¥File 33. 点と線

『仮に「トロイの木馬」が仕込まれていたとして……なぜ、このタイミングで牙を剥いたの……?』

「地震が発生したからじゃないかな」

『地震が……? それって何の関係があるの?』

「今回みたいに大規模な地震が発生する時、必ずHISUIヒスイに届く通信があるよね」


 SAKURAサクラは息を呑んだ。


『緊急地震速報……』


 頷く陽太。


「緊急地震速報じゃなくても、国内で大規模な自然災害が発生すれば、必ずHISUIヒスイにはその情報が通信として届く。それらを攻撃開始の引き金にしていたと考えれば、今回の事態と整合性が取れる」

『攻撃を開始しても、人の視線は地震の方へと向くし、攻撃によって通信回線が多少重くなっても、災害が発生したから混み合ってると思わせる……攻撃が発覚しないようにするために……』

「あのデバイスをHISUIヒスイを所持しているボクらへばら撒いたのも、反AIのサブリミナル効果は隠れ蓑で、本当は『トロイの木馬』を仕込み、HISUIヒスイからの攻撃でMIZUHOミズホを機能不全に陥らせるためだったのかも……」

『日本中のMIZUHOミズホがターゲット……?』

「違うと思う。緊急地震速報や災害情報で被災地は確認できる。被災地がある海島県のMIZUHOミズホに攻撃を集中させれば、あのデバイスを接続したことのある日本中の数百万台ものHISUIヒスイから、途切れることなく攻撃を加えられるよね。ネットにつながらなかったり、バッテリーの減りが早いのもそのせいじゃないかな」

DDoSディードス攻撃……』

「推測通りであれば、尋常じゃないレベルでの大規模な攻撃になる。しかも、セキュリティを請け負うパートナーAIには気付かれないような細工をしてる。DDoSディードス攻撃なんて使い古された手口、きっとMIZUHOミズホ側も対策はしているだろうけど、HISUIヒスイからの攻撃は想定していなかったんだろうね」



 DDoSディードス攻撃――


「Distributed Denial Of Service attack(分散型サービス拒否攻撃)」の略。複数のコンピュータなどから攻撃対象のコンピュータやサーバーなどに対して大量の通信を送りつけ、意図的に処理し切れない過負荷状態にすることで、攻撃対象が正常に動作できない状況に陥らせる攻撃のこと。



「被災地のMIZUHOミズホをまともに動かなくして、『AIは緊急時の足手まとい』、『救えるはずの命をAIが奪った』と吹聴するつもりなのかもね、このサイバーテロリストは」


 SAKURAサクラの顔に怒りの表情が浮かんだ。


『許せない……AIを貶めるために、人の命まで駒のように扱うなんて……絶対に許せない……!』


 今にも爆発しそうなSAKURAサクラを、陽太は落ち着かせるように柔らかい声で言葉をかけた。


SAKURAサクラ、これまでの話はあくまでもボクの推測だから。実際はどうなのか分からないよ」

『……そっか……そうだよね……』

「でもさ、陽太の話が本当なら許せない話だよな! オレ、HISUIヒスイの電源切っとくわ。CELICAセリカ、しばらく休んでてくれ」

『わかりましたわ。目が覚めたときには、問題が解決していることを祈ってます』

『こっちも電源切っといた方がいいんじゃねぇか?』

「そうね、YUJIユウジもちょっと休んでて」


 自分のHISUIヒスイの電源を切る安達と菅谷。

 それを見て、少し悩む陽太。


「……あのさ、SAKURAサクラ

『ん?』

「ちょっと頼みがあるんだけど……あと、安達くんにも」

「オレ?」

「うん」

『私は陽太の頼みなら何でも聞いちゃうわよ!』


 陽太を前に、SAKURAサクラはムフゥーと胸を張り、今にも飛び出しそうな勢いでディスプレイ越しに気合を漲らせていた。


「じゃあ、SAKURAサクラ

『遠慮なく言って!』


 SAKURAサクラは、ぐぐっと顔をディスプレイに寄せた。


「……じゃあ、遠慮なく」

『なになに!?』

「……ちょっと、学校サボらない?」

『…………んあっ?』


 その突拍子もない提案に、さすがのAIも反応が追いつかず、声が裏返ってしまった(夏に続き、二度目の不意打ちである)






----------------




Next File.


 ¥File 34. 少年の決起





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