第13章 絆を裂く剣
夜の森に、剣戟の響きが鳴り渡った。
アレンとレオンの刃が幾度も交差し、火花が散る。
「くっ……!」
アレンは剣を受け止めながら、腕に重い衝撃を感じていた。
レオンの一撃は迷いなく鋭い。かつて共に戦った時のような守り合う剣ではなく、容赦なき殺意を帯びた剣だった。
「本気で……殺すつもりか、レオン!」
「違う! 俺はお前を止めたいんだ!」
「その剣でか!」
怒号と共にアレンは力を込め、レオンを押し返した。
互いに息を荒げながら、再び間合いを詰める。
◆
周囲の兵士たちは固唾を呑んで見守っていた。
勇者と騎士団長――どちらも国の象徴的な存在であり、本来なら決して敵対するはずのない二人。
その戦いは兵たちの心を大きく揺さぶっていた。
「これが……命令なのか?」
「勇者を討てだなんて……」
「俺は、剣を振るう手が震える……」
兵士たちの視線は次第に迷いに満ちていく。
◆
「やめてぇぇっ!」
鋭い金属音を裂くように、ミラの叫びが響いた。
彼女はアレンとレオンの間に駆け寄り、両腕を広げる。
「どうして……! あなたたちは仲間でしょう!? 一緒に笑って、一緒に戦ったじゃない!」
涙で濡れた瞳が揺れる。
「アレンは裏切ってなんかいない! 信じて……! お願いだから、信じてよ!」
その声は、二人の心に突き刺さった。
◆
アレンは剣を下ろそうとした。
だが、レオンの刃は止まらなかった。
振り下ろされた剣がアレンを襲う――。
瞬間、リディアの詠唱が響いた。
「〈防壁の結界〉!」
透明な壁が間に展開し、剣と剣の衝突が阻まれた。
雷鳴のような衝撃音が夜の森を揺らす。
レオンの瞳が驚愕に揺れた。
「……魔術院の者、か」
「いいえ」
リディアは冷たい声で返す。
「私は勇者の“導き手”。あなたの剣は、世界を破滅へ導くわ」
◆
兵士たちは混乱していた。
「導き手……?」
「何を言ってるんだ……」
「勇者が世界を選ぶ……? 本当なのか……?」
揺らぐ兵たちの視線を前に、レオンの顔にも迷いが浮かんだ。
だが、それをかき消すように剣を構え直す。
「俺は……命令を果たす。それが俺の責務だ!」
しかしその声は震えていた。
◆
アレンは剣を握り締めた。
レオンは敵ではない。だが、この戦いを避けることもできない。
もしここで倒れれば、ミラも、リディアも、真実も守れない。
「なら、俺も覚悟を示す!」
剣先が夜空を切り裂いた。
――絆を裂く剣が交わる瞬間、運命の針は大きく動こうとしていた。
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