第28話 悲劇の結末
部屋の瓦礫の中で俺は夜が明けるのを待った。激しい感情の嵐は過ぎ去り俺の心には墓場のような静けさだけが残されていた。絶望はあまりにも深すぎると感情さえも殺してしまうらしい。もう涙も出なかった。床に散らばった写真の破片の上で中学時代の俺がまだ無邪気に笑っていた。その少年はもう死んだのだ。ならば、今ここに息をしている俺も消えるべきなのだろう。それが唯一つじつまが合う結末だった。
俺は机の引き出しの奥から便箋とペンを取り出した。めちゃくちゃになった部屋の中で、その汚れのない白い紙だけが異質に見えた。そして、震える手で遺書を書き始めた。一文字書くたびにその相手の顔が浮かんでくる。そのたびに胸が張り裂けそうになった。
父さん、母さん、ごめんなさい。俺は親不孝な息子でした。あなたたちが俺にかけてくれた期待の何一つにも応えることができませんでした。彩香。俺はお前のヒーローにはなれなかった。お前を孤独から救ったはずの俺が、お前を一番深い絶望へと突き落としてしまった。本当にごめん。涼子。お前の真っ直ぐな気持ちを俺は踏みにじった。お前の純粋さを俺の身勝手さで汚してしまった。本当にごめん。ペンが止まる。謝罪の言葉しか出てこない。二人の未来を俺が奪ってしまった。二人の人生を俺がめちゃくちゃにした。その責任を俺は取ることができない。俺はあまりにも未熟で弱すぎた。だから、俺は消えることにします。俺という存在が元凶なのだから。俺さえいなくなればきっといつか二人も新しい人生を歩めるはずだから。これが俺にできる唯一で最後の責任の取り方です。さようなら。
俺はその拙い遺書を丁寧に折り畳むと机の上に置いた。そして、誰にも気づかれないように静かに家を抜け出した。深夜の街は静まり返っていた。俺は当てもなく歩いた。見慣れたはずの街並みがまるで知らない場所のように見える。公園のブランコ。学校の校門。彩香と初めてデートの練習をした雑貨屋。その一つ一つが俺が失ってしまった幸せな過去の亡霊のようだった。
俺は街を見下ろす高台にある歩道橋の上までやって来た。冷たい夜風が俺の頬を撫でる。その風はまるで俺の存在そのものを消し去ろうとしているかのようだった。眼下には車のヘッドライトが光の川となって流れていく。あの光の一つ一つにそれぞれの人生があるのだろう。俺の人生はもうすぐここで終わる。
俺はゆっくりと歩道橋の柵を乗り越えた。冷たい鉄の感触が手のひらに伝わる。一歩間違えれば落ちてしまう。しかし、不思議と恐怖はなかった。ただこれで全てが終わるのだという奇妙な安堵感だけがあった。俺は目を閉じた。最後に脳裏に浮かんだのは小学生の頃の記憶だった。泣いていた彩香の頭を撫でてやっている俺。あの頃に戻れたら。いやもう遅い。
俺の身体がふわりと宙に浮いた。それが彼の最後の結論だった。彼の死は全てを終結させる悲劇の結末だった。
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