18.食欲からみる私という存在??

「フェルトくんは集中力が続いていますね。非常に良いです」


 ローラ先生からフェルトは早々に合格をもらっていた。


 多分だけれど、魔道具に刻印されたイメージを掴むのは私のほうが早い。

 でも魔道具の発動を維持する集中力はフェルトのほうが上だ。


 そして私は――ちょっと冷静になっていました。

 ローラ先生が私の前でパンケーキを何口も食べるから……ではなく。


 ハーマからされた仕打ちで、どうやら食欲が暴走気味だったみたいです。

 

 味の薄さと根本的に不足する食事量。

 お腹が鳴らない夜のほうが珍しく、いつも空腹でした。

 屋敷の人間に言っても無視されるだけ。

 だから食事が出ると、いつも絶対に食べ切っていました。


 だから……多分、この食欲はリリアとしての根源的な部分なのです。

 

 何年も飢餓だった記憶。

 食べ物を見ると自制心が弱まってしまう自分。


 ローラ先生がパンケーキを行ったり来たりさせて。

 食べたい食べたいと思いながら……。

 実際、大してお腹は空いていないはずです。

 朝食はしっかり食べてますから。


 でも美味しそうなモノを見ると集中力が切れてしまう。

 これは私の弱点――なのかもです。


 そうだと自覚することで、私の意識は魔道具としっかり繋がるようになりました。


 赤い水晶のブローチから意識を離さずに。

 ブローチからしっかりと声が聞こえてきます。

 

『はーるだもんねー』


 春の野原でのんびりと寝っ転がっているような。

 この声はきっと魔道具の製作者の素敵な想いなのでしょう。


 私はこの春のイメージに意識を集中させ続けます。


「……集中力が高まってきましたね」

「はい。心が乱されなくなりました」


 ああ、もうパンケーキは半分も残っていません。

 私の分だけじゃなくて、ローラ先生はフェルトの前にあるパンケーキも食べています。

 ……思い出しました。

 ローラ先生は結構食べるのです。


「リリアちゃんには難しい課題だと思いましたが、早速コツを掴んでいます。

 そうです、魔道具の刻印に意識を向け続けるのが正解です」

「はい。というか、ローラ先生もかなり食べていませんか?」

「魔力を使うとお腹が空きます……諸説ありますが」

「……そうなのですか?」

「私はそうです。魔力を日常的に使っている人はあまり太りません」


 なんと……。

 魔力の使用は脂肪を燃やす?

 

 でもそれが本当なら、いくら食べても魔法を使えば……。

 いえいえ、雑念は振り払わないと。


 ……。


 それから数十分の間、私は集中を切らしませんでした。

 パンケーキは私のもフェルトのもローラ先生が食べてしまいましたが。

 普通は食べ切らないと思うのですが、ローラ先生は普通じゃないので全部食べました。


 でもなんとなく……この授業で私自身について、わかったような気がします。


 前世の魂とリリアの魂の同期。


 多分ですが、頭を使わなくて良くなるとリリアの側面が出るのかも。

 ……食いしん坊というべきか、飢餓の記憶のせいというべきか。


 あとはフェルトのそばにいると、年齢相応の思考回路に近くなるようです。

 彼に合わせようと大人の側面が抑制されるのでしょうか。


 私には大人と子どもの側面があって。

 それを上手く活用させていかないといけないみたいです。


 まぁ、それは良いとして……。

 授業も終わってしまいました。


 パンケーキを食べ損ねたのにはしょんぼりです。


「さて、今日の授業はここまでです」

「ありがとうございました!」


 フェルトと一緒にローラ先生へ礼をします。


 そこでローラ先生が手をぱんと叩きました。


「今日の昼食にはパンケーキを用意してもらいました。

 ベリーにメロンもあります」

「な、なんと!」


 さすがローラ先生。

 授業の終わりにきっちりパンケーキを用意するとは。

 上手く誘導されている気もしますが。


 というわけで、三人一緒にパンケーキを食べます。


 ベリーとカットされたメロンが載って、果実の美味しさにくらくらします。

 そこにやや酸味のあるヨーグルトジュース。

 甘さのフルスロットルに適度なブレーキをかけてくれます。

 素晴らしい対比です。カルシウムも摂取しないといけませんからね。


 今日、ローラ先生の授業を受けて良かったです。

 私は私で。

 もうかつての私ではありません。


 けれどリリアの部分もあり、前世の部分もあります。

 その境目に目を向けることができました。


「……ところでローラ先生、それは三枚目のパンケーキですが。

 全部、食べるのですか?」

「もちろんです」


 ちょっと食べ過ぎな気もしますが。

 でもローラ先生はスラッとしてます。


 これだけ食べても太らないなら、魔法もとても良いモノに思えます。

 頑張りましょう。


 ……こうして私の王宮暮らしが始まって。

 全ては順風満帆です。


 きっとお披露目パーティーも上手くいきます。


 そう、たとえそこに父のノルザが来たとしても。

 父方の本家で、本来の未来において敵国に内通しているラーグ大公が来たとしても。


 絶対に上手くやってみせますから!



これにて第2章終了です!

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