第31章 潜入!

 【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。



 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。

 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。 

https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。




【本編】

  ――地下水路。


 ひなた、京子、亮の3人は、息を整えながら大きな鉄扉の前に立っていた。

 入り口付近には、水に濡れた足跡――ウィリアムの痕跡が残されていた。

 

 亮が目を細める。

「もう、どこにも引き返す道は無いな」

 京子がうなづく。

「明智さんが……二度も開いてくれた道。無駄にはできないわね」

 ひなたが唇を噛み締めた。

「……奴らに見つからないように――番号は覚えてる?」

 そして、京子に視線を向けた。


 京子は静かにうなづく。

「ええ……6.5.6.1。確かに見たわ」

 亮が感心しながらうなづく。

「さすがの観察力だな」

 そこにひなたの言葉が重なった。

 拳を握りしめて、一同に告げる。

「行くわよ!」

 一同は力強くうなゔく。


 

 ――そして、鉄扉のロックが解除され、重い音を立てて開いた。


 ひなたたちが部屋に入ると、扉が不気味な音を立てて閉まる。


 ――ゴゴゴゴゴ……ピシャン!

 

 ひなたが周囲を見回す。

「ここにも……水が流れてるわね」

 湿った地下の空気が、ひなたたちの頬をなぞった。


 鉄扉を越えた先――そこは、これまでの水路よりも人工的な空間だった。


 床には大きな水滴が点々と並んでいる。

 いや、水滴ではない。


「……これ」

 京子が思わず声を漏らす。

 

 足跡――水で濡れた巨大な足跡が、闇に向かって続いていた。


「ウィリアム先生の……」

 ひなたの背筋に冷たいものが走る。

「やべえぞ?」

「これを避けないと……」

 亮と京子の声は小さく震えていた。


 一同は互いにうなずき合い、慎重にその軌跡を跨いでいく。

 一歩でも踏み込めば、足跡に残る湿り気で存在が露見してしまう――そんな直感が働いた。

 それに、足跡をたどれば、わざわざ自分から脅威に近づくようなものだ。


 ――カチ、カチ……。


 奥からは、不気味な機械音が響いてくる。

 壁に埋め込まれた端末の数々が、赤や青のランプを不規則に点滅させていた。

 

 だが――


「おい、見ろよ」

 亮が小声をあげた。


 ――ザーッ!ザーッ!


 ――ブクブクブクブク……。

 

 廊下の一角、床に沈んだ端末が水に半ば浸かっている。

 そこから気泡のような音を立て、画面に奇怪な文字列が走っていた。


「なんで水の中に……?」

 ひなたは眉をひそめ、胸のざわめきを押さえるように呼吸を整えた。

 

 ひなたの共感力がざわついた。

 その目は、真っ直ぐに水に浸かる端末。そして、周囲に広がる微かな湯気をとらえていた。

「……そうか」

 ひなたの目が見開かれる。

「水を引き込んでるのは……冷却のためだわ」

「冷却?」

 京子が振り返る。

 そして、ひなたが言葉を続ける。

「端末は一台じゃない。何か大きな事をしてるのよ。この地下全体で……!端末の熱を逃がすために、水を直接使ってる」

 亮が訝し気な表情をした。

「なんでそんな事わかるんだよ?」

 

 ひなたが何かを思い出したようにうなづく。

「麻倉さんの言葉を思い出したの――」


 ――大量通信によるサーバーダウンとか――。


 ――水冷サーバーを取り入れる企業さんもあるみたいですね――。


「!」

 一同の表情が強張った。

 ファウンデーションがただの学園の裏に収めておける代物ではない――その事実が突きつけられた。


 ――ジジッ。


 突如、監視カメラのレンズが赤く光を帯びた。

「しまっ……!」

 柊の影に身を潜め、息を殺す。

 赤い光点が彼らの上をなぞり、やがてゆっくりと反対方向へ移動していった。


「……危なかった」

 亮が小さく息を吐く。

「気を抜かないで、次はないわよ?」

 京子が釘を刺した。

 一瞬、ひなたが不安そうな顔を浮かべる。

「見つかって……ないわよね――」


 再び進み始めたその時――。


 ――キィィィィン……。


「!」

 ひなたの耳が震えた。

 微かな、だが確かに届くバイオリンの音。


「また……?」

 京子の表情に疑念が浮かぶ。

「どうしてこんな所で……」


 音に惹かれるように、彼らの足取りは自然と奥へ進んでいった。


 そして――。


 行き着いた先に、一枚の重厚な扉が立ちはだかっていた。

 銀色のプレートに刻まれた文字が、冷たく光を放つ。


Dreadnought ドレッドノートsonicソニック Cannonキャノン制御室』


「これって……」

 ひなたが声を失った。


 胸の共感力がざわめき、まるで何かが「ここがすべての中心だ」と告げているかのように、鼓動が激しくなった。


 亮が驚きながらつぶやきを漏らす。

Dreadnoughドレッドノート……?」

 京子もうなづく。

「世界史で習った、イギリスの巨大戦艦の名前――それに……」


 亮が目を細め、京子に訝し気な表情を浮かべる。

「それに――って?」

 京子の表情が引き締まる。

「プールでウィリアム先生が言ってた。"D"を完成させるためって……」


ドレッドノートDreadnought……D……同じ"頭文字"……」

 ひなたの共感力がざわめく――。

 脳裏に様々な光景がフラッシュバックされる。

 不安に揺れる感情が激しい鼓動となって、胸を打った。


 

 ――音楽室での佑梨と、霧島橋での事故。


 ――霧島橋で見た、救急車と半グレたちの死体。


 ひなたの顔から血の気が引いていく。

(嘘でしょ……まさか――)


「けど――小河さんって、今入院中なんでしょ?彼女が仮に何かの関わりがあったとしても――」

 そう言いかけたその時だった。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「しまった!」

 突如、目の前の重厚な扉が重い音を立てて開く。

 すると、そこには見覚えのある黒い影が立っていた。

 影はひなたたちを鋭い刃物のような視線を送る。

「監視カメラに引っかかってくれて、助かるよ。とうとうここまで来てしまったか……」


 影の姿が光を帯びる。

 その姿を見て、ひなたは驚きの声をあげた。

「志牟螺先生!?」

(やっぱり……あの監視カメラに――)


【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

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