第30話

コンビニの休憩室。蛍光灯がブンブンと低い音を立てている。壁にもたれ、今日起こったことを頭の中で繰り返し再生する。


藤宮琉璃の登場。あの挑発的な、しかし……どこか警告のようにも聞こえた言葉?彼女はあの致命傷になり得る写真をすぐには使わなかった。代わりに、私がこの間見せていた、反常識で媚びへつらうような振る舞いの理由を、別の形で引き受けてくれたようにも思えた。


原因は私自身にある。綾を失う恐怖が蔓のように絡みつき、自ら進んで、彼女が好みそうな姿に必死に変わろうとした。それが裏目に出て、彼女が最も嫌う「既製の操り人形」になってしまった。


「ピン——」


スマートフォンの通知音が思考を遮る。画面には神宮寺綾からのメッセージ。


『終わったら、ぶらぶらしない。会うべきじゃない人には会わない。まっすぐ帰ってきなさい。』


短い命令文。彼女らしい疑いを許さない口調。でも、今日この言葉は、本心からの警告なのか、それとも……失望の気持ちを込めた当てつけなのか?


返信はしなかった。画面の上で指が止まったまま、何も言葉が出てこない。


また嘘をつく?新しい嘘で古い嘘を塗り固める?でも、この小心にへりくだった従順さは、琉璃の教唆だけが原因じゃない。私自身の心の恐慌が生んだ、偽らざる姿だ。それでも、琉璃との接触を隠したことは、紛れもない私の欺きだ。


迷いが濃い霧のように私を包み込む。


休憩室を見渡す視線が、伝票を整理している店長の姿で止まった。いつもニコニコしていて、豊富な恋愛経験があるらしいこのおじさんが、今の私にとって唯一掴み得る浮き輪のように思えた。


深く息を吸い、立ち上がり、店長のそばへ歩み寄る。


「店長……ちょっと、よろしいですか?相談に乗ってほしいことがあって……」


店長は伝票から顔を上げ、眉をひそめて少し驚いた表情を浮かべると、何かを悟ったように声を潜めて聞いた。「恋愛相談?」


私はうなずき、頬がほてるのを感じた。


「おう、おう、座って話せ!」店長は張り切り、ほとんど興奮気味に二つの椅子を引っ張ってきて座るよう促した。「はは、随分久しぶりに恋愛話を聞いたもんだよ。この老いぼれ骨も鳴りそうだ」


言われるがままに座り、緊張して指を組んだ。店長は大人で、経験も豊富なはず。たぶん……頼りになるよね?


言葉を選びながら、穿越と性転換の核心的な秘密や、写真の最も露骨な部分は伏せて、神宮寺との不平等な「飼育」関係、何らかの弱み(写真を暗示)で藤宮琉璃に脅されていること、そして恐怖から嘘をつき、媚びで関係を繋ごうとしている苦境を大まかに話した。


店長は話し終わるまで黙って聞いていた。しばらく沈黙した後、ポケットから煙草の箱を取り出し、一本取り出したが、店内だと気づき、悔しそうにしまい直した。


「うーん……」彼は息を吸い、眉をひそめ、複雑な同情を込めた目で私を見た。「葵ちゃんよ……板挟みで大変だな……」


その言葉が鍵となり、必死に保っていた平静の扉が一気に開いた。悔しさと恐れが激しく込み上げ、目の端が一瞬で熱くなった。涙が今にも溢れ出しそうで、慌ててうつむいた。


「そういうときはなあ」店長はため息をつき、口調を優しくした。「葵ちゃんも、神宮寺さんも、もっとお互いの立場を考えてみるべきなんじゃないかね」


「ダメです!」私は激しく首を振り、声を詰まらせながら、思わず体を小さく丸めた。「話したら……話したら、追い出されちゃいます……私……彼女と離れたくないんです……」


店長は首を振り、経験者としての知恵を感じさせる眼差しで言った。「今すぐ全部を打ち明けろって意味じゃない。お前たちの関係を改善する方法ってことだ。本当に最後まで添い遂げるカップルってのは、みんな相手を思いやって、相手の立場に立って物事を考えるんだ。今のこの不平等な飼い主とペットの関係を、普通の対等な恋人同士の関係に変えたいんじゃないのか?」


彼は一呼吸置き、どこか呆れ笑いのような表情を浮かべて付け加えた。「まあ、最近の若いもんは……ほんとにいろいろやるんだな」


私はそう言われて、さらに頬を赤らめた。


「それにだ」店長は真剣な表情に戻った。「写真の件には言い分や辛い事情があるかもしれないが、神宮寺さんには話せない。だから、彼女の目には、お前の今日の行動は間違いなく『悪』だ——彼女の言いつけに背き、嘘をついた」


「だから、大叔さんの言うことを聞け。今日帰ったら、まずは心から謝罪しろ。それから、彼女にもお前のことを考えてほしいと伝えてみろ。恐怖と媚びだけで繋がった関係はな、砂の城のようなものだ。波が来れば一瞬で崩れる。お前が作りたいのは、嵐にも耐えられる家なんじゃないのか?」


店長の言葉は光のようで、私の心の迷いを突き抜けた。砂の城……そうか、私は必死にその砂の城を高く積み上げることばかりして、その土台が脆く、いつ崩れてもおかしくないことを忘れていた。


---


「ただいま」


ドアを押し開け、小声で言った。玄関は水を打ったように静かで、待ち受けていたはずの、慵懶でどこか独占欲を含んだ「おかえり」の声は聞こえない。部屋の中は空虚で、最も大切な魂が抜け落ちているようだった。


不在なのかと思ったが、寝室のドアの隙間から灯りの明かりが漏れている。


家にはいる。ただ、私に応答したくないだけだ。


やっぱり……怒っている。だって、私は彼女を騙し、あの一見専横的に見えても私たちの絆を繋いでいた「家訓」に背いた。


どうにでもなれ、という絶望感が込み上げてきた。店長のアドバイス通り、そして自分自身の内なる「贖罪」の衝動に従って、行動を始める。


寝室へ向かいながら、機械的に制服の上着を脱ぎ、ワイシャツのボタンを外す。布が肌に擦れる音が静かな部屋に格外に響く。寝室のドアを押し開けた時、私の身にまとっているものは薄手の下着とパンツだけだった。


神宮寺綾はベッドにもたれかかり、本を読むでもなく、スマホを弄るでもなく、ただ静かに私を見つめている。その瞳は平静で波立っていないが、どんな叱責よりも私を慌てさせた。


ベッドまで歩み寄り、指を震わせながらパンツの端をつまみ、それを脱ぎ捨てた。そして従順に柔らかいベッドに身を伏せ、完全に抵抗を放棄し、打たれても罰せられても構わない姿勢を取った。


時間が止まったように感じた。


しばらくして、頭上からごく軽い、嘲りに満ちた嗤う声が聞こえた。


「ふん。今さら、打つがまま罰するがままの態度をとって、何の意味があるっていうの?」


その声は冷たく、氷の錐のように私の心臓を刺し貫いた。


「家規であれ、言いつけであれ……本人が心から背こうと思えば、私に何ができるっていうの?」


「私を騙そうと思えば、私に何が言えるっていうの?」


彼女の口調は次第に強くなり、一語一語がハンマーのように私の胸を打つ。


「星野葵」彼女は私の名前を呼び、これまで聞いたことのない、失望と傷心が混ざり合った疲労感を帯びた声で言った。「私が一番失望し、傷ついているポイントがどこか、わかってる?」


「何度も、何度もチャンスをあげたはずよ。何度も、何度も聞いたはずよ!」


「であなたは?」彼女の声は急に鋭くなり、抑えきれない怒りと嗚咽を帯びていた。「毎回、毎回私を騙した!自分からそうしているんだって、藤宮琉璃のことは隠して!私をバカみたいに弄んだ!」


「あなたが作るって言う、愛込めたってやつの朝ごはんを食べるたびに、むかつくの!表向きは私のため、私を寵愛してるって言いながら、陰では藤宮琉璃の指示をどうやって実行するか考えてたんじゃないの!?」


「それで私を喜ばせ、手中に収められると思ったの!?」


「星野葵、あなた……私のこと、まだ愛しているの?」彼女の詰問は疾風怒濤のようだった。「藤宮琉璃の方が、私より彼女にふさわしいって思ってるんでしょ!?そうなんでしょ!」


「もう私のメッセージも既読すらつけない……邪魔だった?」


「自分で冷静になりなさいよ!」


言い終えると、彼女はばっと布団を跳ねのけ、立ち上がって去ろうとした。


店長!? これ、あなたが言ってた展開と違くない!?


「違うんです!」考える間もなく、私は飛びつくようにして彼女の手首を必死に掴み、涙が一気に溢れ、狂ったように首を振った。「違う……違うんです!話を聞いて……!」


「もう他に何を説明するっていうの!?」彼女は私の手を振りほどこうとし、冷たく絶望的な声で言った。「また新しい嘘?」


私は口先だけで「違う」を繰り返す。しかし心の中では、無意識に、責任の多くを藤宮琉璃に押し付ける、より「完璧」な嘘を考えていた。


けれど、涙で曇った目を上げ、彼女の瞳をまっすぐに見たとき、すべての精巧に紡いだ言い訳は一瞬で瓦解した。


胸を鋭い痛みが走った。


私が心に描いていた、何とかごまかせるかもしれないという嘘—— もう彼女の傷口に塩を塗り込むことなどできなかった。


打ち明けろ!星野葵!打ち明けるんだ!結果がどうなろうと、彼女が私を見捨てることになろうと、これ以上彼女をこんなに悲しませ続けるわけにはいかない!


「お願い……綾さん……」私は彼女の手を、命の綱のように死に縋りながら言った。「最後に一度……もう嘘はつきません……お願いだから聞いて……」


神宮寺はもがくのをやめた。うつむいて私を見下ろす。


彼女は黙ったまま、ゆっくりと再びベッドの端に座り直し、暗く重い視線を私に注いだ。それは、最後の審判を待つかのようだった。


そして私は、今まさに語られようとしている、すべてを覆す真実のために、全身が制御できないほど激しく震えていた。冷たい恐怖と、一か八かの解放感が入り混じる。


全身の力を振り絞って、顔を上げ、彼女の視線を受け止めた。声はかすれ、ほとんど喉の奥から絞り出すような、崩れかけた息遣いで。


「ずっと嘘ついてたのは……私……もう……汚れてしまったから……」


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