第21章 運命を告げる雷鳴

  【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。

 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。

 https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。


【本編】

寸断された――夜の霧島橋。

 激しい雨がひなたたちを打ちつけていた。


 橋が謎の爆発により寸断。

 真緒とのぞみが、川底へ消えた。

 その絶望を亮、京子は噛み締めていた。

 恭二と柑奈は拳銃を持ったまま、思案に暮れていた。


 ひなたの共感力がざわめいた。

 身が小刻みに震えた。

 川底に沈んだなら、一刻も早く助けないといけない。

 そんな思いが脳裏を支配した。

(行かないと!)


「助けないと!」 

 ひなたは震える足で橋の欄干に駆け寄り、上半身を乗り出した。

「待ってて!麻倉さん!延藤さん!」

 

 咄嗟に恭二と柑奈が叫ぶ。

「やめろ!やめるんだ!」

「自殺行為よ!」

 川面は暗く、爆発の残骸が黒い塊となって漂っている。

 雨に光るコンクリートの断片が、不規則に波間で踊っていた。


「行くよ!」

 ひなたは叫んで飛び込もうとした。


 

 ――ガッ!


 

「ひなた!」

 亮が一瞬で距離を詰め、タックルのように両腕でひなたの体を抱え込む。

 サッカー部で鍛えた、相手との間合いを一瞬で潰す動きだった。

 

 そこに京子も後ろから抱きつき、必死にひなたの背中を押さえつける。

「やめて!」


「死んでしまうぞ!何考えてるんだ!」

 亮の声は震えていたが、力は確かだった。

「川はコンクリートの塊が多数落下してる!暗いし、深さがわからない!プールとは違うのよ!」

 京子の声音には理知と恐怖が混じっている。


 ひなたは必死の形相で、亮と京子を振り払おうとする。

 そこに恭二と柑奈も駆けつけ、4人がかりで押さえ込む。

「やめろ!危険だ!」


 ひなたは必死で叫ぶ。

 手足をバタバタさせ、振り解こうと必死だ。

「行かせてよ!二人が死んじゃう!明智さんも死んでしまった――これ以上は!」


 ――バシッ!


 すると、亮の右手がひなたの頬を打った。

「バカやろう!ひなたが死んだら意味ねえじゃねえかよ!」


 ひなたの動きが止まる。

 呆然とした表情のまま、髪や制服は濡れ、雨が顔を伝う。

「亮……」


 京子は疲労困憊のあまり、膝をついた。

「ひなた――やめてよ」 

 ひなたは呆然としたまま、京子に視線を向ける。

「京子……」 


 恭二が冷静に周囲を見回した。

 目を細め、詳細を確認しようとするが、夜の闇と雨がそれを阻んだ。

「くそっ……何もわからん」

 遠くでパトカーの光が絡み合い、救助の手は橋を渡れない。

 対岸へ渡るには、今の状況ではヘリしかないが、爆発の煙と悪天候がそれを阻むだろう。


「今は、戻るしかなさそうだな」

 恭二の声は低く、選択肢の無さを伝えていた。

「ええ……」

 柑奈が短く答えた。

 拳銃はまだ彼女の手にあるが、今はそれより冷静な判断が必要に見えた。


 

 ひなたの顔は土色になっていた。

「麻倉さん――延藤さん――それに、明智さんまで……」

 涙が頬を伝い、雨と混ざる。


 何度か肩を震わせて、やがて小さな声で言った。

「でも……あの二人は、あの川底にいる。助けられるかもしれないのに……」


 京子はひなたの顔を覗き込み、静かに言った。

「ひなた――助けたい気持ちはわかる。けど、まずは私たちの安全を確保する方が先よ」

「京子……」

 すると、京子が真っ直ぐな眼差しを向けた。

「それに――私……」

「?」

 京子は迷いの無い顔で告げた。

「初めての友達……ひなたを失いたくない」

「京子……」

 ひなたは、ただつぶやくしかなかった。


「やっぱりこっちもダメか……」

 亮がスマホを取り出して画面を確認する。

 やはり圏外表示。

 妨害電波はまだ続いている。

 救助要請も、外部への連絡も今はできない。


 恭二は短く首を振る。

「無理に動けば、皆が死ぬ。それだけは避けるべき事だ」

 そして、手早く行動を整理し始める。


 恭二は冷静に言葉を続ける。

「まずここを離れて、安全な場所に落ち着く。雨が止むのを待たずに、我々でできる策を練る。対岸へ渡る手段は今のままでは無い」


 京子の視線が周囲を見回す。

「けど、周囲は山――霧島川を横切る橋はここだけ……抜けようが無いわ」


 亮もうなづく。

「そうだな――上流は山、下流まで距離が長すぎる……」


 柑奈が冷ややかに付け加える。

「あと、救急車の周りに倒れていた連中。ここに手を回している奴らの仕業かもしれない――」


 ひなたの声が震えた。

「だけど通信が――」

 恭二は短く付け足し、現状を諭した。

「NPSOのスクランブル回線は使えない――今は悪天候、ヘリや船舶も使えないだろう……絶望的だ」


 そこに京子の言葉が重なる。

「危険かもしれない……けど、この雨じゃ体力が奪われるだけよ」

 亮もうなづく。

「外には雨風を凌げる場所もない……しな――」


 その時――。


 ――ゴローン!ザーッ!ピカッ!


 雷鳴が轟き、雨が激しくなった。

 一行はしばし黙り込み、雨音だけが耳に残る。

 激しい雨が身体の温もりを奪っていった。

 

(学園に……)

 ひなたは欄干から離れ、京子と亮に挟まれて肩を震わせたまま立ち上がる。

「戻ろう!まずは安全な場所に!行動はそれから!」


 恭二がうなづく。

「そっちも危険だが――学園に戻るしかない」


 ひなたが声を上げた。

「うん!」

 一同の表情が引き締まった。

「行こう!」


 ひなたたちは学園へ向かっていく――。

 戻らざるを得ない――苦渋の決断。


 不気味な雨雲が、学園を包む。

 激しい雷鳴が轟き続け、雨は激しくなる。


 それは、ひなたたちを待つ不穏を感じさせた――。


【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

 次回もよろしくお願いいたします。

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