第18話 アクアでの授業

 アエルでの一週間を終え、ソフィアはアクアの教室に足を踏み入れた。青い腕章をつけた生徒たちは、一見すると水のように穏やかで、静かな熱意を秘めているように見えた。しかし、その奥には、絶えず形を変えながらも決して崩れない、揺るぎない強さが秘められていることを、ソフィアはすぐに察した。

 アエルでの噂は、すでにアクアの生徒たちにも広まっていた。

「風の魔法を教えてもらったんだって?」

「魔力がないのに、魔法のことがわかるって本当?」

 生徒たちは好奇心とわずかな戸惑いを交えながら質問してきたが、ソフィアはいつものように淡々と、事実だけを答えた。

 水の魔法の授業が始まると、ソフィアは再び静かな観察者となった。フーヤオは相変わらず彼女の肩に乗って静観している。生徒たちが魔力で水を操り、球体や渦を作り出す様子をじっと見つめ、その魔力の流れと水の動きの不協和音を分析した。

 生徒たちの水球が、魔力の制御を失って揺らいだり、球体の形が崩れたりするたびに、ソフィアはそっと、影のように近づいた。

「……水の流れに、自分の心臓の鼓動を重ねてみて」

 ソフィアの言葉に従い、生徒が意識を集中すると、驚くほどの変化が起こった。それまで歪んでいた水球は、まるで生きているかのように滑らかで安定したものになったのだ。

「すげぇ!なんでだ!?」

 と驚く生徒に、ソフィアは表情一つ変えずに答える。

「水行の魔法は、魔力より意識の揺らぎに敏感。鼓動は最も安定したリズムだから、それを意識すれば、安定する」

 ソフィアのアドバイスは、理屈は理解できなくとも、結果は明らかだった。彼女の指導によって、難易度の高い水魔法の課題をクリアする生徒が続出した。

 一週間が経つ頃には、アクアの生徒たちは彼女を「奇跡の魔導士」とひそかに呼び始めた。ソフィア自身は、その呼び名に何の関心も示さなかったが、彼らの間に生まれた信頼と熱意の空気は、ソフィアの閉ざされた心にも、微かな温かさを運んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る