第23話 コスプレ痴女と三流同人作家と理性崩壊

 半ギレでドアを開けたむにぎり。


 するとそこに立っていたのは……どう見てもホテルの従業員ではなかった。

 

 黄金の仮面をかぶり、白いミリタリー服のような装束を纏った大男だった。

 背中には大きな一対の翼が生えており、頭上には原理不明な光の輪が浮かんでいる。脚には硬そうなニーパッドと軍靴を着用している。


「え…?て、天使?な、なんで」


 慌てるむにぎりに向かって、仮面の男は怒鳴りつけた。


「見つけたぞ堕天使コスエル!!!!!!性的搾取は絶対に食い止めるゥゥァ!!!!天誅ゥゥァァーーーーーッ!!!!!」


 そう言うと、仮面の男はむにぎりの股間を全力で思いっきり蹴り上げた。


 凄まじい衝撃音が鳴り響く。


 股間を蹴り上げられたむにぎりの体は飛び跳ねたかのように少し宙に浮いた。


「あぎゃう゛ぅぅっ!!??」


 肺から空気を絞り出して悲鳴を上げるむにぎり。


 フクロウミノミちゃんのコスプレ姿はビキニアーマー姿だが、ボトムスはミニスカート型の形状になっており、下着は一切着けていない。ノーパンミニスカである。


 一切保護されていない股間へ、軍靴の鋭く強靭な一撃が、直接叩き込まれた。


 女性の股間や下腹部には、痛覚を伝える近く神経が非常に豊富に分布している。外陰部や尿道、膣、子宮、膀胱などは、体の中でも特に高密度に知覚神経の末端が集中している部位である。


 さらに、極めて衝撃に弱い構造をしている。外陰部は骨や皮膚、脂肪組織による保護が少ないため、外部からの直接的な衝撃を受けた時にそのダメージを分散しづらい。

 また、毛細血管が高密度で分布しているため、衝撃を受けると容易に内出血や裂傷を起こしやすい。


 ただでさえデリケートなその部位は、性的な刺激を受けた場合、知覚神経はさらに過敏になり、血管が充血・拡張することで軟組織が膨張し、さらに衝撃に弱くなる。


 むにぎりはシャワー室でその部位をまさぐっていたこともあり、オーガズムに達する寸前であった。

 これにより、生殖器官全体が充血しており、神経は平常時よりもはるかに知覚過敏な状態になっていた。平常時よりもずっとデリケートな状態になっていたのだ。

 

 そんな状態で、一切手加減のない全力の蹴りを股間に叩きこまれた。


 興奮状態で過敏化している高密度で大量の知覚神経は、その強い衝撃を強烈な大激痛の信号として脊椎および脳へ送り込んだ。

 股間の中心から下腹部全体、そして太ももの付け根へと、熱く鋭い電撃のような激痛が一気に広がる。


「あぐっ…う゛ぅ゛っ!!」


 脚の付け根や脚部の自律神経は、その凄まじい苦痛への反射運動を起こし、自動的に硬直した。


 むにぎりの体内で、様々な種類の苦痛や不快感が同時多発的に発生する。


 蹴りを直接受けた外陰部は、毛細血管や軟組織の損傷部位から焼けるような激痛を発し続ける。

 

 衝撃が伝わった骨盤底筋群や膣、子宮は捩じ切られるような重苦しい鈍痛が発生する。


 それらの苦痛が脳に伝わったことで、自律神経系は強い神経系ショックを引き起こし、全身の血管が拡張したことで血圧が急激に低下した。

 これによって脳の血流が大きく減少し、めまいと吐き気が発生した。


「お゛う゛っ……!」


 脚の筋肉が硬直し、平衡感覚を失ったむにぎりは、意志とは無関係にその場にしゃがみ込みそうになる。


 だが仮面の男の攻撃はそこで止まらなかった。すかさず追撃が行われる。

 仮面の男は、むにぎりの腰を掴んで、頭上まで高々と抱え上げた。


 床からおおよそ2mほどの高さまで、むにぎりは抱え上げられる。

 全身の筋肉が痛みへの反射で硬直しているむにぎりは抵抗も受け身もできない。


「下界人への性加害禁止ィィィィアアアーーーーーーーッ!!!!!」


 そして筋骨隆々な仮面の男は、全身の筋力をめいっぱい使って、思いっきりむにぎりを床へ向けて振り下ろす。


 それと同時に、仮面の男は床に右膝を立てた。


 むにぎりの股間は硬いニーパッドへ勢いよく叩きつけられた。超強力版マンハッタンドロップである。


 むにぎりの全体重は、股間と膝の衝突面に集中し、その運動エネルギーの全てが股間一点のみに叩き込まれた。


「かあっはぁぁっ!!!」


 硬い恥骨と硬いニーパッドが激しく打ち付けられ、バキン!と大きな音が鳴る。


 それと同時に、グチャ!という水っぽい音も鳴った。硬いそれらに挟まれ、押しつぶされた外陰部の軟組織が上げた音である。


「あっぐあああぁああぁぁああぁぁああぁあ!!!!」


 むにぎりは股間を押さえながら、うつ伏せに地面に突っ伏した。


「う゛ぅう゛!!!あぅあぅあぅ!!!う゛ーーーーーーーっ!!!!」


 激しく痙攣し、腰をビッタンビッタンと床に打ちつけて悶絶するむにぎり。


 一発目の強烈な股間蹴りをくらった時点で、既に彼女の股間には損傷が発生し、大激痛が生じていた。

 そこへ更なる威力の追撃が発生したのである。それによって加えられた股間への損傷と大激痛は先ほどの比ではない。


 高所から振り下ろされて股間に膝を叩きこまれたむにぎりは、その衝撃が外陰部や臓器だけでなく恥骨や骨盤、脊椎にまで響いていた。


 外陰部の焼けるような鋭い痛みや、尿道・膣・子宮・膀胱の重い鈍痛はさらに強くなり、まるで下腹部へ溶岩をパンパンになるまで注入されたかのような耐えがたい苦痛が襲い掛かる。


「ん゛ぅ゛ーーーーっ!!!ん゛ぅぅ゛ーーーーーっ!!!」


 むにぎりは白目をむいて泣きながら呻いている。顔面蒼白であり、とめどなく汗が流れる。


 股間から上向きに伝わった強い衝撃は、肺を動かす筋肉である横隔膜にもダメージを与えており、やがて横隔膜にも一時的な麻痺が引き起こされた。

 息を吸うことも吐くこともできない呼吸不全状態となり、その苦しみがむにぎりを襲う。


「お゛っ…ごっ…お゛っお゛っ…う゛っ……!」


 神経性ショックはさらに悪化し、血圧の低下により脳に流れる酸素とエネルギーは更に減る。酸欠になった脳は、どんどん意識が薄くなる。

 

 激痛と自律神経の混乱により、立つことや呼吸をすること、意識を保つことすら困難になり、むにぎりは自分の体を全くコントロールできなくなった。


「う゛……ぅ゛……」


 やがて、むにぎりの脳は意識を保つことができなくなり、失神した。

 口の端から垂れたよだれは泡を吹いている。

 意識を失ったむにぎりの体は、びくびくと痙攣し続けている。


 次の瞬間、むにぎりが纏っていたフクロウミノミちゃんのコスプレ衣装であるビキニアーマーは、光の粒子となって霧散した。


 全裸のむにぎりは、股間を押さえたまま痙攣しながら横たわっていた。


 その光景を見た江口は、しばらく驚きのあまり放心していたが、やがてその心情はむにぎりへの心配、そしてむにぎりを傷つけた男への怒りに変わった。


「な、何を……!」


 だが江口の口から出た言葉はそれだけだった。江口は震えていた。恐怖していた。背の高さや体格の屈強さからして、江口の運動不足でひ弱な肉体ではてんで敵わないことは本能的に察してしまう。


 そして男の頭上の光輪と、はためく一対の大きな翼は、江口がこれまでの人生で見知ったいかなる生物とも別種の高位の存在であることを魂へ刻み込むかのようであった。


「や、やめ……!むに、ぎ……」


 手が震える。声が震える。歯が震える。涙が震える。ひたすらに江口は恐怖した。


 その様子を見た仮面の男は、憐みの視線を向け、静かに口を開いた。


「哀れなものだ、青年よ。この痴女に猥褻な性加害をされ、それほどまでに恐怖していたのか」


 その口調は、江口の予想に反して穏やかで、優しさが込められていた。


「もう安心するがよい。汝への姦淫を企てていたこの汚らわしい堕天使は、我が連れ帰る」


 そう言うと、仮面の男はむにぎりを肩へ担ぎ、ホテルの部屋に入ってきた。そして窓を開けた。


 男は背に生えた翼を大きく広げ、飛び立とうとする。


「あ、あ、あの、む、むにぎりさ、な、なんで」


 江口は混乱しながらも、震える声でそう聞いた。


「礼には及ばん。天使の不始末は天使がつける、当然のことだ。それでは」


 そう言い、仮面の男は空へ飛び去って行った。





 江口は唖然として、ホテルの窓から外を眺めていた。何が起こったのか分からない。理解が追い付かない。


 ただし、ホテルの部屋には江口のものではない荷物がまだ残っていて、その持ち主はもうここにはいない。その喪失感は、数分してようやく江口の心に実感として湧き上がってきた。


「むにぎりさん……?むにぎりさん……!」


 混乱した江口は、むにぎりに通話をかける。するとむにぎりのバッグの中から着信音が鳴った。


「はぁ……!はぁ……!なんだ、何なんだよ……!返せ……!俺のむにぎりさん……!返せぇぇっ……!」


 絞り出すようなか細い声で、江口は窓の外へそう慟哭した。


「な、なんなんだ、どうすればいいんだ?どうすればむにぎりさんを助けられる?ふ、不審者?強盗?と、とりあえずホテルのフロントに電話して……!」


 電話をかけると、ホテルの従業員が部屋にやってきた。


「どうされました?」


「い、一緒に泊まった女の子が!急に入ってきた男に蹴られて!そこの窓から拉致されていったんです!!」


「じ、事件!?」

 

 やがてホテルのスタッフは警察に通報した。程なくして、警官たちがやってきた。


 警官は江口に聞き取りを行う。


「そ、それで犯人の特徴は?」


「でかい男です!黄金の仮面をつけてて、白いアーミーみたいな服で!背中から翼が生えてて、空を飛ぶんです!頭の上には光る輪っかがありました!」


「は、はぁ?仮装とトリックかなんかですか?」


 警官たちは現場の検証をしたが、犯人の手がかりは全くつかめなかった。


「それで、そもそも被害者はどなたなんですか?」


「ネットで知り合ったむにぎりっていう女の人です!本名は聞いてませんが……、そこの荷物に、身分証明書かなんかあるかもしれません」


「拝見します」


 警官は、むにぎりの荷物を確認するが……


「身分証が何もありません」


「え?そ、そんなはず……。スマホ契約できてるんだから、何かしらあるはずでは?」





 その後様々な捜査が行われたが、結局「むにぎり」と名乗った女性の本名は不明だった。


 スマホを契約会社に持ち込んでキャリアの特定をしてもらおうとしたが、そもそも契約者情報すら不明であった。


 被害者が不明なのだから、事件の捜査そのものも続行不可能となり、打ち切られた。



 一週間後、自室で意気消沈している江口の姿があった。


「そんなはずないんだ。むにぎりさんが……存在しなかったなんて……。確かに、あの子の写真はネットに今も上がってて……。俺のアカウントには、あの子が送ってきたメッセージが残ってるんだ……」


 江口の頬を涙が伝う。


「天使……なにが天使だ……!本当に天使がいるのなら……!むにぎりさんを返してくれよ……!」


 そう祈っても、何も変わらない。


 落ち込んだ気分の江口は、むにぎりが遺してくれたものを縋りつくように見漁った。


 更新がすっかり止まってしまった、むにぎりの有料記事の、18禁動画である。


「はぁはぁ、むにぎりさん、むにぎりさん……!フクロウミノミちゃんっ……!」


 数分後、ティッシュの塊がひとつ転がった。







 ……その頃。


 雲よりも高い空の上。


 地上から約25kmほどの高度。


 オゾン層付近の時空の狭間に隠された、生きた人類が未だ観測に成功していない高次元領域があった。


 その名は「天界」。

 天使と死者が住まう領域である。


 さて。天国の門の周辺には、「煉獄」とよばれる天地の狭間の領域が広がっている。


 煉獄を見渡すと、ひとつの大きな建築物があった。


 建築物の門には「東アジア支部 女天使刑務所」と書かれている。




 女天使刑務所の一室。


 独房の中に、一人の美少女が座っていた。

 

「うぅ……太田くん太田くん太田くん太田くん……!太田くん成分が足りない、足りない……!」


 地上では夢女芽有栖と名乗っていた少女。


 夢天使ユメエルが、苦しそうな表情で体育座りをし、独り言をつぶやいていた。


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