第9話 純情な戯れ

「およ?ソフィア、向こうの席が2つ分空いておるぞ」

 フーヤオが、食堂の奥にあるポツンと空いた席を指差した。周囲の生徒たちは、魔力のないソフィアと彼女の使い魔である長身の青年に未だ好奇の視線を向けている。だが、ソフィアはそれらの視線に動じることなく、席へと向かった。

「……わかった」

「では、頂くとしようか」

 席に着くと、フーヤオは満足そうに微笑んだ。

「……いただきます」

 ソフィアは、小さな声で呟いた。彼女の口からは、いつも儀式のように決まった言葉しか出てこない。

「うむ、忘れんで偉いぞ、ソフィア。よしよし♪」

 フーヤオは周りの視線など気にも留めず、ソフィアの頭を優しく撫でた。その手つきは、まるで幼い子どもをあやすようだ。

「……邪魔」

 ソフィアは、煩わしそうな声でフーヤオの手を退ける。しかし、フーヤオはそれに気を悪くする様子もなく、ただ微笑んで、ソフィアと同じ言葉を口にした。

「余も、いただきます、じゃな」

 シチューを食べ始めたフーヤオの声は、彼女の心に、ほんの少しの温かさを灯したように見えた。


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「およ?ソフィア、口元にしちゅーがついておるぞ?拭いてやろうか?」

 フーヤオは、ソフィアの顔を覗き込むように身を乗り出した。その仕草は、親密な間柄でなければあり得ない。ソフィアは、表情一つ変えずに答える。

「……やめて」

「むぅ、連れないのぉ、余らは相棒じゃろ〜?」

「……それでもこんなに距離近くないから」

「くふふ♪素直じゃないのぉ、ソフィアは」

 その奇妙な光景に、食堂は再びざわつき始めた。

「あの使い魔、イケメンすぎない?ありえないくらい顔がいいんだけど」

「でも監督生って魔力ないんでしょ?なんか、残念……」

「あいつ、わざとやってるんじゃね?俺たちにすげえって思われたいんだろ」

「あの二人、なんか面白いな。幼児をあやすお兄さんと、それに戸惑う幼児って感じ」

「あはは!確かに!」

 様々な声が飛び交う。言葉を失う者、嘲笑する者、フーヤオの美貌に見惚れる者、嫉妬する者。そして、フーヤオとソフィアの態度の温度差に笑っている者もいた。

 フーヤオは、この喧騒からソフィアの心を少しでも守るかのように、彼女のすぐ隣で振る舞っていた。生徒たちの好奇や嘲笑の視線を自身に集めることで、ソフィアにそれらが直接届かないように、結界を張っているようだった。

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