十一話/正体明かし

 目的地のファミレスは、歩いて数分で到着する。

 ファミレスで合流することを提案し、俺は一度自室に戻る。

 シャワーや着替えなど、最低限の身支度を整え、急いでファミレスに向かった。

 

 予想外に混んでいた様子で、女はファミレスの前で待っていた。俺に気づくとこちらに小さく手を振る。

 

「ちなみに、今日はシラフ?」

 

 横に並び、冗談半分で訊ねた言葉に、女は静かに頷いた。


「おじさんが言ってたのに。男のために酒飲むのはやめとけって」

「あー、あー、そうだった……なあ」


 言葉を濁すが、実際全く覚えていない。

 言葉を濁したことはさすがにバレた様子で、女は冷ややかな眼差しを向けていた。


「あの日のおじさんを反面教師に、お酒控えます」

「色々迷惑かけたみたいなんで、しばらく酒は控えます」


 苦笑混じりに呟いた言葉に、二人で笑いあった。


「昨日は、介抱させてすみません」

「いえいえ」


 改めて、昨日の失態について謝罪すると、女は軽く首を振る。


「知り合ったきっかけも、私が酔っ払ってたのが理由だし……」

「確かに、それもそうか」

「なんか……それはそれで複雑」

 

 女は渋い顔でこちらを睨みつけていた。


「まぁ、今日は奢るんで。それで許して」

「本当?」


 苦笑混じりにそう言うと、女の顔は一気に輝く。

 その豹変ぶりに、俺は笑った。


「一応おじさんは社会人なんでね」

「何の仕事を?」


 興味津々に訊ねる女。

 一度は閉口したが、再び口を開いた。

 

「シナリオライター、だった」

「えっ」

「今は、Webデザイナーしてる」


 女は、慌てた様子でスマホを取り出した。

 何と声をかければいいか分からず、俺は必死に画面を操作する様子を見つめることしか出来なかった。


「あった」


 しばらくすると、女は俺に向かって画面を向ける。

 そこには、俺と荒木、他ゲーム製作者が受けたインタビューの記事が写っていた。

 タイトルの下に映る集合写真では、俺だけが、ぎこちない笑顔を浮かべてこちらを見つめている。

 まだ『迷宮の国』が俺の作品だと言えた頃の俺を見ると、胸が苦しい。


「見たことあると思ったの。おじさん有名人だったんだ」

「有名人って程じゃないよ」


 恥ずかしくなり、店内を覗き込んだ。

 入口近くの椅子はまだ満席のままだ。

 興味もないのに、子供連れの家族が動き回る子どもをたしなめる様子を眺め、女の眼差しから逃げる。


「インタビューなんて、一般人は受けないって」

「まあ、今は一般人だ。君と同じだよ」

「私、『迷宮の国』プレイしたよ。面白かった」

「そうか」


 俺が作った作品に対して、こう褒めてくれたなら、どれくらい嬉しかっただろう。

 別物と化した作品を褒められたところで、心から喜べなかった。

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