第23章 静かな絆

 【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。

 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。

 https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。


【本編】

 夜の私立あかつき学園内の校舎。

 唯一の出入り口である霧島橋は崩落――激しく振り続ける雨を避けるため、ひなたたち5人は、やむなく学園内に戻っていた。


 ――人気の無い、廊下の片隅。


 ひなた、京子、亮。

 そして、恭二と柑奈たちは、息を潜め打開案を模索していた。


「橋は渡れない。まずは出口を探そう」

 恭二の低い声が、雨に濡れた廊下に響いた。

「それとも……安全な隠れ場所――」


「でも、地図データも……通信妨害で使えないわ」

 柑奈が苛立ちを隠さず腕を組む。

「状況から、NPSOの応援部隊が動き出すはず――けど、到着までには最低でも1時間ね……」


「脱出――それとも……」

 ひなたは唇を噛み、必死に考えを巡らせた。

 その時、亮がぽつりと口を開く。

「けどさ……学園にファウンデーションが潜んでるなら、脱出口くらい仕込んでるんじゃねえの?」


「でも……それって敵のど真ん中じゃない?出口なら身近な所にあるばすだし――」

 京子の声は震え、窓を打つ冷たい雨音に溶けた。


「そうなると理事長室か……だが――危険すぎる」

 恭二が眉間に皺を寄せると、柑奈も小さくうなずいた。

「正面突破は無謀ね」


 その瞬間――ひなたの共感力がざわめいた。

 胸の奥に響く水音。雷鳴と重なり、鮮やかな像が脳裏に浮かぶ。


(……プール……?)


 脳裏に浮かんだのは、かつてスマホでなんとなく目を通した校史の一文だった。

 ――“あかつき学園は七年前、全面改装と共に霧島川から地下水路を引き込み、プールや給水設備に利用している。”


 そうだ。確かに京子と一緒に画面を覗き込み、あの文字を見た。

 プールの水は川から引き込まれている。ならば、出口も必ずある。


 ひなたの呼吸が早くなる。

「そうだ……!」


 仲間たちが驚いて振り向いた。

 ひなたは勢いよく顔を上げ、声を張り上げる。

「プールよ!プールからなら、外へ出られるはず!」


 京子が目を見開き、亮が呆気に取られる。

 柑奈と恭二も一瞬、息を呑んだ。


「えっ!?」


 雷鳴が轟く。

 その中でひなたの瞳だけが確かな光を帯びていた。

 すると、そこに恭二が冷静に問いかける。

「プールからどう脱出するんだ?なにか根拠でも?」


 すると、京子が何かを思い出したようだ。

「そうか、水は――霧島川から引き込まれている……」

 亮も納得の表情を浮かべる。

「そうか、水路を使って脱出か――」


 柑奈が少し呆れた様な顔を浮かべた。

「確かに、それが事実なら間違いではないけど――」

 恭二が眉間に皺を寄せた。

「だが、そこにはウィリアムがまだいるかもしれん。どっちみち敵がいる可能性はある」


 すると、ひなたが力強く言う。

「けど、応援部隊は早くても1時間後なんでしょう?」

 亮がうなづく。

「この学園がファウンデーションに監視されているとしたら、じっとしててもあっという間に見つかるんじゃないか?」


 柑奈が神妙な顔で応じる。

「通信妨害をするくらいだからね。ここは奴らのホームグラウンド……」

 京子が柑奈に反論する。

「けど、ここは下手に動かない方が――」


 すると――。


 窓を打つ雨音に混じり、かすかな機械音がこだました。


 ――キー……キー……。


 ――カタン!


 一同の視線がそちらに向く。

 廊下の壁の高い位置には、複数のカメラが出現していた。

 壁の向こうに隠されていたようだ。

 カメラが設置されている個所の壁にぽっかり穴が空いていた。

 動作ランプが赤い光点となって、不気味に点滅している。

 ひなたの共感力がざわめく。

(壁の向こうに――隠されてた?)


 赤い光点が、ひなたの頬に一瞬光って消えた。

 彼女は息を飲んだ。

「監視カメラ?――設置されていたなんて……」

 脳裏に、過去に見た校史の一文が蘇る。


 "教育委員会の猛反対で、監視カメラの設置は見送り"

 

 恭二もうなづく。

「やはり、ファウンデーションか……死角に隠れろ!」

 恭二に促され、一同は物陰に移動する。


 亮が周囲を見回す。

「見つかったか?」

 柑奈が神妙な顔で応じる。

「わからない――けど、誰かが探しに来る可能性もある」


 ――キー……キー……。


 複数の監視カメラが、ゆっくりと左右上下にくまなく動いている。

 それは獲物を探す猛獣のように思えた。


 ひなたが眉間に皺を寄せた。

「動かざるを得ない……か。」


 恭二もうなづく。

「そうだな。少し危険だが――賭けてみるしかないだろう。プールに向おう」


 ――京子の言葉が重なる。

「けど……そこで、明智さんが――」

 彼女の目に涙が溢れる。

「私を庇って……」


 すると、恭二が京子に歩み寄る。

 そして、右肩に手を置いた。

「ショックなのはわかる――俺もこの仕事をして長いが、人の死を見て正常でいられる人間などいない」


 京子と恭二の視線が交わる。


 そして一瞬後――。


 恭二が再び静かに口を開く。

「俺の妻が麻倉妙子に殺された時――正常ではいられなかった。だから……」

「だから……?」

 京子は涙が溢れそうになる目で、恭二を強く見た。


 恭二は表情を変えず告げた。

「今は取り戻すために、戦っている――捨てた娘を取り戻すためにな――」

 京子は目を見開いた。

「取り戻す……」


 恭二は京子に視線を返した。

 そして、ひなたと亮を一瞥した。

「君は……大切な仲間がいる。その絆を大事にするんだ」

 柑奈もうなづく。

「取り戻す事は、苦しい事……おじさんの気持ち――私わかるわ」


 京子は床を見下ろし、考えを巡らせていた。

「仲間……絆――」

 京子の胸に、どうしようもない既視感が走った。

「……」

 だが、その意味を口にする勇気はなかった。


 ――沈黙が一同を支配する。


 だが、その沈黙を打ち破るように、ひなたが声を上げた。

「行こう!京子!」

 京子は涙を拭い、振り返る。

「ひなた……」


 今度はひなたが京子に強い視線を送る。

「今は、生き残ることが最優先よ。明智さんのことは、残念だけど、私たちはこの事実を外に知らせないといけない。」


 亮もうなづいた。

「そうだな。今はじっとしてても見つかるだけだ。ここから皆で脱出しよう」


 京子はひなたと亮を交互に見る。

「……そうだね。行こう!」


 すると、柑奈が拳を握る。

「じゃ!決まりね!」

 恭二が静かににうなづいた。

「プールに向かう!慎重にな!」


 ひなたが力強くうなづいた。

「はい!」


 そして、一同もうなづきあった。

 プールへの移動のため、一同は慎重に歩みを進めだした。


 ――ザーッ!ザーッ……。


 ――ゴロゴロ!ピカーッ!


 外の雨はますます激しくなっていた。

 雷鳴が激しく轟き、夜の闇をより深いものにしていた。


 ひなたは歩みを進めながら思う。

(この仲間と一緒に――絶対に!) 


【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

 次回もよろしくお願いいたします。

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