第6話 『役目』
「とりあえず、学園長室へご案内します」
学園長に促され、ソフィアは静かに歩き出した。フーヤオは、相変わらずソフィアの足元にいる。
廊下を歩きながら、学園長はバツが悪そうに口を開いた。
「先ほどは申し訳ありませんでした、『監督生』というものは、その場で即興で作ったものでし……」
「……だと思った」「だと思ったわい」
学園長が言葉を言い終える前に、ソフィアとフーヤオはぴったりと同時に同じことを言った。
「えっ!? バレてた……んですか!?」
学園長が素っ頓狂な声を上げた。その様子は、厳粛な式典での姿とはかけ離れている。
「余とソフィアであれば、バレぬ虚言などあるまい」
フーヤオは、得意げに胸を張った。ソフィアは何も言わないが、その表情には微かに冷めた笑みが浮かんでいるように見えた。
「うぅ……申し訳なさが倍増してしまいました……」
学園長は肩を落とし、ため息をついた。
「順序がおかしくなってしまいましたが……ソフィアさん」
学園長は真剣な眼差しでソフィアを見つめた。
「……はい」
ソフィアは、表情を変えずに返事をした。
「『監督生』のお役目、お願いしてもよろしいでしょうか?」
その言葉は、ソフィアの心を揺さぶった。利用されることに慣れている彼女にとって、これはまさに『役目』。断る理由も、断る権利もない。しかし、学園長の瞳には、ただ利用しようとするだけの冷たさではなく、何かを期待するような、温かい光が宿っているように見えた。
「……分かりました」
ソフィアは静かに頷いた。その声には、何の感情もこもっていなかった。だが、学園長は、彼女が役目を受け入れたことを理解した。彼の顔に、安堵の表情が浮かぶ。
「ありがとうございます」
「うむ、余も全力を尽くそう」
フーヤオは、誇らしげに胸を張った。彼の言葉は、ソフィアを支える彼の決意の表れだった。
学園長は、改めてソフィアとフーヤオに向き直った。
「改めて、監督生は、生徒たちの学園生活を同じ学生という立場で支え、共に彩っていく存在です。お二人は生徒を助け、共に成長してください。何かあったら、私たちに気兼ねなく相談してくださいね」
その言葉は、まるで彼女を道具としてではなく、一人の人間として扱っているように聞こえた。ソフィアは無意識に、その言葉を反芻する。
「では、寮とお部屋にご案内します」
「……ありがとうございます」
ソフィアは、ただ礼を述べた。彼女の心には、まだ何の感情も湧き上がらない。だが、これから始まる学園生活が、彼女の閉ざされた心に少しずつ変化をもたらしていくのかもしれない。
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