第13章 絆を裂く剣

夜の森に、剣戟の響きが鳴り渡った。

 アレンとレオンの刃が幾度も交差し、火花が散る。


「くっ……!」

 アレンは剣を受け止めながら、腕に重い衝撃を感じていた。

 レオンの一撃は迷いなく鋭い。かつて共に戦った時のような守り合う剣ではなく、容赦なき殺意を帯びた剣だった。


「本気で……殺すつもりか、レオン!」

「違う! 俺はお前を止めたいんだ!」

「その剣でか!」


 怒号と共にアレンは力を込め、レオンを押し返した。

 互いに息を荒げながら、再び間合いを詰める。



 周囲の兵士たちは固唾を呑んで見守っていた。

 勇者と騎士団長――どちらも国の象徴的な存在であり、本来なら決して敵対するはずのない二人。

 その戦いは兵たちの心を大きく揺さぶっていた。


「これが……命令なのか?」

「勇者を討てだなんて……」

「俺は、剣を振るう手が震える……」


 兵士たちの視線は次第に迷いに満ちていく。



「やめてぇぇっ!」

 鋭い金属音を裂くように、ミラの叫びが響いた。


 彼女はアレンとレオンの間に駆け寄り、両腕を広げる。

「どうして……! あなたたちは仲間でしょう!? 一緒に笑って、一緒に戦ったじゃない!」


 涙で濡れた瞳が揺れる。

「アレンは裏切ってなんかいない! 信じて……! お願いだから、信じてよ!」


 その声は、二人の心に突き刺さった。



 アレンは剣を下ろそうとした。

 だが、レオンの刃は止まらなかった。

 振り下ろされた剣がアレンを襲う――。


 瞬間、リディアの詠唱が響いた。

「〈防壁の結界〉!」


 透明な壁が間に展開し、剣と剣の衝突が阻まれた。

 雷鳴のような衝撃音が夜の森を揺らす。


 レオンの瞳が驚愕に揺れた。

「……魔術院の者、か」


「いいえ」

 リディアは冷たい声で返す。

「私は勇者の“導き手”。あなたの剣は、世界を破滅へ導くわ」



 兵士たちは混乱していた。

「導き手……?」

「何を言ってるんだ……」

「勇者が世界を選ぶ……? 本当なのか……?」


 揺らぐ兵たちの視線を前に、レオンの顔にも迷いが浮かんだ。

 だが、それをかき消すように剣を構え直す。


「俺は……命令を果たす。それが俺の責務だ!」


 しかしその声は震えていた。



 アレンは剣を握り締めた。

 レオンは敵ではない。だが、この戦いを避けることもできない。

 もしここで倒れれば、ミラも、リディアも、真実も守れない。


「なら、俺も覚悟を示す!」

 剣先が夜空を切り裂いた。


 ――絆を裂く剣が交わる瞬間、運命の針は大きく動こうとしていた。

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