第10話 お礼と最低な女

目を覚まして時計をみると、もうお昼を過ぎている。

早く起きろと急かすようにキラキラと陽の光が部屋の中に入ってくる。

まいは諦めて起き上がり、顔を洗うと

なんだかサッパリして気分がいい。


「今日はどうするかな」


ふと高瀬たかせから昨日もらった紅茶の箱が目に入った。

「お礼…しよかな」

薄くメイクをして、モッズコートにパーカーとジーパンというラフな格好で部屋を出る。

「寒っ…」

部屋に帰りたい気持ちを抑え込んで、近くのショッピングモールへ向かった。


高瀬に前回マグカップをプレゼントしてもらったし、さすがにお礼がしたいと思って買い物に来たものの、舞は「うーん」思わず頭を抱えた。

若い男の子の好きな物なんて何が良いか想像がつかない。

とりあえずハンカチを手に持ってみるが、ハンカチは別れを意味するからプレゼントによくないと聞いたことがある。

ネクタイもきっと使わないだろう。

コーヒーに関係する物をと思ったが、そこにはこだわりを持っている可能性もある。

色々考えているうちに、余計にわからなくなってくる。

考えることに疲れてきて、一旦落ち着くために、近くのカフェに入った。

温かいコーヒーを飲んで気持ちを落ち着ける。


(美味しい…でも高瀬くんのお店の方が好きかな)


自分でそんなこと考えて、いやいやお店のことよ、と心の中で言い訳してしまった。

なんだか疲れてしまったなと考えて、ぼんやりしていると後ろから声をかけられた。


「かーのじょ、俺とお茶しない?」


舞はため息をついた。

この声は、聞いたことがある。


佐久間さくま…」


「よ!奇遇だな」

佐久間は舞が良いと言っていないのに、正面に座ると注文を始めた。

以前、高瀬のカフェでも同じようなことがあったのを思い出した。

「今日は買い物か?」

「まぁね。佐久間は?」

「俺は会議の資料を見返そうと思ってさ。家だとすぐ寝ちまうから」

佐久間はIPadを持ち上げて、いたずらっぽく笑った。

「休みの日も仕事するんだ?」

「あ~…まぁな。なんかカッコ悪いとこみせちまったな」

佐久間はいつもふざけていて、簡単に契約を取り付けているように見えるが、努力してるのだ。

「・・・かっこいいんじゃん?」

「なんだよ、それ。聞くなよ」

佐久間が恥ずかしそうにIPadに視線を移した。


「じゃあ、私そろそろ買い物行くわ」

佐久間と思いのほか話が盛り上がって、もう15時を回っている。

「俺も出よっかな。買い物って何買うんだよ?」

「いやぁ・・・」

笑って誤魔化そうとしたが、高瀬へのプレゼントはなかなか思いつきそうにない。

歳は違えど、佐久間は高瀬と同じ男性だ。

相談するのはありかもしれない。


「実は・・・」


「ほら、これなんかどうだ?」

佐久間が指差すタンブラーを見てみる。

「ちょっと高すぎない?逆に気を遣わせそう」

「まぁ確かに。じゃあこっちは?」

「お菓子?悪くはないんだけど、嫌いな食べ物知らないし・・」

「じゃあこれは?」

「んーそれはなぁ・・・」

佐久間は呆れながらも最後まで買い物に付き合ってくれた。

「買えてよかった!」

プレゼントの袋を満足気に顔の前で揺らした。

そんな舞を呆れた顔で佐久間は笑った。

「ったく、お前迷いすぎだからな」

「ごめんって。でもこれは絶対喜んでくれる気がする」

「それを渡す相手ってさ・・・カフェのイケメン?」

「え?あ、うん。そうだよ」

「そっか。喜んでもらえるといいな」

「うん、ありがとう」

佐久間と別れると、すぐにスマホが震えた。

佐久間からか?と思ったら、日葵さん《ひまり》からだった。


“至急、会いたい”


このメッセージとお店のURLだけがしか書かれていない。

よほどのことがあったに違いない。

舞は急いで指定されたお店へ向かった。


「日葵」

日葵に向かって手を振ると、弱々しく日葵が手を挙げた。

「一体何があったの?」

「うん・・・なんていうか、真由子とケンカしたの」

「真由子と?」

「どうして?」

「それは・・・」

日葵は黙り込むと、グラスを両手で持って、感覚を確かめるように、グラスの縁を撫でている。

「彼のことでケンカしちゃった」

「どうして日葵の彼氏のことで真由子とケンカするのよ」


「・・・不倫だから」


「・・・え?」

「私の付き合っている人は、既婚者なの」

「それってどういうこと?」

日葵は俯きながら話を始めた。

日葵が今付き合っている彼氏は、同じ会社の先輩だった。

元々は商品開発部で働いていたが、半年前に彼が転職をして、会えなくなった。

その時に彼の優しさや男らしさに気づいたらしい。

それでも既婚者とわかっていたから日葵から連絡をとることはなかった。

それから月日が流れて、日葵の気持ちが落ち着き始めたころ、たまたま再会してしまった。

そこで連絡先を交換した。最初は仕事の相談をしていただけだった。

でも毎日のように連絡をして、週に1度会うようになると、もう気持ちは抑えきれなくなってしまった。


「そこからずるずるとね・・・」

「真由子にも自分から話したの?」

日葵は首を横に振った。

「見られちゃったの、二人で歩いてるとこ」

「真由子は相手の男のことを知っていたのね?」

力なく日葵は頷いた。

「誰かわかって、すぐに既婚者って思ったみたい。彼と別れたところで、真由子に掴まって問い詰められちゃったわ」


舞が何も言えずにいると、「最低な女よね」と日葵がつぶやいた。

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