乙女ゲームのヒロインに転生したから何してもいいよね
原月 藍奈
The point of no return
大人は残酷だ。子供の頃はいろいろな物が輝いて見えた。夢も希望もあった。それなのに今の私には何もない。
中学生になりたての頃に攻略したこの乙女ゲームも、もうすぐ高校生を卒業する私には苦痛だった。
攻略キャラが嫌いになったわけではない。今でもキャラクターは全員好きだし、グッズだって大切に飾ってある。では何がそんなに苦痛なのか。それは妹に対する主人公の接し方であった。
「何で家庭に対してこんなに興味ないのよ」
「うっせーな。休みなんだから自由にさせろよ」
「あなたがそんなんだから――」
今日も繰り返される我が家の日常。
父と母の怒声が耳から頭に通ってくる。だから毎日、私の頭はガンガンと音を立てる。痛い。
何故、喧嘩を繰り返すのだろう。何故、二人は結婚したのだろう。何故、と心に問いかけても誰も答えてはくれない。
――私は二人から愛されているのだろうか――
私は二人の怒鳴り声から逃げるように外へと飛び出す。
いくら頭が痛くても学校には行かなくては。いや、家よりも学校の方が楽だから。だからこの家から飛び出して学校に行きたい。
少し長めのスカートを得意げにひらめかせて、今日もいつもの道を早足で通う。
鞄には中学の頃から好きな乙女ゲームの攻略キャラ、ファントムの缶バッチにキーホルダー。彼を見ているだけで、家での黒いモヤモヤがすっきりと晴れて温かいものが込み上げてくる。
学校の一歩手前の交差点まで来て立ち止まる。
頭がまだ、痛い。
いつもならこの辺りまで来ると多少なりとも頭痛は治まるのだけれど、今日は違う。ここまで来ても痛みは和らぐばかりか激しさを増していく。
ズキズキからガンガンへ、ガンガンからズキズキへ。
私は震える手で頭を抱えながら地べたに座り込む。とてもじゃないけれど立ってはいられない。
「誰か」
口元を痙攣させながら必死に助けを求めるものの、小さすぎるその声は誰にも届いていない。
「誰か、誰か」
遂には視界が揺れ始める。
信号機の色の区別はつかず、電柱はグニャリと一回転。
――このままじゃ、マズイ――
そうは思うものの、助けを呼ぶことも自力で立つこともままならず、硬いコンクリートに背をつけて目を閉じる。
このまま死ぬのだろうか。それもそれでいいのかもしれない。でも、後悔があるとすれば。それは。
――愛されていると感じたかった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます