RE:imagination 私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds

サブサン

プロローグ 近づく足音

 【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。

 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。

 https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。



 【本編】

2018年6月上旬。北関東、郡真県あかつき市――


北南と東は、霧島連峰に囲まれた自然豊かな風景。 

北から西南へ霧島川が流れている。

川には学園への唯一の出入り口である、霧島橋が架かっている。


川の東側にある学園。

――それが私立あかつき学園である。


学内には喧騒がこだまし、生徒達は様々な青春を謳歌している。

 

――今度の理科の授業、ウィリアム先生だっけ?


――今度、優秀生徒表彰があるみたい。学費免除なんだって!


――麻倉さん、また一人で図書館に……。

 

――最近、霧島橋が補修工事だってさ……渡れるから関係ないけど。


――たまにスマホが圏外になるんだよ。どうしてかな?

 


そのあかつき学園の放課後――。

二人の少女が、濡れた髪をタオルで拭きながら廊下を歩いていた。


彼女は碧唯あおいひなた。高校2年生。

一人は明るい茶髪のショートカット。

身長は150cmと小柄だ。

屈託のない笑顔で、もう一人の少女に話しかける。

「練習疲れたね――京子?」


京子と呼ばれた少女が、視線を向ける。

彼女は土師はぜ京子きょうこ

身長158センチ。

黒髪のロングヘアに、白いヘアピンをつけている。

頭頂部でシニヨンにしているが、後ろ髪も長い。

まるで、顔を隠そうとしてるかのようだった。


京子の表情は冷静なままだ。

「……そうね。けど、ひなたには敵わない。水泳部の"小さな巨人"だしね」

ひなたが笑顔で応じる。

「スタートダッシュは――でしょ?京子の方が泳ぐのは速いじゃない?」

「……泳ぎを真似しているだけよ」

「観察力が凄い……さすが京子!」


すると、京子がかすかにほほ笑む。

「スタート女王の瞬発力は――真似できないけどね」

ひなたが頬を膨らませる。

「後はダメってこと?」

京子はクールに応じた。

「……そういう意味じゃないわよ」

ひなたが笑顔で京子に問いかける。

「そう言えば、京子?世界史の授業どうだった?」

京子の表情は変わらない。

「イギリスの歴史、世界初の巨大戦艦の事――ドレッドノートDreadnoughtだったかな……」

ひなたが笑顔で応じた。

「何それーっ?」


二人は取り留めもない会話をしながら、夕暮れが差す廊下を歩き続ける。


 

その時――。


 

――キィィィィィン……。


 

かすかに響いた音。

それを、ひなたは敏感に察知する。

耳が鮮明に音を捕え、心がざわめく。

「この音……バイオリン?」


すると、京子が応じる。

「ひなたは敏感ね……言われないと――わからなかった」

ひなたが笑顔で応じる。

「昔から――なんかね……気になる体質みたい」

京子がうなづく。

「"共感力"が強いってことね……私とも……」


――キィィィィィン……。

 

再びバイオリンの音がこだました。

今度ははっきりとわかる音だ。

「音楽室から?」

二人の耳に、強く美しい音色が飛び込んでくる。


ひなたと京子は目を合わせる。

「行ってみようか?」

「そうね……」


二人は音に導かれるように、音楽室に足を踏み入れる。

細く澄んだ音色が室内にあふれ、ひなたの胸をざわめかせた。

「すごい……」

すると、京子が音の主に目を向ける。

「あそこね……」

京子の視線の先には、二人の人影が立っていた。


「……」

バイオリンの音の主は、目を閉じ演奏に没頭していた。

黒髪のツインテールの少女が弓を滑らせている。

身長148センチ。顔立ちには幼さが感じられる。


そこに、もう一人の人影が熱烈な声を上げる。

身長163センチ。やや細身で暗めの茶髪。

無難なタイトスカートのビジネススーツだ。

「佑梨ちゃん!もう1ターブ上げて!」

「はい!渡瀬先生!」

佑梨がすぐに応じ、演奏が激しくなる。


 

――キィィィィィン……。

 


ひなたと京子は、演奏に心奪われた。

(綺麗な音……)

(すごいわ……けどこれは……)


二人に気づく事はなく、佑梨と渡瀬は演奏に夢中だ。


(これ……亮にも――)

ひなたは思わずスマホを取り出し、メッセージを打ち始めた。

[今、音楽室。すごい演奏してるよ!]

 


――送信完了!

 


音楽室の演奏は続いていた。

数分後、一人の男子生徒が音楽室に滑り込んできた。

身長178センチ。

少し癖のあるこげ茶の短髪。

サッカー部のユニフォームのままだ。

「ひなた?呼んだ?それに土師さんも?」

ひなたが笑顔で応じる。

「亮!遅いよ!」


すると、京子が冷静に問いかける。

「わざわざ……練習を抜けて?」

 

亮は少し息を切らせながら応じる。

「知り合いが呼んでる――そう言ったら、皆も信じてくれた」

ひなたが眉をひそめる。

「知り合い?嘘でしょ?」

亮が笑顔で応じる。

「俺の家――寺だって知ってるだろ?」

京子がうなづきながら応じる。

「そういえば……阪東寺ばんどうじよね?寺本さんの家……」


すると亮が笑顔で返した。

視線が佑梨の方へ向く。

「小河さんの家――俺んちの檀家なんだよ。俺は会うのは初めてだけどな……」

ひなたが笑顔で応じる。

「亮は三男坊だしね」

「だから、サッカーができるんだけどな」


京子が呆れ顔をする。

「あながち嘘でもないわね……けど、後で――ちゃんと謝った方が良いと思う」

亮が悪戯っぽく返す。

「違いない」


そして、ひなた、京子、亮の三人が揃った。

肩を並べて、佑梨の演奏に耳を傾ける。

音は空気を震わせ、水面のように揺れ広がっていく。

ひなたの共感力が再びざわつく。

(……なに、この感じ……)


佑梨の弓が一瞬震え、低い音が曇る。

渡瀬が佑梨に声をかける。

「怖がらなくていいわ。広げてみて?」

佑梨は小さくうなずき、音を取り戻す。

「はい――」



――キィィィィィン……。

 

「なんだろう――この音」

その響きに、ひなたは言葉を失った。

ただ胸の奥に、言い知れぬ違和感が芽生えていた。


――ビッ……。


すると、ひなたのスマホの画面が少し揺れた。

訝し気に画面に目を移す。


――5G


――4G


――ネットワーク不良。


次々と表示が切り替わる。

ひなたの肩眉が少し吊りあがる。

「機種変更したばかりなのに……?」


――5G


しばらくして、表示が安定する。

ひなたはホッとする。

「なんなのよ……もう――」



――コツコツコツコツ……。


その時――音楽室に一つの足音が近づいていた。


それが何を意味するのか?

その時ひなたたちは、知る由もなかった――。


【後書き】

お読みいただきありがとうございました。

是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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