第44話

「あのさ、結城君」

「はい、何でしょうか?」


 帰りの車の中、恭介は結城へと話しかけた。


 夢は旅行で少々疲れたのか後ろで寝てしまっているため、結城が前の席に座って恭介と話し合っている。


「今すぐにってわけじゃないし、結城君にも準備があると思うから頭の片隅にでも入れておいてほしいことなんだけれど」

「はい」


 なんの話だろうか、恭介の話だから嫌な話ではないだろう。


 いったい何の話なんだとそう思っていると、恭介はこう口に出した。


「俺たちと一緒に住まないか?勿論、結城君の親とも話はつけるからそこは心配しなくてもいいよ」


 そのお願いは結城にとってこの上なくありがたいことであった。


 はい、と口に出したいとは思うものの結城の口からその言葉が出ることはない。


 夢のことが嫌だからという理由ではない。


 結城と恭介たちとのわだかまり、正確に言えば結城の頼りすぎているという思い込みで自分を追い込んでしまった件は、今回の旅行である程度は解消された。


 だが、頼りすぎているというのは事実であるし、何よりも今まで全て恭介たちが解決してくれていた。


 だから、もし恭介たちと一緒に住むのであれば、仮にも血の繋がった家族との因縁は自分で解決したいという気持ちがあった。


 そのため、結城がこの場で言う言葉は「はい」ではなく


「考えておきます」

「分かった」

「でも、あの」


 結城はそこで詰まってしまって、言い出せない。


 そんな結城をみて、恭介は急かすことも無く結城が言うまで待っていた。


 数分の間、言うか言わないか迷った末に自分の中で整理がついたのか結城がゆっくりと言葉を紡ぎだす。


「えっと…頼ってもいいですか?」


 結城は、やっとその言葉を口に出せた。


 恭介はその言葉を聞いて、嬉しさや息子の成長を感じる喜び、様々な感情が押し寄せて思わず泣きそうになるが、運転中であるし、ここで泣いてしまったら格好がつかないとそう思って堪える。


「もちろん」


 恭介は頷いて、結城のお願いを了承する。恭介には断るなんて選択肢は元からなかった。勇気が頼ってくれたことが嬉しくてたまらなかった。


「結城君、私もいるからね」


 いつの間にか起きていたのか後ろからそんな声が聞こえてきた。


「はい、ありがとうございます」

「うん」


 穏やかな空気が流れたまま、ゆっくりとこの時間を噛み締めるように車が結城の家まで走っていく。


 だが、いつまでもその時間は続くことは無く日が暮れる前には家についてしまった。


「ありがとうございました、色々と」

「いえいえ。また行こうね」

「はい」


 結城は車を降りようとしたところで、一つだけ恭介達に相談できていなかったことを思い出す。


 気のせいかもしれないし、ただ手を煩わせるだけの結果になるかもしれないが言わずに恭介を後悔させてしまったら、それこそ恭介の信頼に対する裏切りだと思い、話すことにした。


「あ、その。僕の気のせいかもしれないですし、また頼ってしまうかもしれないんですけれどいいですか?」

「うん、何かな?」

「この前の朝。夢さんといつも待ち合わせている場所に行く途中で、誰かから見られている気がして」


 結城からそう聞いた夢と恭介の緩んでいた顔から、厳しい顔へと変わった。


「心当たりはある?」

「多分ですけれど、新条沙耶だと思います」

「わかった。夢、これから結城君の家まで迎えに行ける?」

「うん、問題ないよ」

「ごめんね、いっつも迷惑かけて。仕事が休みの日は俺が行くから」


 恭介と夢のそんな会話を聞いて、申し訳なさを感じるも昨日の話し合いのおかげもあって今までよりは頼りやすくなっていた。


「結城君もそれでいいかい?」

「ありがとうございます。色々と、すみません」

「いいんだよ。こちらこそお礼を言わなきゃいけない。話してくれてありがとう」


 そう言って、結城の頭を撫でる恭介の手はやはり安心するものであった。


「それじゃあ、もう日も暮れちゃうしまた明日ね」

「はい。旅行、楽しかったです」

「うん、それが聞けて良かったよ。またいこう」


 結城は車を降りるために一歩足を外へと出す。


「夢さんも色々とありがとうございます」


 夢へと感謝を伝えてから、完全に車から降りて外へと降り立った。


 結城から、こうして直接お礼を言われるのはまだ慣れていないし、幾ら言われたって夢にとってはもの凄く嬉しいことであった。


 車の窓を開けて精一杯、結城へと伝わるように言葉を返す。


「結城君も話してくれてありがとう。私とっても嬉しかった。今日の夜に、明日何時にここに来るか連絡するからね!返事は、無くてもいいから」


 笑顔で夢はそう言う。


「分かりました。ありがとうございます。それじゃあ、また明日」

「うん」

「結城君も、しっかり寝てね。おやすみなさい」


 夢と恭介が乗っている車がどんどんと遠くなっていく。が、結城はその車が見えなくなると何時しかのように佇むのではなく、家の方へと体を向ける。


 今でも嫌であるし、根本的な解決にはなっていないが気持ち的には前よりもだいぶ楽であった。


 *****


 どうもかにくいです。


 カクヨムコンテスト用に以前連載していたもの


「私たちがいないと本当に何もできないんだから」と言われ続けてきたので、自立しようと思います


 をリメイクして出します。


 この作品の第二章である新条沙耶編も後半戦に入りましたので、これからもよろしくお願いします。



 


 


 


 

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