十五話/夜の散歩はアルコールとピアスを添えて

「だから、ノベルゲームのヒロインは清楚じゃないといけねえって」

「それは古いよおじさぁん」


 早朝の寒さに、アルコール交じりの会話が混ざる。

 笑顔を浮かべながら歩く俺達は、うっすらと顔を覗かせた太陽に柔らかく照らされた。


「なのに荒木のやつが」

「神絵師を呼び捨てに!」

「神絵師……だろうけど俺の作品を作品じゃなくしたのはあいつだっての」

「おじさん、私、最初はイラスト目当てであのゲームプレイしたの」

「お前もかー! くそ!」


 俺が胸の中にしまっていた気持ちは、アルコールと隣を歩く女によって簡単に開錠されてしまった。


「で、シナリオ良くて好きになったんだよ」

「でもあれは――」

「貴方の作品」


 アルコール交じりの発言に、芯が通った。


「貴方が作ったシナリオで、私は泣いた。一緒に作った人の意見を聞いて、一人で作るよりも良い作品になった貴方発案のストーリーでしょ」


 足が止まった。止まるどころか震えだした。

 今度は俺の頬に、熱い涙が流れる。

 女が俺の前に来ると、カバンからハンカチを取り出して俺の頬を拭いた。


「そりゃ、貴方の気持ちを否定しないけど。私まだ学生だし。こだわりの部分変えるのって辛いよね」


 俺の中で、芯が突き抜けた。

 足元から頭まで、目の前の彼女の芯が俺を貫く。


「私が文学部に入ったきっかけの一つ、のシナリオなんですよ。新作出さないか、ずっと気になってたんだから」

 

 アルコールと芯が、俺の身体を動かす。

 目の前に向かって伸びた腕。一歩前に進んだ足。

 俺の腕の中に、彼女が収まっていた。


「抱かないんじゃなかったの、おじさん」

「ノーコメント」


 女は顔を上げる。


「あ、でもめいと先生って知ってたから近づいたんじゃないからね」

「うん」

「なんだかおじさんのその顔、母性本能くすぐるわ」

「うるせぇ」


 笑い声が止まり、女の顔が近づく。

 柔らかいものが、俺の頬に触れる。まるで炎のように、その熱は俺の何かを溶かしていった。


「また、一緒にお酒飲も」

「毎日でも」

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