第2章 異世界転移編

第5話 異世界転移と冒険者登録

 異世界に来たのは3ヶ月ほど前……。


西向にしむき重一しげいち、そなたは死んだ」

「俺って死んだのかよ」


 俺は日本でブラック企業でサラリーマンを3年やっていた。

 現在、25歳だ。

 仕事内容は事務。

 ほとんど、コピーとお茶くみと書類の配達やら、その他の雑用。

 新米女子社員の仕事内容だが、普通の女子社員は逃げ出すほどのブラック企業だからな。


「じゃが、生き返らせた」

「びっくりさせるなよ」


 周りを確認すると、真っ白な空間。

 声の人物は見当たらない。

 天国かな?

 生き返ったなら、文句はない。


「死んだ原因は災害じゃな。死ぬ場面を多数に目撃されとるから、日本に行くことはできん。遺体も日本に残っておる。帰れないのは今はという注釈は付くがのう」

「そうか、災害なら仕方ない。あんたのせいじゃないさ」


「異世界に行ってもらう。現地の服と、少しのお金、現地語を喋れるようにしてやろう」

「ありがとう」


「アドバイスとして、冒険者ギルドを目指せ。魔法使いになると良い。波乱に満ちた生涯になるじゃろうが、晩年は幸せに暮らせるはずじゃ」

「良くしてもらって、悪いな。この恩は返す」


 恩も仇も忘れない。

 それが俺の生き方だ。


「ではな。また会おう」


 背景が街の中に切り替わった。

 異世界に着いたらしい。


 街の人の会話が、日本語ではないけど意味が解る。

 喋ったり書いたりもできそう。

 露店の値札も読めるからな。


 懐に巾着型のずしりと重い財布がある。

 中を覗くと金貨が入っていた。

 おお、しばらくは大丈夫そうだ。


 ブラック企業で3年間生き抜いた。

 あの神様みたいな存在が言うには、晩年幸せなんだろう。

 だから、なんとかなるはず。


「冒険者ギルドってどこ?」

「あっちだよ」


 うん、現地語で上手く話せた。

 そうか、とにかく教えられた方向に歩く。


 異世界だけど、街の雰囲気はなんかヨーロッパって感じだな。

 ヨーロッパ旅行したことはないけど。

 海外は東南アジアが多かった。

 たまにアメリカ。

 もちろん、出張のお供だよ。


 ネットさえ使えれば、航空機チケットの手配から、ホテルの予約まで簡単にできる。

 日本語が通じる従業員がいるホテルを選べば完璧。

 出張は大都市だから、探せばホテルにそういう従業員はいる。


 思考が逸れた。


「この街は初めて?」


 女性に話し掛けられた。

 18歳ぐらいかな。

 白人系だから、かなり美人のような気がする。

 いや、気がするじゃなくて、超絶美人だ。


 薄っすらとした緑色掛かった銀髪は地球では見たことがない髪色。

 染めているわけではないよな。

 異世界だなと感心。

 美人局じゃないよな。

 ごつい男が出てくる感じはしない。


「ああ、初めてだ」

「この辺りで見ない肌の色。黒髪黒目は珍しいね。なんか素敵」


「地元じゃ大抵は黄色い肌で黒髪黒目だよ。冒険者ギルドはこっちで合っている?」

「ええ、案内してあげる」


 路地とか行きそうになったら、全力で逃げよう。

 案内されて、簡単に冒険者ギルドに着いた。

 大きな通りの立派な建物。

 冒険者ギルドと現地語で書いてあるし、どうみても詐欺ではないだろう。


「ありがとう」

「どういたしまして。登録するの?」


「ああ、事故みたいな感じで飛ばされてきたんだよ。ここの常識は何も知らない」

「そう、魔法事故かな。あそこのカウンターで冒険者登録できるよ」


 カウンターに人はいなかった。

 新規登録の人はあまりいないのかな。

 受付嬢もいない。

 俺がカウンターの前に立っていると、受付嬢が気づいて、ゆっくりと近づいて来て席に座った。


「お待たせしました。二人とも登録ですか?」

「そうだ」

「そうよ」


 彼女も登録なのか。


「用紙に記入して下さい」


 受付嬢から差し出された用紙を適当に埋める。

 出身地は不明。

 みなしごだったと書いた。


 特技はなし。

 ブラック企業では、ただの便利屋だったからな。


 そんなことはもう良いな。

 用紙を埋めた。


「スキル鑑定はどうなさいます? 鑑定料は銀貨1枚となってます」

「鑑定してくれ」

「スキルは知ってるから、鑑定は要らないわ」


「スキル鑑定お願いします!」


 受付嬢が振り返って奥に呼び掛けると、仕事ができそうな中年男性が奥から現れた。


「鑑定してもらうのは俺だ」

「【スキル鑑定】。翻訳と文字置換だな。外国の生まれか。他の国から来て、シャール語を覚えると、まれに生える。文字置換は定型文をスキルで置換して直すのに使うスキルだな。どっちも文官向きだ」

「ありがとよ」


 文官向きか、魔法使いを薦められたんだけどな。

 魔法使いも文官みたいな物だけど。

 物語ではよく王の相談役とか、参謀になってたりする。

 スキル鑑定の人が奥へまた引っ込んだ。


「ええと、スキルの詳しい説明が聞きたい」

「情報ですか? 情報料として、大銅貨4枚を頂きます」


「ああ、金は構わない」

「翻訳と文字置換はありふれたスキルです。気を悪くしたら、すみません。でも情報は正確に伝えないといけませんので、二つともクズスキルあるいはゴミスキルですね」


 才能がないのは知ってたさ。

 そんなのあったら、ブラック企業なんか入ってない。

 翻訳スキルはあの存在のおかげだな。

 シャール語だったけ、これを話せるのも同じだな。


 文字置換には覚えがある。

 ネットで定型文を拾って、手直しするのは覚えてないほど頻繁にやった。


「それで」

「翻訳は会話はパッシブスキルで、文字はアクティブスキルで使えて、確かに便利です。ですが、理解してない言葉は翻訳できません。理解してたらスキル要らないですよね」


「そうだな。要らないな」

「文字置換はアクティブスキルになります。クズと呼ばれているのは文章の固有名詞を直すのなら、スキルに頼らなくてもできます。定型文をスキルで保存できるので、メモ帳代わりにするには便利ですが、それだけです。二つのスキルとも戦闘には向かないですね。鑑定系、瞬間記憶系、計算系などに比べると、文官向きのスキルとしても物凄く価値の低い物となります」


 そういうスキルか。


「ありがとう」

「意外です。てっきり憤慨されると思ってました。クズスキルを告げられると、怒り出す人が多いので。クズスキルを詳しく説明すると、金を払って嫌な気分になって、馬鹿にするのかと怒られます。今まで、あなたを除いて、全員がです。私、パルメと言います」


 気に入られたのかな。

 こんなことでは怒らないさ。

 地球に魔法やスキルはないからな。


「俺はシゲ。用紙に書いたから知ってると思うけど、名乗られたら返さないとな」

「律儀なんですね」


 くっ、脇腹を抓られた。

 案内してくれた彼女が、すねている。

 美人に嫉妬されて、ちょっと嬉しい。

 彼女じゃないのにウザいとは思わない。


「魔法についても聞きたい」

「銀貨3枚になります」


「勿体ない。私が教えてあげる。フェアフェーレンよ」

「知ってると思うけど、シゲだ、よろしく」

「ええ、よろしく」


 Fランクと書かれた金属のカードを貰って、料金を払う。

 金貨が細かい金に崩れて、使い易くなった。

 どうやら、銀貨は大きいのと小さいのと2種類ある。

 お釣りから推測するに、10枚ずつで繰り上がる感じかな。


 銅貨10枚で、大銅貨。

 大銅貨10枚で、銀貨。

 銀貨10枚で、大銀貨。

 大銀貨10枚で金貨。

 分かり易い。


 さて、フェアフェーレンの魔法教室だ。

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