」

本郷 「ふ、ふはは、ふはははは!」

相川 「やばい、腰に手を当てて笑い出した。危ない奴だったか。笹倉こっちこい」

本郷 「なるほどぉ、天文部か! 星の煌めきに心奪われ、何光年も離れた星々に淡い想いを馳せる青春のクラブっ! いかにも、それが我が天文部!! その扉を叩くとは君たち、ただ者じゃないね!」

相川 「マジか。こんな変な奴がいるのか、天文部って」

笹倉 「ここ、天文部なんですか?」

本郷 「いかにも! さあ、フレッシュなボーイアンドガール、中に入りたまえ」


○天文部部室内


 SE 歩く


笹倉 「うわぁ、星の写真がいっぱい」

本郷 「どんどん見てくれたまえ。僕らが汗と涙と鼻血を垂らしながら撮った美しい星たちの姿を! しかとその目に焼き付けて!」

相川 「なんで鼻血垂らしてんだよ」

本郷 「お星さまに見つめられたら、そりゃ鼻血も出てしまうよ」

小林 「はっはっは! そうだね!!」

相川 「お、お前は!」


 SE ジャジャーン


小林 「ようこそ星狩さんたち、我が天文部へ!」


 SE キラリン


笹倉 「小林先生!? どうしてここにいるんです? さっきまで教室にいたはずじゃ」


 SE 小林がなにかに足を乗せる


小林 「ふふ、いい質問だよ笹倉。なぜ私がここにいるか、それは私が天文部の顧問だからさ!」

相川 「答えになってねぇよ!」

小林 「星はいいよ~、特にお勧めは流星群かな! 知ってるかい? 流星群というのは夜空のある一点から放射状に発生する一群の流れ星のことをいうんだ。これはダストトレイルと呼ばれる彗星や、惑星が通った奇跡に塵が周辺よりも多く漂う場所を地球が通過したときに起きる現象で、毎年決まった期間のみに発生する。代表的なのは夏のペルセウス座流星群、秋のしし座流星群と冬のペルセウス流星群だね。私のお勧めは秋かなぁ」


 SE 本郷が黒板を叩く


本郷 「むむ!? 聞き捨てなりませんね! 星の素晴らしさと言えば星座! 夜空に散りばめられた星々が描く壮大なロマンス! 春は冬の星座と比べると大人しいが、なんといっても春の大曲線が季節の訪れを告げに来るあのトキメキ! 大熊座の北斗七星から、うしかい座のアルクトゥールスを経ておとめ座のスピカを結ぶあのなめかしくも麗しいカーブ! もちろん、春の大三角形も見どころだ。西のオリオン座に去りゆく冬を感じながら東のさそり座に来るべき夏を感じる。まさにマーベラス!」

笹倉 「相川くん、先生たちがなにを言ってるか、分かります?」

相川 「分かりたくない。……はぁ、とりあえず天文部ってのは変態の集まりってことか」


SE 扉が開く+足音


結城 「失礼ね、栄えある天文部を変態の集団にしないでちょうだい。あの二人は飛びぬけて変なだけよ」

相川 「貴女は?」

結城 「私は結城智里。天文部の副部長よ。あそこで星座のロマンを語っているのが本郷大輔、一応この部の部長。それで、あなたたちは?」

笹倉 「私たち星狩係なんですけど」

結城 「あら、星狩さんなの? 入部希望者かと思ったから、ちょっと残念」

本郷 「僕は入部してくれても一向に構わないよ! 笹倉くん、僕と一緒に星座のなんたるかを知ろうじゃないか!」

結城 「やめてください部長。それ以上いたいけな女子に近づいたら、その天パ引っこ抜きますよ」

本郷 「地味に痛い苛めはやめたまえ、結城くん」

結城 「部長が大人しくしていてくださればバリカンを持ち出す事態にはなりません」

本郷 「それはもはや引っこ抜くではなく、刈るだよ!」

相川 「あーのー!! それで、俺たちはなにをしたらいいんですか?」

結城 「ああ、ごめんなさいね。天文部にはお悩み相談所っていうのがあるの。星狩さんたちは、お悩み相談所にくる依頼を解決するのがお仕事よ」

小林 「君たちの任務は明日からだ! 張り切って頑張ってくれたまえ!」

結城 「放課後、空いてる時間があったらここにいらっしゃい」


○公園


SE 歩く

 

相川 「あ~、星狩とか、面倒くさい。他人の悩みを解決するとか……できる気しねーし」

笹倉 「どんな依頼がくるんでしょうね?」

相川 「さあな。簡単なのだといいんだけど」

笹倉 「そうですね。そういえば、相川くんはどこに住んでるんです?」

相川 「俺は下神田(しもかみだ)」

笹倉 「じゃあ案外家、近いかもしれません。私も下神田なんです」

相川 「ん? 笹倉って中学どこ? 家近いなら同じ中学なはずだろ?」

笹倉 「あ……私、引っ越してきたんです」

相川 「あー、んじゃ知らなくて当然か」


○家の前


 SE なんか間抜けな音


相川 「って、家、隣じゃないか!」

笹倉 「あはは、みたいですね。初めて知りました」


 SE 扉が開く


中島 「……舞花?」

笹倉 「将人さん!? あれ? 今日は星祥(せいしょう)天文台に泊まるって言ってませんでしたか?」

中島 「研究員が今日提出の資料を忘れたらしくてな、印刷しに戻ってきた。お前は誰だ?」

相川 「隣に住んでる相川誠一です。笹倉とはクラスメイトです」

中島 「クラスメイト……そうか。舞花、ちょうどいい、夕食食べに行くぞ」

笹倉 「いえ、そんな迷惑かけれません! 私、一人で大丈夫ですから」

中島 「……そうか」

笹倉 「……えと、はい」

中島 「帰りは明日になる。夜更かしするなよ」

笹倉 「はい、いってらっしゃい」


 SE 中島が去る


相川 「っはー、笹倉の兄貴、怖いなー」

笹倉 「あ、将人さんは私のお兄さんじゃないんです」

相川 「え、でも、まさか親父さん!?」

笹倉 「いえ私、お父さんとお母さん、もういないんです。だからおじさんの将人さんの家に住まわせてもらってて」

相川 「あー、悪い。その、なんてーか……お前、おじさんと仲悪い?」

笹倉 「……そう、見えますか?」

相川 「いや、その……でも、んなの慣れだよな! 家族なんだから。つーかまぁ、俺も似たようなもんだし」

笹倉 「似たようなもの?」

 

 SE 小林が帰ってくる


小林 「お、そこに見えるのは不良少年。ん? なになに笹倉も一緒なの?」

笹倉 「小林先生!? どうしてここに?」

小林 「はーい、こんばんはー。どうしてここにって、私の家、そこだから」

笹倉 「え!? お隣さんなんですか? でも、お隣さんは相川くんのおうちだって」

相川 「笹倉、誤解を招く前に言っとく。小林は俺の親戚だ。実に遺憾ながら、実に不服ながら一緒に住んでる」

笹倉 「あ、ああ! そうなんですか!?」

相川 「な? 俺も似たようなもんだろ」

小林 「おいおーい、二人でこそこそ話するなんて、先生泣いちゃうぞ~」

相川 「黙れ、星バカ変態星人。一度自分の星に帰れ!」

小林 「マジマジ!? 私の星があるの!? どこどこどこに!」

相川 「ねぇよ! あったとしたら俺が潰す」

笹倉 「ふふふ、仲いいんですね」

小林 「はーはっはっは! 小林星からやってきた魅惑のコバヤシン、ここに見参!!」

相川 「ちっ! 腐ってやがる! 滅びろバルス!」

小林 「目が、目がぁあ!! とまぁ、おふざけはこのくらいにしておいて。ほら、外寒くなるから家に入ろ。笹倉も」

笹倉 「あ、はい! じゃあ、また明日」

相川 「ああ、またな」


 SE 扉が閉まる


〇天文部部室


 SE 部活の声


結城 「部長、どうです? 今年の星狩さんたちは」

本郷 「ん? それはまた難しい質問だね。あの子たちは例えるならそう、みずへび座のよう。日本からは見えない位置にある星座。それが美しいか、はたまたそうでないかは日々を観察できない僕らには知りようのないこと」

結城 「なんでも星座に例えるの、やめてもらえます?」

本郷 「君は星が嫌いかい、結城くん。いつか君にもその光が届くさ。星狩さんたちがきっと照らしてくれる」

結城 「随分と他力本願ですね」

本郷 「はっはっは! ここでじっとしていても見える星はある。けれど、歩かなければ見えない星もまたある。そういうことだよ」

結城 「仰っている意味が分かりません」

本郷 「君は大丈夫さ。星はいつでも君を優しく照らしているよ」


 SE 扉が開く


藤田 「失礼します」

本郷 「はいはいどうぞ、お嬢さん。僕らになにかご用かな?」

藤田 「星狩さんへの依頼は、ここであっていますか?」

結城 「あっているわ。なにかお悩みかしら」

藤田 「実は――」

笹倉 「白紙の本を読めるようにしてほしい、ですか?」

藤田 「はい。この『星の旅』という本は祖父からもらった物なんですが、中身が白紙なんです」


 SE ページをめくる


小林 「ほほう、興味深いね」

相川 「……なんでここにいるんだ、小林」

小林 「細かいこと気にしない気にしない! あと先生を呼び捨てとか生意気だ、ぞ☆」

相川 「うぜぇ」

藤田 「祖父は言いました。この本が読める場所がある、そこに行けば私に会えると」

笹倉 「この本が読める場所に……あ! えっと、お名前をお伺いしてもいいですか?」

藤田 「失礼しました。中等部1年、藤田まことと言います」

笹倉 「あ、ご丁寧にどうも。高等部1年3組、笹倉舞花です」

相川 「同じく、3組、相川誠一」

小林 「同じく、3組担当小林菊野! 花の27歳!」

相川 「枯れろよ、今すぐに」

小林 「ひどいよ!」

笹倉 「〔苦笑〕あははぁ。それで、その本が読める場所に藤田さんのお爺さんがいらっしゃるんですね?」

藤田 「……わかりません。祖父はすでに他界しているので」

相川 「おいおい、それじゃ……無理なんじゃないか?」

藤田 「そう、ですか」

笹倉 「ああ、えっと……藤田さんはお爺さんに会いたいんですか?」

藤田 「わかりません。でも……もし会えるなら」

相川 「でもなぁ、死んでる人は」

小林 「こーら、相川、依頼人の依頼を否定しない! 星狩さんは依頼人の依頼をこなすことが任務なんだから!」

相川 「あのな小林、常識的に考えて無理なもんは無理だろ、死人に会うとか」

小林 「っかー、夢のないこと言うねー。誰に似たんだい?」

相川 「空想と現実をごっちゃにするなよ。会えないのがわかってて探す方がつらいに決まってるだろ!」

藤田 「会えなくても、祖父が言っていたこの場所を知りたいんです。お願い出来ませんか?」

相川 「そりゃ、そっちがいいなら」

笹倉 「あの! とりあえずは、この本が読める場所を探しませんか? ここで話していても埒があきませんし」

小林 「よく言った、笹倉! それでこそ星狩の女だね!」

笹倉 「はい! 藤田さん、お爺さんの行きそうな場所とか覚えていませんか?」

藤田 「昔、祖父の行きそうな場所は一通り行ってみました。でもどこでもダメでした」

笹倉 「そんなこと言わずに、もう一度だけ行ってみませんか? もう一度行けば、違う発見があるかもしれません」

藤田 「はい」

小林 「ほら、相川。女の子だけに任せるつもり? いざってときに役に立たない男子は男子である資格ないよ?」

相川 「別に行かねーとは言ってねーだろ」

笹倉 「え? 一緒に探してくれるんですか?」

相川 「まぁ、俺も星狩だしな」

笹倉 「ありがとうございます。じゃあ藤田さん、行ってみましょう?」

藤田 「わかりました。よろしくお願いします」


○公園


藤田 「公園です」

相川 「公園だな」

笹倉 「公園ですねー」

小林 「うっほー、ハトいっぱいじゃん! おりぃやああああ!!」


 SE 走る+ハトが逃げる


相川 「あいつはガキか」

笹倉 「藤田さん、お爺さんとはよく公園に?」

藤田 「はい。公園まで来て噴水のそばで星について教えてくれました」

小林 「星について!? なにそれたぎる!」

相川 「引っ込んでろ、小林」

藤田 「祖父は天文学者だったんです」

小林 「素晴らしい! 天文学とは、自然科学として最も古くから発達した学問で、先史時代の文化は、古代エジプトの記念碑やヌビアのピラミッドに天文学に関する遺物を残したんだよ。発生間もない文明でも、バビロニアや古代ギリシャ、古代中国や古代インド、そしてイランやマヤ文明などでも夜空の入念な観測が行われていた。つまりは、古代から人は星に魅せられ生きてきたのさ!」

相川 「小林、悦に入るな、戻ってこい!」

藤田 「何万光年も離れた場所からの光が地上に届いている。ずっと昔に星から放たれた光、それを見ていると知ったときは驚いたのを覚えています」

笹倉 「私もついこの前、星について勉強しだしたんです」

藤田 「そうなんですか? じゃあ一緒ですね。祖父が生きていた頃は祖父がいっぱい語ってくれました。でも、もう自分で勉強しないとダメですね」

笹倉 「だったら、私と一緒に勉強しませんか? あ、でも、お友達としたほうが楽しいですよね、すみません図々しくて」

藤田 「いえ、いいんです。私、友達いませんから」

相川 「んなことないだろ。まだ中学も始まったばかりだし、みんな緊張してんだよ」

藤田 「……祖父さえいれば、誰もいらなかったんです」

小林 「ご両親は共働きかな?」

藤田 「はい」

小林 「んじゃ、私とも友達になろう! 先生と友達になるといいこといっぱいだよ~」

笹倉 「あ、先生、ずるいです。私が先に誘ったんです! 藤田さん、私、あまり賢くないので教えてもらえるととても助かります!」

相川 「おいおい」

小林 「相川も役立つよ。こう見えて星に詳しいし。なんたって、私が小さいころから星について洗脳してるからね!」

相川 「あんたに教えられたその記憶を抹消したくて、忘れてるかもな」

小林 「何故!?」

藤田 「私、あまり喋らないし笑わないので、一緒にいても面白くないですよ?」

笹倉 「でも、一人でやるよりみんなとやった方が面白いと思います!」

藤田 「……お邪魔じゃないなら」

笹倉 「はい、是非!!」

小林 「とまぁ、和んでるところ悪いんだけどさ、本にはなにか文字現れた?」

藤田 「いいえ」

小林 「てことは、ここは違うんだね。次いこ、次!」


○カフェ


 SE 扉が開く+鈴が鳴る


笹倉 「カフェですか?」

藤田 「はい、ここのカフェは祖父のお気に入りでした」

小林 「せっかくだからなにか頼もうか。先生が奢ってあげよう!」

オーナー「おや、まことちゃん。久しぶりだね」

藤田 「え?」

オーナー「あれ? 僕、ここのオーナーなんだけど覚えてないかな。いつもお爺さんと来てたよね?」

藤田 「はい、でも私、自己紹介なんて」

オーナー「あはは、お爺さんがまことちゃんのこといろいろ話してくれたから覚えちゃったのかな」

藤田 「祖父が?」

相川 「まず座んね? 入り口にいちゃ迷惑だ」

オーナー「これは失礼。カウンターでいいかい?」

藤田 「はい」


 SE 座る


笹倉 「どうですか? 本は」

藤田 「白紙のままです」

笹倉 「そうですか。でも、まだ始まったばかりです、諦めません!」

小林 「藤田さんはお爺さんとここでどんなことをしてたんだい?」

藤田 「……いつも祖父はコーヒーを頼んで、でも私は苦くて飲めませんでした。大きくなって一緒にコーヒーを飲める日が楽しみだって」

相川 「今は飲めるのか?」

藤田 「そうですね、今は」

相川 「なら、コーヒー4つでいいか?」

小林 「先生はメロンクリームソーダで!!」

相川 「お前。空気よめよ」

小林 「だって今飲みたいのはそれなんだよー、ぶーぶー」

相川 「キモい」

藤田 「ふふ。あ、ごめんなさい、笑ったりして」

笹倉 「いいと思います。藤田さんの笑顔、かわいいです!」

小林 「オーナー、コーヒー3つとメロンクリームソーダ1つ」

オーナー「はい、かしこまりました」

藤田 「……なんだか不思議な気分です。いつもは祖父と二人っきりだったので」

笹倉 「あ、ご、ご迷惑ですか?」

藤田 「いえ、そうじゃないんです。ただ、少し、楽しいかなって」

相川 「小林がいなきゃもっと楽しいはずなんだけどな」

小林 「ひどいぞ、相川。先生泣いちゃうよ?」

オーナー「はい、コーヒーとクリームソーダです」

笹倉 「ありがとうございます」

オーナー「ん? まことちゃん、その本まだ持ってたんだ。懐かしいなぁ、アルファルド」

藤田 「アルファルド?」

オーナー「ほら、その本の表紙にある星だよ」

笹倉 「先生、アルファルドってなんですか?」

小林 「星の名前だよ。アルファルドには孤独という意味があるんだ」

オーナー「まことちゃんのお爺さんは気難しい人でね、仕事仲間と対立することが多くて、よく愚痴をこぼしてたよ」

藤田 「祖父が?」

オーナー「まことちゃんのことも心配してたな。自分と似て人との関わり合いが苦手だから、友達ができるのかとか」

笹倉 「あ、はい! 私、藤田さんのお友達です」

相川 「友人その2です」

小林 「友人その3かつ保護者です!」

オーナー「ははは、面白い人たちと友達だね、まことちゃん」

藤田 「友達、ですか」


○プラネタリウム


笹倉 「うわー、プラネタリウムに来たの、私、初めてです」

小林 「ん、そうなの? おお、今は彗星の物語が上映してるって! マジこれ見たいし」

相川 「藤田、本はどうだ?」

藤田 「変化なしです」

相川 「そうか。……まぁ、まだ終わってないし、落ち込むなよ?」

藤田 「落ち込んでいるように見えましたか?」

相川 「や、そうじゃないけど」

藤田 「……今日はなんだか、いい気分なんです」

笹倉 「藤田さん。本は残念でしたが、見てくださいこの看板! 今日投影予定の彗星物語、すごく面白そうです」

小林 「彗星ってのはね、尾を引く姿が印象的な天体なんだよ。その正体は、なんと大きさが数km~数十kmの巨大な氷の塊!」

相川 「彗星は太陽系の端からやってきて、太陽をぐるりと回って去っていく。再び太陽に戻ってくる彗星もあるが、二度と戻って来ないものもある、だろ?」

小林 「よく覚えてるね~」

相川 「耳たこだ」

小林 「氷の塊だった彗星はね、太陽に接近すると豹変するんだ。太陽からのエネルギーで氷が溶け、含まれていたガスやチリなどの成分を宇宙空間に吹き出すようになる。そして彗星のまわりはボンヤリとした光に包まれるようになり、さらには尾を引き始めるようになるんだ」

笹倉 「すごいですね。見てみたいな」

藤田 「……プラネタリウム、見ていきますか?」

小林 「い、いいの!?」

藤田 「皆さんがいいなら」

笹倉 「ぜ、是非!」

相川 「あー、まぁ、いいか。いくぞ、藤田」

藤田 「はい」


○公園(夜)


小林 「結局今日は収穫なしか」

笹倉 「でもでも、まだいっぱい行ってない場所ありますよね」

藤田 「そうですね。……このページを読むには場所を探さないとダメだと祖父は言いました。その時、もう一つ言われたんです、誰かと一緒に探しなさいって」

笹倉 「誰かと一緒にですか?」

藤田 「今日は、とても有意義でした」

相川 「でも、結局どこ行っても文字は見えなかったな」

小林 「そのことなんだけどさ、お爺さんに会えるって言葉、思い出に会えるって意味じゃない?」

藤田 「思い出に会える、ですか?」

小林 「今日行った場所の中には藤田とお爺さんの思い出がいっぱいあるんじゃないかい?」

藤田 「はい、いっぱいありました」

小林 「本物には会えなかったけど、思い出には会えたでしょ?」

藤田 「はい。じゃあ、誰かと一緒に探さないとダメって、どうして」

相川 「……アルファルド」

笹倉 「相川くん?」

相川 「孤独にならないため、じゃないか? 藤田、友達作り、苦手なんだろ?」

藤田 「得意では、ないです」

相川 「その本のことについて誰かと一緒に探すことで、なんていうのかその、仲良くなるきっかけにしてほしかったとか」

小林 「おー、相川、ロマンティックだね」

相川 「うるせぇ!」

笹倉 「そ、そうですよ。きっと。お爺さん、藤田さんのこと心配してたって、カフェのオーナーさんも言ってたじゃないですか」

藤田 「祖父が……」

小林 「孤独とは訪れるのにはいい場所だが、滞在するには寂しいところだとヘンリーショーも言っている。人は誰でも孤独な生き物だよ。けど、あの星たちのように一緒にいることだってできる」

相川 「あれはアルクトゥール。もっと下にあるのはスピカだな」

笹倉 「他にもいっぱい星がありますね。プラネタリウムもいいですけど、本物はやっぱりいいですね!」

藤田 「星、きれいです」

小林 「天文部はいつでも部員募集中だよ?」

藤田 「くす……考えておきます」

笹倉 「ふは~、今日はとても楽しかったです!」

藤田 「……あの、また私と一緒に白紙のページが読める場所を探してくれますか?」

笹倉 「私でよければいつでも!」

相川 「暇なら手伝ってやるよ」

笹倉 「必ず、また一緒に行きましょうね、藤田さん」

藤田 「はい、また一緒に」


SE 走り去る


小林 「う~ん! 今日はいっぱい動いたねー。どうだった星狩さん、初依頼の感想は」

笹倉 「面白かったです」

相川 「まぁ、悪くなかったけど。毎回解決できる依頼じゃないだろ?」

小林 「依頼をこなすことだけが解決じゃないよ。きちんとその人の星を狩ってあげないと。さて、帰ろうか」

笹倉 「はい!」

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