第18話
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ロベルト達三人はアヒルの精霊のいた場所に戻り、それからトンネルを抜けた。
精霊との別れを済まし、新たに来た場所はなだらかな丘陵地。辺り一面の草原に木々や森が点在している場所だった。
沙希とみなみが顔を見合わせ「ここだ!」と声を上げる。
ロベルトは何のことか理解出来ずに首を傾げると、沙希が鞄から三枚のカードを取り出し「宝探しだよ!」と満面の笑みを浮かべる。
二日前に麗奈から渡された三枚のカード。
この三枚のカードが今日泊まる場所を示しているという。それを三人で探す一種の遊びのようなものだ。
キラキラと目を輝かせながらはしゃぐ三人の姿はまるで子どものようで微笑ましい。
さあ探すぞー!となった時、配信画面からからピンポンと呼び出し音が鳴る。
初めて聞く呼び出し音にロベルトが困惑しながら画面を操作すると、配信画面に麗奈から、
『ロベルト君、これから探すなら配信終了してね!まぁ流石に忘れてないとは思うけど、念のため』
と、メッセージが届いていた。
それを見たロベルトは配信画面から麗奈に、
「れ、麗奈さん。そんな大事なこと忘れる訳ないじゃないですか、ははは」
と、応えるがそのロベルトの表情は、誰が見ても忘れていたと分かる程めちゃくちゃ顔に出ていた。
それを見た沙希とみなみは地面を叩きながら爆笑し、文字通り笑い転げている。
ロベルトは今にも笑い死にしそうな沙希とみなみに挟まれ平静を装いながら視聴者に事情を説明。
この時のコメント欄はロベルトのあまりにも酷い大根芝居に大量の草が生え、沙希とみなみの笑い声と共に賑やかに配信を終えた。
それから三人は改めてカードを確認。
一枚目のカードは鍵穴に似ている図形。
二枚目のカードはハートマーク。
三枚目のカードが笑顔のおじさん。このおじさんは村でトマトを作っている人。
ロベルトが唸り声を上げていると、みなみがおじさんのカードを指して「岩下さんだ!」と元気よく解答。
沙希がそれに頷きながら「そうそう!」と応えた。
ロベルトはそれが何のヒントになるのか、全く理解出来ずに思考を巡らす。
そしてその思考は声となって、
「岩下さんか。まさか岩の下とか?」
「「……おいたん?!」」
思わず出た声に沙希とみなみが反応。
二人はロベルトを信じられないという目で見つめていた。
ロベルトはそんな純粋な瞳に耐えられず、慌てて訂正をした。
「あ。すまんすまん声に出てたか。こんな単純な筈無いよな?こういうの初めてだから夢中になっちゃってさ――」
「――おいたん天才か?」
「すごいすごい!おいたんすごいじゃん!」
「え?」
「多分正解だよ!それ」
「そうそう!前にも似たようなのあった!えーと確か木下さんの時」
まさかの正解。
ロベルトは安易に口から漏れた言葉が正しかったとは思っていなかったので一瞬困惑するが、とりあえず沙希とみなみが嬉しそうにしていたので素直に喜んだ。
三人で他の二枚のカードについて考えるがこれといった答えがなく、ひとまず岩の下を片っ端から探すことにした。
探すといっても目の前に広がる草原は相当広い。
地平線が見える位は広かった。
それでも三人は楽しそうに探索を始める。
一定の距離を空けつつ三人が横並びで大小問わず岩の下を見ていく。
途中魔物が来たらカバーし合いながら、探索の範囲をどんどん広げていった。
それからしばらくの間、探索を続けていると空が赤みがかって来て陽が落ちる時間帯となってきた。
ダンジョン自体には太陽はないが空の色は外と同じように変わっていく。
ロベルトは太陽がないのに変わっていく、そんな空の様子を見ながら「不思議だよな」と雑談をしていると、沙希とみなみが口を揃えて「切り取られた世界だからね」と応える。
何気ない雑談からとんでもない情報が飛び出す。
沙希とみなみがいうにはふれあい広場――ダンジョン――は他の世界の破片。
いわゆる地球とは異なる別の世界があり、この世界も同じように時を経ているという。
何らかの影響で地球と繋がっているだけで、空間そのものが切り取られたような形でちゃんと実在する世界である。
ロベルトはそんな世界を揺るがす新たな情報に驚きはするが、深く考えることはしなかった。
『俺が考えても理解出来ないだろう』
ロベルトはそんな最強のカードを切り出しながら探索を続けていく。
そうこうしている内に空の色は夕暮れに染まっていた。
真っ赤に染まった空の下。三人はようやく気付きを得る。
このままでは終わらない。
沙希が一度全体的に見てみようよと声をかけ、三人でシールドブロックを作って草原の全容を見渡すことにした。
ポンポンと手際よくブロックを作り、上へ上へと登っていく。
完成したブロックを登り切ると、言葉では表せないような夕暮れに染まる絶景が飛び込んでくる。
三人はその美しさに感嘆し笑みを溢す。
しばらくの間景色を堪能していた三人だが、みなみが突然「あった!」と声をあげた。
ロベルトはみなみが指す場所を見ると、カードにある鍵穴のような形をした森があった。
これは上から見ないと分からない。
そう思えるくらいその森は大きく、地上だけ探索していたら普通の森だと勘違いするだろう。
小さい頃からシールドブロックを使って遊んでいた二人にはぴったりなヒントである。
ロベルトはその広大な森を見据えながら、最後のカードについて考える。
捻りなく考えれば愛、心、心臓が無難なところではある。
しかし森と図形が結びつくとは思えなかった。
「うーん。愛、心、心臓、結びつかんよな」
「おいたん?すごいじゃん!」
「天才だよ!冴えまくりだよ!おいたん」
「え?いやいやいや。あの森、鍵穴みたいな形をしてるから別の意味があるんじゃない?」
「えー。合ってると思うよ、だって人みたいな形してるし」
「そうそう!沙希達はずっと人型の図形だと思ってた!」
「うおっ!言われてみれば人型じゃん!え、もしかしたら俺って賢いのか?」
ドヤ顔のロベルト。
しかし沙希とみなみの興味は既に移っており、ロベルトの問いに応える事なく、さくさくとブロックを降り始めていた。
ひとり佇むロベルトの背中が寂しい。
だが本当に残念なのはこのロベルトの活躍を配信していない点だろう。
脳筋イメージが強いロベルトが謎解きゲームで大活躍したと言っても誰にも信じて貰えないのだから。
三人が森の心臓部に当る地点へ移動すると、そこには家くらい大きな岩があった。
ロベルトは岩を見上げながら「この下?」と不安な表情を浮かべる。
どう見ても動かせるような大きさではない。
そんなロベルトの不安を沙希が打ち砕くように、
「ふっ。れいままも甘いなー沙希に引っかけ問題は通用しないよー」
と言いながら、岩に手をかざし魔力を込めた。
すると岩の中心部に薄っすらとドアの形をした線が現れる。線が少しずつ明確になっていき、やがてガシャンという機械音と共にドアが現れた。
三人は手を挙げて喜ぶ。
岩の下は正解ではあるが、岩を移動させるのではなく、隠されたドアを使って岩の下へ行くのが正しい。
麗奈が魔力認識の魔道具は岩の中に隠されていたのだった。
そして三人はワイワイと騒ぎながらドアを開け、階段を降りて行くのであった。
▽▼▽
一方、沙耶の家。
あれから沙耶は雫をひとり放置し、そのまま爆睡していた。
そして残された雫はタブレットでロベルトの配信を見ていたが、これから隠された場所を探すという事で配信は締められ、やることがなくなってしまった。
雫はとりあえず爆睡している沙耶を毛布で包み、足を掴みズルズルと引きずって寝室まで沙耶を運ぶ。
それから雑に散らかっているリビングを掃除し、ベイダー卿のマスクを装着し沙耶の家を出る。
向かう先は魔法士協会だ。
雫は沙耶から貰ったライトセイバーを使いたくてうずうずしていた。
鼻歌交じりの自作の歌を歌いながら軽快に街を走る。
魔法士協会に着くと雨宮が待ち構えていた。
雨宮は雫を見つけるとすぐに背後に回り、ベイダー卿のマスクに手をかけ装着ロックを解除。そのまま雫からマスクを取り上げた。
その手際は何度も繰り返しているだけあって手慣れたものだった。
「ん。雨宮、返せ!」
「それは返答次第だぜ神崎ちゃん。そんな格好でどこに行って来たんだ?」
「んー。んー……沙耶の家?」
「おいおい駄目って言われてんだろ。まったくよー!一緒に怒られてやるからよ何があったか正直に話せるな?」
「ん。仕方ない。雨宮は馬鹿だけど信用できる男。訓練室に行く――ついてこい」
「かぁ〜。素直なんだけどなー!神崎ちゃん俺の扱い雑なんよー何とかならんのそれ?」
「ならん。行くぞ!」
雨宮は文句を言いながらも、前を歩く雫についていく。
訓練室に着くと雨宮が心配そうに雫を見つめ「怒らんからよ」と言い話を促す。
雫はそれに頷きで応え「雨宮、フォースはあった」と真剣な瞳で返した。
意味が分からない。
雨宮は規則を破ってまで沙耶に会いに行った理由を話してくれると思っていた。
それが「フォースはあった」と一言。
雨宮にはそれが謎かけなのか、何かを比喩した表現なのか分からなかった。
ただ一つだけ分かったことがある。
それは長い間お目付け役を担っている雨宮にだけ分かること。
「神崎ちゃん。流石にそれだけじゃわかんねーわ!でもその様子じゃ何か嬉しいことでもあったんか?」
「ん。よく分かったな雨宮!褒美に我が家宝を見せてやろう」
「うぉおぉい?!これロベルトのおっさんが持ってたライトセイバーじゃねぇかよ!」
驚く雨宮の反応を見て、雫が珍しく甲高い声で笑う。それほど嬉しかったのだろう。
その様子に雨宮は素直に喜ぶ。
雨宮は雫の長年の夢だった想いが叶ったことが自分のことのように嬉しかった。
普段から表情の乏しい雫が満面の笑みを浮かべ大事そうにライトセイバーを抱える雫に雨宮は優しい眼差しを向けていた。
そんな雨宮の姿はまるで娘を見守る親のようにも見える。
「良かったじゃねぇか!夢だったもんな」
「ん。とても嬉しい」
「だから会いに行ったんか。そりゃしゃあないな!で、神崎ちゃん。使って見たくて訓練室に来たんだろ?」
雨宮の問いに雫は悲壮な表情を浮かべる。
目を潤ませ今にも泣きそうだった。
それを見た雨宮は全てを察し雫の練習に付き合うことにした。
雫は現在、ライトセイバーを起動すら出来ない状態である。沙耶から使えるようになるのはかなり難しいとは聞いていた。
起動出来る人は魔法士の中でもひと握り。
実戦で使えるよう人などは更に限られるだろうと沙耶は言っていた。
加えて。
ライトセイバーを初日から使えるロベルトが稀な存在で、麗奈が驚くほど特異な人物なので参考にはならないし、ロベルトを基準に考えるべきではないと釘を刺されている。
更に、もしかすると雫には使えない可能性があるとも言われていた。
でも雫はどうしても諦められなかった。
とりあえず二人は起動の練習を始めた。
ライトセイバーを手に取って試行錯誤しながら色々と試してみる。二人であーだこーだ言い合いながら練習に熱が入っていく。
雫は魔法士になりたての頃を思い出したのか楽しそうにしていた。
時間を忘れてしまうほど二人は没頭。
しばらくすると雨宮が何かを掴み始めた。
雨宮は魔法士協会の中でも魔力操作に関しては郡を抜いて上手い。
間違いなく天才の部類に入る人物ではある。
そんな雨宮が雫へと見向き、
「神崎ちゃん。俺、分かっちゃったかも」
「ほんとか?!」
「おう!よく見てな――ほらよっと!」
「うおーーでかした雨宮!早く教えろ!どうやった?!教えろ雨宮、ねぇ早く教えろよ」
雫が子どものようにはしゃぐ。
雨宮の服を掴みブンブンと左右に振り回す。
そんな雫に雨宮は「おい止めろ!」と言いながらも表情は嬉しそうだった。
それから雨宮は雫に詳しく教えていく。
雨宮のレクチャーは雫にとって分かりやすいものだった。それは雫が高校生の時から魔法を教えていたこともあって雫の癖や性格を熟知しているからだろう。
雨宮は時折、他の魔法を例にとり実際に見せながら魔力操作を教えていった。
そうしていく内に徐々にではあるがライトセイバーが反応するようになっていく。
そして遂に――
「ん。雨宮、よく見てな――ほらよっと!」
「うおぉぉおおお!やったじゃん神崎ちゃん!」
「やったやったあぁぁぁぁ!見て見て雨宮。起動した、起動したよー!」
「おう!おめでとう神崎ちゃん!頑張ったな」
二人で喜びを分かち合う。
長時間魔力を使い続けながら練習していたこともあって二人はヘトヘトだった。
それほど夢中で打ち込んでいた。
お互い顔を見合わせ笑顔でハイタッチを交わすと雫の腹がタイミングよく、ぐぅぅと大きな音を鳴らし主張する。
時計を見ると22時を過ぎていた。
「ん。雨宮、腹減った」
「そうだな。じゃラーメン行くか?」
雫がこくりと頷く。
昔から変わらないこの流れ。
雫が高校生の時から雨宮は時間がある時に訓練に付き合ってくれて、腹が減ったら雫の大好きなラーメンを食べに行く。お決まりの流れだ。
二人は今日の訓練室を出て観覧ロビーを通る時、周りにいる魔法士達の様子がいつもと違う雰囲気だった。
全体的にどこか落ち着きがなく、不安な表情を浮かべる者が多い。
雨宮が立ち話をしている魔法士にどうしたのか訊ねると全国から各支部長や責任者、A級魔法士が来ているという。
この時、雫と雨宮はまだ知らなかった。
それは二人にとっては予想すらしてない出来事で、二人の未来にも関わることだった。
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