後輩の美人営業が「オレ専属」になって12歳差を寄せてくる日々【オレセン】

ちかあまりく

第1章 後輩の美人営業が「オレ専属」になった

第1話 8月1日

午前十時半。

自宅兼事務所の机に向かい、オレ 佐藤さとう良樹よしきは広告レポートの数値を眺めていた。


約15年務めた広告代理店から7月にマーケターとして独立して一か月。独立前の会社との関係も良好で、退職時もいくつかの広告運用案件を振ってくれた。少しずつペースがつかめてきたが、案件はまだ四件。


手応えもこれから――そう思っていた矢先に、ビジネスチャットの通知音が軽く響いた。



“佐藤先輩が担当している中規模案件を、私が営業かけて4件から8件に増やしましたよ。

今日から私が先輩の専属になって、先輩のお仕事をぜーんぶ担当するので、よろしくお願いしますね!”




「……8件? 専属?」


思わず声が漏れる。

送信者は、以前に同じマーケティングの部署で一年間一緒に働いた会社の後輩、真鍋まなべ玲奈れな。入社して3年目でいまは営業部門に配属されている。


オレが会社から独立した後は真鍋とは月に一度、クライアントの1社の案件についてオンラインで短く打ち合わせをする程度だったのに、急な展開だ。

そういえば、先週、案件の数は最大何件担当できるか、真鍋に聞かれて8件と答えたが、こんな急に話が進むとは。


“詳細を聞きたい。今日の午後、オンラインでいいから時間取れる?“


“13時から駅前徒歩2分の貸し会議室を押さえました。先輩の好きなアイスコーヒー買っていきます。“


この段取りの速さ。変わらないどころか、以前よりも冴えている。

PCを閉じ、外出の準備に取りかかった。






駅近ビルの四階、廊下の突き当たりにあるガラス扉の前。

真鍋はすでに立って待っていた。


ライトグレーの薄手ジャケットに白いブラウス、ネイビーの細身パンツ。営業らしいきちんと感がありながら、素材と色が柔らかく、初対面の相手にも警戒心を与えないだろう。肩で揺れる黒髪のセミロングを耳にかけ、大きな瞳は黒曜石のように澄んでいる。


「お久しぶりです、先輩」


「久しぶりだね。元気そうで」


「専属初日ですから」


軽く笑い、紙袋からアイスコーヒーを取り出して手渡してくれる。

中に入ると、外部モニターにはすでに資料が表示され、手元のタブレットの画面にも数字とグラフがびっしりと映っていた。


「まず、案件が4件から8件になった経緯から」


彼女の説明は簡潔だった。既存の4社に加え、見直し候補だった1社を営業で取り戻し、新規で3社を獲得。合計8社。すべて中規模で、年間契約の見込みとのことだ。


「どうやってここまで取れた?」


「半分は先輩の名前ですよ。『佐藤さんが運用するなら契約する』って。」


「持ち上げるのがうまくなったな」


「事実です。クライアント目線でちゃんと結果を出す人って、意外と少ないんですから。先輩が8社まで対応いただけるということで頑張って営業かけたんですよ。」


黒曜石の瞳がまっすぐこちらを射抜く。

一年間、マーケティング業務を担当していたときから、彼女は人を観察するのが得意だった。それが営業職に異動して磨かれ、数字を取る武器に変わったのだろう。


「で、専属っていうのは?」


「これまで先輩が担当している案件は私も含めて4名が営業を担当していました。先輩の担当する案件数が8社になったことで、4名の営業が別々に打ち合わせすると情報共有が大変になります。そこで営業担当者間で担当案件を入れ替えて、8社とも私が営業を担当することになりました。打ち合わせや調整は私がまとめるので、先輩はマーケティング施策の戦略設計に集中してください」


「ありがたいけど、社内的に大丈夫なのか?」


「部長のOKは取っています。『佐藤と真鍋のコンビなら安心』って」


真鍋の発するその言葉は妙に耳に残った。


ひと通り案件整理が終わると、真鍋がタブレットを閉じて言った。


「さっそくですが、このあと三十分だけ時間もらえますか? 駅前にあるクライアント店舗を見に行きたいんです」


「下見か?」


「はい。北欧雑貨店のお客様の層と買い物の流れを見ておきたいんです。インターネット広告が依頼範囲ではありますが、店舗の客層や売れ筋商品も把握しておきたくて」


「わかった」





駅前の交差点を渡り、ガラス張りの路面店に入る。冷房の涼しさと、ほのかなアロマの香りが漂っていた。


「平日昼間だから主婦層が多いですね。30〜40代女性が半分以上」


「男性は仕事の合間だな。スーツ姿で目的の商品だけ持ってすぐレジ」


「若い女性は入口の新作コーナーで長く立ち止まってますね。スマホで写真撮ってる人も多い」


「その場でSNSに上げてるかもしれないな。そういう人は友達に見せたくて買う可能性が高い」


「年配の男性は最初からレジに一直線。常連かもしれません」


真鍋はスマホでメモを取りながら、お客が立ち止まる場所や買い物かごの中身までさりげなく記録していく。


「入口からレジまで一直線に行く人と、店内を一周してから買う人、半々くらいですね」


「Web広告も新規向けと常連向けで分ければ無駄打ちが減る」


「やっぱり現場を見ると、ネットの打ち出し方も変わりますね」


短いやり取りの中で、次回の提案の方向性が見えてくる。それは仕事の精度を上げる作業であり、オレと真鍋との認識が一致しているかの確認作業でもあった。


店を出ると、真夏の熱気が肌にまとわりつく。

真鍋はスマホを操作しながら、さらりと言った。


「来週も同じ曜日の13時から貸会議室を取っています。会議2時間、店舗チェック30分で」


「もう会議室押さえているのか?」


「はい。先輩のスケジュールをきっちり押さえるのも、私の営業としての仕事ですから」


笑いながら送られてきたカレンダー招待がスマホに表示される。断る理由はない。

承諾ボタンを押すと、彼女は小さく会釈して駅の方へ歩き出した。


「……専属、ね」


熱気に消えるつぶやき。


真鍋のライトグレーのジャケットが陽の光を反射し、柔らかく揺れる。

営業の背中、だけど新入社員だったころの真鍋玲奈の雰囲気が混ざっていた。







ーーーーーーーー

社会人ラブコメ「オレセン」連載スタートしました。理久(りく)です。


なぜか恋愛には奥手の主人公、佐藤良樹と

グイグイ予定を入れてくる12歳年下の営業の美人後輩、真鍋玲奈


年の差12歳、取引先という関係性から、お互いに好印象は持ちながらも

仕事以上の関係から一歩踏み出すのに躊躇してしまう。

専属の担当者なので、打ち合わせも出張もいつも2人だけ。

自宅兼事務所で距離感近くなるドキドキも。


そんな、ジレジレする社会人ラブコメ。

専属担当となった玲奈は、ちょっとずつプライベートも独占し始める?


作品をフォローして専属になってから1か月、3か月、6か月と

2人の関係を♡で応援して、見守っていただけると嬉しいです

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