第17章 解放そして犠牲

 【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。

 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。



 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。

 https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。


【本編】

 室内プール――。

 夕陽が傾き、夜の帳が下りようとしていた。


 京子はウィリアムに拘束されていた。

 身体を床に押し付けられ、腕をねじり上げられた痛みに声を失っていた。

「――ッ……!」

 必死に叫ぼうとしても、喉から出るのはかすれた息だけ。



 ――ギリギリギリギリ……。

 


「ククク……」

 ウィリアムはその顔を見下ろし、愉快そうに笑うと、拳銃を懐から取り出した。

 そして、迷いなく冴姫へと投げ渡す。

「忠誠ノ儀式ダ!撃テ!」


 ――チャッ……。


「……!」

 冴姫は拳銃を受け止め、唇を噛んだ。

「けど……情報を引き出すんでしょ?殺してしまったら……」

 か細い声が揺れる。


「情報ハ後ノ二人カラ引キ出セル!」

 ウィリアムの青い瞳が狂気に光る。

「コレハ……お前ヘノ試練ダ!」


「!」

 冴姫の肩が小さく震えた。

 拳銃を構えようとするが、その腕は重く、わずかに揺れている。

「出来ない……けど――」


 ウィリアムの目が細くなる。

 声は凄みを増していた。

「ドウシタ?ヤラナイノカ?」


「どうして……」

 床に横たわる京子が、苦痛に歪んだ顔を向け、掠れ声で問いかけた。

「明智さん……どうして……」


 チャッ――。

 

 冷たい音を立てて、冴姫が拳銃の安全装置を外す。

 銃口がゆっくりと京子の額に向けられる。


「ごめんなさい……」

 冴姫の瞳から、一筋の涙が零れた。

「私――もうこれしか……」


 京子は目を見開いた。

(涙……?)


 銃口と涙が交差する光景は、京子にとって信じがたいものだった――。


 ――だが、その瞬間!

 

「うああっ!」

 冴姫は拳銃を握りしめたまま、叫び声を上げてウィリアムに体当たりした。


 ――ドンッ!

 

「ナニッ?」

 大柄な男の身体がよろめき、床に転倒する。

「コノ――女メ!」

 

 冴姫はすぐに立ち上がり、京子の前に立ちはだかった。

 震える腕で、銃口をウィリアムに向ける。

「やっぱりできない!人を殺すなんて……私にはできない!」

 その瞳は涙に濡れていた。


 床に伏したまま、ウィリアムが口角を吊り上げる。

「ダガ、俺はデキル……。“D”を完成サセル為ナラ……」


("D"……?)

 京子の脳裏に疑問が閃く。


 

 ――カツッ、カツッ、カツッ……。

 

 

 ウィリアムが立ち上がり、にじり寄ってくる。

 冴姫は必死に引き金を引いた。

「うわーっ!」


 

 ――カチッ!


 

 乾いた音だけが響く。

 弾は入ってなかったのだ。

「はっ……!」

 冴姫の顔が青ざめる。


「フフフ……ウラギリ者メ!」

 ウィリアムの声が凶悪に響き渡った。

 大きな手が再び冴姫に伸びる。


 

 ――ドンッ!

 

 

「土師さん!逃げて!」

 冴姫は叫びながら京子を突き飛ばした。

 その衝撃で拳銃が床に転がり、京子の目の前で止まった。


「明智さん!」

 京子は冴姫に手を伸ばす。


 冴姫が必死に言葉を絞り出す。

「来ちゃダメ――来たら……」

 京子の動きが凍り付く。


 京子の視線の先――。

 ウィリアムの手が冴姫の首をがっちりと掴む。

「くっ……!」

 冴姫は必死に抵抗するが、力の差は歴然だった。

 身体をバタつかせ、ウィリアムの身体のあらゆるところに拳を叩きこむ。

 だが、ウィリアムは何も応えた様子が無い。


 

 ――ギリギリギリギリ……。


 

 肉をねじるような不気味な音がこだまする。

「逃げて……早く……!」

 首を絞められながらも、冴姫は最後の力で京子に訴える。

 顔色が青ざめ、口から泡を吐き出し始めていた。


 ウィリアムが首を絞めたまま振り返り、獣のような眼光を京子に向けた。

「次ハ……オマエノ番ダゾ?」


「――っ!」

 京子は本能的に拳銃を掴み取った。

 震える手でそれを胸に抱え、ただひたすら走り出す。

(証拠!)


「明智さん……!」

 涙が京子の頬を伝い、視界が滲む。



 ――バーン!


 

 ドアを開け放ち、ひたすら廊下を走り出した。

 背後のプールが段々遠くなる――。


 そして、数秒後――。 


 背後で冴姫の断末魔のような叫び声が響いた。

「あああああーっ!」


 

 ――バシャーン!


 

 激しい水音が室内プールから、こだました。


「明智さん――ごめんなさい!ごめんなさい!」

 京子は振り返ることもできず、ただ必死に廊下を駆けた。

「逃げないと……!ひなた……寺本さん!」


 図書館へ――無我夢中で廊下を走り続けた。

 

(けど……"D"って――なんなの?)


 生徒達の姿はすっかり消えている。

 窓から差し込む夕陽は、不穏な闇に変わろうとしていた。


 【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

 次回もよろしくお願いいたします。

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