第4話 透明

 「……飛ばした方がよかったのに」

 ソフィアがぽつりと呟いた直後、壇上の司会を務める教師が困惑した面持ちで学園長に囁いた。その声は、静まり返った講堂に響く生徒たちのざわめきにかき消されそうだった。

「……どういうことです、学園長」

 学園長は、ソフィアから視線を外すことなく、言葉を紡いだ。

「いいや、彼女には間違いなく魔力がある。なにせ、私の魔法道具が反応しているのですから……」

「だったら、なぜ水晶の反応がないのです!」

 司会者の問いに、学園長は答えず、ただソフィアの淀んだ瞳をじっと見つめていた。その瞳の奥に妙な違和感を覚えたが、すぐに思考を打ち切り、学園長は司会者へと向き直った。

「式典が終わったら、彼女に聞きます。続けてください」

「魔力が、ない?」

「じゃあ、何で使い魔がいるの……?」

「裏口入学かよ、終わったな、あいつ」

 生徒たちの嘲笑と囁きが、ソフィアの耳に届く。

「……煩い」

 ソフィアは、この喧騒に何の感情も抱かなかった。ただ、頭の中で響く騒音を、鬱陶しいと感じるだけだった。

「ソフィア・ヴェスパー、……こちらへ」

 学園長が静かにソフィアに声をかけた。その声には、他の生徒たちに向けられたものとは違う、特別な響きがあった。ソフィアは何も言わずに学園長に近づく。

 司会者は学園長の意図を察してか、深呼吸をしてから次の生徒の名前を読み上げた。

「次、レーゼ・バイパー」

 呼ばれた生徒は怯えたように答え、壇上へと足を踏み出した。だが、もう誰の目も、その生徒には向けられていなかった。全ての視線は、学園長の隣に立つ魔力を持たない少女――ソフィアに注がれていた。

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