第13章 Team Mission
【読者の皆さまへ】
お読みいただき、誠にありがとうございます。
・一部[残酷描写][暴力描写]があります。
・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。
・前日譚である「私立あかつき学園 旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。
https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761
https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792
・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)
以上よろしくお願いいたします。
【本編】
翌日の私立あかつき学園。
午前の休み時間、廊下は生徒たちのざわめきに包まれていた。
――最近、通信障害がまた増えたんだよ。
――入院中の小河さん。少し動きがあったってさ。意識が戻るかもって……。
――あれ?ノート忘れた!貸してよ!
学園の廊下の片隅――。
ひなた、京子、亮――三人は人の流れから外れた窓際に立ち、柑奈と向かい合っていた。
柑奈は腕を組み、わざとらしくため息をつく。
「……話しちゃったのね。まあ無理もないけど――おじさんからメッセージで聞いたわ」
ひなたは肩をすくめ、視線を落とす。
「ごめん……」
すると京子が一歩前に出て、きっぱりと言葉を放った。
「私は、ひなたをほっとけない。覚悟はしてるわ」
続けて亮が口を開く。
「俺もだ。ひなただけに抱えさせるのは酷ってもんだと思うぜ?」
その言葉に、ひなたの胸がじんわりと温かくなる。
「京子……亮……」
思わず、声が震えた。
柑奈はそんな三人を眺め、口元に笑みを浮かべる。
「まあ、予想の範囲ではあるけどね。3人で動いている事は、麻倉さんから聞いてたし、いつかは――って思ってたから」
その目は、昨日までの軽い転校生のものではなかった。
スパイとしての鋭さが、ほんの一瞬だけ覗いていた。
「けど、このままじゃ手がかりが――どうやって探る?」
ひなたが問いかけると、柑奈は腕を組んで頷いた。
「私は麻倉さん、延藤さんと学内を探るわ。おじさんは別に潜入する。私の親ってことになってるしね」
亮が口を挟む。
「そうだよな。偽物とはいえ、親が何度も学校に来るのはおかしいし」
京子が真剣な顔で応じる。
「私たちも学内を探るわ。けど……」
「生徒たちからは何も……」
ひなたが考え込む。
「そういえば、吹奏楽部の子たちは、何も知らないのかな?」
「そうだな」
亮が顎に手を当てる。
「あの時は渡瀬先生と小河さん――個人練習の最中だったから、誰もいなかったよな」
ひなたは唇を噛む。
「明智さんはダメだった。志牟螺先生にガードされて……」
「志牟螺先生?」
柑奈が眉をひそめる。
「誰?」
ひなたが、神妙な顔で身を乗り出す。
「保健医の先生よ。事故を目撃した心のケアだって……何も話せなくて……」
柑奈の目が鋭く光る。
「臭うわね……じゃあ、本部に志牟螺先生の経歴を調べてもらうわ」
亮が頷いた。
「なるほど。じゃあ俺たちは?」
柑奈が指を立てる。
「吹奏楽部に話を聞いてもらえる? 私と麻倉さんたちは、理事長の経歴を調べてみる。OK?」
「わかった。そうするね!」
ひなたは力強く答えた。
柑奈は真剣な口調で念を押す。
「くれぐれも理事長への接触はしないでね? もしファウンデーション首領だったら、また逃げられてしまうから。絶対だよ?」
「はいはい」
亮が軽く流すように返す。
――ドガッ!
「亮!真面目に!」
ひなたの肘鉄が炸裂する。
亮はみぞおちを押さえ、軽く呻く。
「うぐっ――」
「ハハハハハハ、」
その様子に場が少し和み、三人は笑い合った。
京子がふと口を開く。
その視線は柑奈に向けられていた。
「けど”おじさん”ってフランクだね。親子じゃなのに、仲が良いみたい」
柑奈は少し照れくさそうに笑う。
「親子じゃないけど、親族なんだよね」
「えっ?」
京子が目を丸くする。
柑奈は静かに続けた。
「本当の叔父さんなんだ。私は姪。……昔、両親を亡くしてね。ずっと一緒だった。だから……」
京子は小さく首を傾げる。
「――なぜ、そんなことを話すの?」
柑奈は一瞬だけ目を伏せ、苦笑した。
「……わからない。なぜかしらね。なんかあなたを見てると急に口が軽くなったみたい――スパイ失格だね」
京子の瞳に陰がよぎる。
「……家族……」
――廊下に沈黙が訪れ、生徒たちの喧騒だけがこだまする。
視線を合わせる京子と柑奈。
どちらも何か困惑した表情だ。
ひなたは、二人を見て心でつぶやく。
(京子も――1人だった。この娘も……)
すると、重たい空気を破るように、亮が声を上げた。
「じゃあ早速行こうか?」
京子が頷く。
その表情には、少し憂いが帯びていた。
「そうね……」
「吹奏楽部へ!」
ひなたが力強く言い放つ。
柑奈が笑顔で指を振った。
目を少し吊り上げて、念押しする。
「何かわかったら連絡ね?絶対よ?」
「はい!」
ひなたは即座に返事をした。
――キーンコーンカーンコーン。
休み時間の終了を告げるチャイムがこだまする。
生徒たちが、ぞろぞろと教室へ引き上げていく。
ひなたは一同に告げた。
「じゃ!後でね!」
一同はうなづくと、それぞれの教室へ向かっていった。
まだ生徒たちの雑踏が行き交う中、ひなたは思いをつぶやいた。
真剣な目をしながら――。
(この学園の秘密――絶対に……)
【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。
次回もよろしくお願いいたします。
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