第11話 推しと襲撃の夜
燦燦と降り注ぐ太陽の光は宵闇へと変貌し、熱風が少しずつ冷めた風に変わる夜。
街の活気は昼間よりもあるようで、賑わいを増している。店は煌びやかな照明に照らされ、どこからか楽器の演奏が鳴り響き、お祭り感がより一層深まっていた。
「どれも美味しかったですね。食べ物が美味しいのは素晴らしいことです」
3つの月と優しい街灯の光が照らす中、夕食食べ終わり宿への帰路。アークの月は3つなのか…と、ぼんやり思った。まぁ太陽が2つなら月が3つあってもおかしくないか。
幸せそうなユイカちゃんが熱弁し、俺もうんうんと頷く。
ワイバーンの肉やミルク、アイスゴーレムのシャーベット、バジリスクのから揚げ、コカトリスの煮物等、元の世界では味わうことのできない料理が堪能できた。見た目は少々グロかったけど、尋常じゃないくらいに美味しくて驚かされまくった。元の世界にも出店してくれないだろうか。店じゃなくともキッチンカーとかでも。
こんなにおいしいものを食べたら、そりゃユイカちゃんだってこんなにも幸せそうな表情にもなるよ。食べている時も頬に手を添えて幸せそうな表情を浮かべて堪能してたし、その顔が見る事が出来て俺も幸せだった。ちゃんとチラ見した。
ついでに、ワイバーンのミルクはさっぱりして飲みやすくて美味しかったから瓶買いした。3リットル。このサイズの瓶は初めて見た。1リットル瓶ですらも見たことがないが。
今はユイカちゃんのストレージ能力の中にある。本人曰くORDERのストレージの中は『状態を維持し続けられる』らしく、食料などを保存しておくには最適らしい。凄い!
「どれも美味しかったね!また食べに行こう!」
「勿論です!まだまだ食べたい場所もありますし楽しみです。異世界の料理ということで不安もありましたが、杞憂でしたね」
「うんうん確かに!最初はどうなることかと思ったけどよかった」
料理がおいしくなかったらどうしようか、そんな不安はあった。だってご飯は美味しいほうがいいに決まってる。ただの体に対する栄養補給じゃない。心にも影響を与えるんだ、と思っている。
現に今の心は晴れ模様。世界が輝いて見える。二人で笑顔になりっぱなし。俺の場合、ユイカちゃんが隣にいてくれるからでは?それはそう。
「出店の立ち食い料理もよかったし流石、王都。いい人ばっかりだったし良い時間を過ごせたよ。ユイカちゃんの食べてるところも見れたし」
「私の食べてるとことなんて見ても面白くないでしょうに…」
「そんなことはないよ!す…と、特別な人が幸せそうにご飯を食べている姿はいくらでも見たいよ!一緒に幸せな気持ちになれるし、癒されるよ!背筋をピンと伸ばして、綺麗にナイフとフォークを扱う姿は美しくて素敵だよ!クレープを食べる姿はかわいらしいよ!」
危ない危ない。言いかけた。心臓がきゅっとなったね。
絶対に気付いているであろうユイカちゃんは一瞬目を見開いてから少し視線をそらし、前髪を触った。
夜風が心地いい。こんな風にユイカちゃんとしゃべりながら帰路につけるなんて幸せだ。こんな未来を誰が予想できただろうか。
でもこういう時に限って─『邪魔が入る』。
「こんな時だけど…感情が乗る視線って感じやすいよね」
「夢叶君に見られている時の方がもっと感じられますよ」
「えっ!?そうなの!?これよりも強かったの?」
「一般的には好意よりも敵意が敏感に感じられるらしいですが、夢叶君の場合は隣でしたから。距離の関係もあるでしょうけどね」
「そうなんだー!」
楽しい空間で会話も弾むけど互いに臨戦態勢をとる。俺たちに明らかな敵意を向ける視線。23人。ばれないように距離を取りながら、四方を囲む布陣になっている。ここは大通りから外れた裏通り。人影もなく、街灯も心なしか薄暗い。命を狙うなら格好の場所だろう。近道だし、人込みを避けて来てみたが、間違いだったかもしれない。
漆黒の空間、風を切り裂くわずかな音が2つ。的確に俺たちに狙いを定めた矢が放たれた。だがその矢が届くことはない。隠しているつもりでも、影を伝って全部見えているから。
【影纏い】を発動させ、影で矢を叩き落した。
触れた感じ、普通の矢では考えられない威力だった。何か不思議な力を纏って強化されているようだ。マナだろうか?
一方のユイカちゃんは普通に矢をキャッチしていた。
「すごいっ!!めちゃくちゃカッコいいよ!!」
「いえいえ。大したことではありません」
言葉とは裏腹に得意顔のユイカちゃんと感激している俺。自分では見ることはできないが、たぶん今の俺は目を輝かせているだろう。素手で矢をキャッチするなんて、漫画とかアニメでしか見たことがない。間近でそれをやってのけるカッコよさに惚れ惚れする。
敵意を向けてきた連中がざわついているのが、ここまで伝わってきた。そりゃこの薄暗い中、しかもユイカちゃんの場合は背後から放たれた矢を、難なくキャッチされたら驚きも隠せないだろう。自分たちが気付かれていないと思っていただろうし。
「アルカナが言っていましたね。“観戦者は”必ず安全だと。あれだけ強調されれば“私たちは”安全ではないことは明白でしたね」
「王都なのに怖いねぇ~。俺たちをパラディンだとわかって、襲ってるのかな?」
「大方そうでしょうね」
「気になるなぁー…ちょっと聞いてくるね!─【
そう言うと同時に影に“潜った”。
「消えた!?」
「消えてないよ。潜ったんだ」
驚いている敵対者の目の前に俺は現れた。
【
今回だと、街灯が照らす光でできた建物の影とは少し離れていたが俺の影を伸ばしてくっつける事で建物の影を使うことができた。その影を伝って、敵対者の目の前まで移動した、というわけだ。
この移動スピードはめちゃくちゃ速い。はたから見たら急に消えて、急に目の前に現れた感じになるだろう。影さえ繋がっていればどんな範囲だろうと瞬時に移動できる。色々と制限はあるけどね。
驚く敵対者が武器を構えようとした時。
「【
波のように押し寄せた影の刃が、敵対者8人の喉元に突き付けられた。
【
今は刀の形に変えて硬化させる事で、本物の刀のような切れ味と硬さを再現している。この切れ味や硬さは練度によって変化する。こいつらが着ている鎧程度なら、紙に等しい。
「俺たちがパラディンだって知ってたの?」
こういうのには時間をかけたくないので疑問を問うと、暗殺者たちは苦虫を噛み潰したような表情で頷いて見せた。
「誰から教えてもらったの?」
「ぐっ…あんたらは久々のパラディンで結構有名だ。この数時間でアルビオン全体にパラディンの情報は流れている。顔も名前も…」
「なるほどねー。有名人ってわけか。情報っていうのは怖いな。なんで俺たちを襲っ…ん?」
2つの不穏な動きを感じた。距離は約100メートル。建物の屋根を駆けて、凄い速さでこちらに近づいてきている。この感じは、この雑兵の比ではない手練れ。
すぐに暗殺者たちの影を解除して、影に入り、ユイカちゃんの近くへと帰ってきたと同時に愛剣『時雨』を抜き、構える。
ユイカちゃんも気配を感じ取っていたようで、その方角に向かって剣を構えていた。
数秒後。ある建物の屋根の上。月をバックに2つの影。
仮面で表情は見えないが、血走ったぎょろっとした大きな目はジッと俺たちを見下ろしている。朱色のプレートアーマーに身を包み、大きく湾曲し見るからに鋭そうなカットラス。長い黒髪が夜風に吹かれ、靡いている。感情も殺意も感じない。精気すらも。ただこの角度だと某ホラー映画の悪霊みたいでぞっとする。
仮面姿を見た暗殺者達は怯えつつも、足早にその場から去っていく。仲間か?
その様子を確認してか、仮面の暗殺者の姿勢はわずかに低くなった。
来る─。
そう思った瞬間、仮面の二人が地面を蹴り、猛然と向かってきた。風を切り裂き、重力を無視するかのように縦横無尽に壁を駆ける。カットラスを構えながら素早く左右に動き、そして抉れるほどに強く地面を蹴り、一直線に飛び掛かってきた。
俺も同時に地面を蹴ると、一瞬でその距離はなくなり、振るった剣とカットラスがけたたましい音を立ててぶつかり合う。衝撃が全身を流れ、血が震える。
少し離れた場所から戦闘音と、一度聞いた銃声が響き渡る。ユイカちゃんの方でも戦闘が始まったようだ。
そういえばまたもユイカちゃん変身シーンを見そびてしまった…悔しい!悔しさを胸にしまいながら、仕方なく目の前の事に意識を戻す。
純粋な筋力では俺の方が勝っているようで、全身を使って弾き飛ばすと仮面の暗殺者は後ろによろめいた。その時、フッとした違和感が過る。その直後、またも重力を無視するように、バランスが崩れたままの態勢で無理やり飛び掛かってきた。関節が一瞬あらぬ方向へと向く。気持ち悪っ!!グロテスクな形相に一瞬引いてしまったが、ガードを固める。
ガードされて多少バランスを崩しても無理やり態勢を変えて、連続で斬りかかってくる。その姿は到底、人とは思えないもので背筋に寒気が走った。
でもこれで着々とデータが集まってきた。最後の確認をするためにカットラスが振りかざされた時、ガードをせずに避けて空振りさせた。バランスを大きく崩した瞬間、素早く懐に入り、顔面に向かって全力でパンチを打ち込む。これで最終確認だ。
ドゴッという鈍い重音と共に仮面の暗殺者の体が吹き飛ぶ。『人ではない』。空洞がある鉄を殴ったかのような重く鈍く硬い、無機質な感触。殴った拳がじんじんと痛む。
「ユイカちゃん!こいつ人じゃないみたいだ!」
仮面の暗殺者の正体は、人ではない。おそらく『機械仕掛けの人形』。
動きと殴った瞬間に影を這わせて、情報を探った。質感が人間のものではない事、生命反応がない事を確認。感情も何も読み取れないわけだ。どういう理屈で動いているのかはわからないが、魔法の類であろうことは明白。
「了解です。人間ではないことが知れれば十分。やってしまいましょう!」
「オッケー!ぶっ壊すよー」
自分の命を狙ってくる相手とはいえ、人の命を奪うことには抵抗があった。それに加え、まだこの世界のルールを把握できていないから迂闊な選択肢は取りたくなかった。暗殺者とはいえ命を奪ってしまえばどうなるのか、罪に問われるのではないか…そう言った不安が重なった事で、できれば傷も付けたくないし穏便に済ませたいという思いがあった。
なので、まずは相手を探ることに集中した。一目見た時に違和感を覚えた。精気も感情も感じないのはあまりにも異質で今までに経験がないことから。
正体を見破られても暗殺者、もとい機械人形は何ら変わることはない。感情のない殺意を持って、命を狩りに来る。地面を蹴り、猛然と迫る。
それと同時に俺も地面を蹴り、迎え撃つ。間合いに入る直前、機械人形は紐に引っ張られたように体を曲げるように重力を無視して横へと飛び、俺の横へと移動。さらにそのままカットラスを突き立てて突進。
急な進路変更に俺の体は追いついておらず、まだ正面を向いている。影鎧があるとはいえカットラスの切れ味は中々に鋭い。あまり食らいたくないがこのままでは直撃は免れない。
だがこれも想定内。
地面から素早く影を伸ばし掴むことで、体の向きも変えた上にその勢いのままに機械人形へと飛び掛かる。影の形は自由自在。こうやって戦闘補助にも使える。考える事が多くて、頭がパンクしそうになるけどね。
瞬き一つする間もなく距離はなくなり、間合いに入るその瞬間に機械人形の胴体に目掛け、迷わず横薙ぎに振り払う。
金属を斬ったような鈍い手ごたえと同時に、ガシャッ!という金属独特の短い切断音が響く。さらに背後に回り、振り上げていた剣を振り下ろす。
一刀両断。
機械人形は綺麗に4分割へと切り裂かれた。今度は重力を無視することなく、地面へと崩れ落ちる。念のためにバックステップで距離を取ると、ほぼ同時に戦闘が終わったのであろうユイカちゃんと合流できた。来た方向に目をやれば、残骸と化した機械人形が煙を上げて転がっていた。
くっ…ユイカちゃんの戦闘シーンを見そびれた。勝ちはしたけど悔しさが残り、心の中で地団太を踏んだ。
「ん?勝ったのになんでそんなに悔しそうなんですか?」
そして顔に出てしまっていたようで、普通に心を見破られる。
少し不思議そうな表情で視線を向けてくるユイカちゃん。
「えっと、その…あれ?また別のが近づいてきたよ。今度は人だね」
どうにか言葉を繋げようとした時、機械人形たちがやってきた方から今度は人の気配がしてきた。人数は2人。敵意は感じられない。急いでいる様子もない。戦闘音を聞きつけたこの世界の警察か、それとも新手か、全く関係ない第三者か。
「あんたら…やるじゃん。今回のパラディンは骨のあるやつだな」
「私が作ったターくんがこんな姿に…次はもっと強くしてあげるから」
宵闇の裏道から姿を現したのは2人の少女だった。年齢は俺たちと変わらないような感じに見える。
最初に褒めてくれた少女は、ひらひらのついたスカートとワンピース、靴の色も全て黒づくめの服装。ツインテールにした夕暮れのような鮮やかなオレンジ色の髪が歩くたびに揺らめき、宵闇に色濃く浮かび上がる。そして優雅に棒つきキャンディーを舐めていて、その様子はどこ吹く風。優雅に夜のお散歩を楽しんでいるようにしか思えないほどに余裕が伺える。好奇心に満ちたブラウンの目はまっすぐ俺たちを見ている。
壊された機械人形を愛でるように見ていた少女も、服装は似たような感じだがこちらは明るめの水色が基調とされている。肩まで伸びたクリーム色の髪から覗く瞳はブラッドムーンのように赤みがかった黒。少し怒りを覚えているようで眉間にしわを寄せ、俺たちを睨むように見ている。そして機械人形の名前は“ターくん”と言うらしい。
愛でられた人形だったものは、光の粒子なり一瞬にして消え去った。どうやらこの二人がこの機械人形を操っていた張本人。そして、俺達がパラディンであることを分かった上で攻撃を仕掛けてきた。何者だろう?
「デートの邪魔をして悪かったね」
「で、デート!?」
何を言うかと思いや想定していなかった言葉に、思考が少しショートする。
つい“デート”という単語に強く反応する俺。大切な時期だから仕方がない。許してほしい。
「全くです。楽しかったのに水を差されて不快です」
デートであることを否定せずはっきりと言い切るユイカちゃん。かっこよすぎる。いや、よすぎるなんてことはない。最高だ。ドキドキが止まらないよ。
「で、なぜ私たちを襲ったんですか?」
「そうか…新米だから知らないのか。【パラディン狩り】を」
「パラディン狩り?え?パラディンって狩られるの?魔王を倒そうとしているのに?」
俺の言葉にオレンジ髪の少女はニヤリッと笑った。
「ある者にとって正しい正義の味方でも、はたから見たら悪で邪魔な存在。人類の意見がみな一緒か?考えは一致するか?答えは『ノー』だ。環境、境遇、立場、時と場合、全てにおいて人はみな違う考えや新年を持つ。この世界の全員が英雄を求めているわけじゃない。英雄を求めてない連中も多く存在する。貴族、農民、平民、はたまた王族も例外じゃないね」
「じゃあ依頼されて襲ってきたってこと?」
「そうだよ」
「しかし依頼の事実が分かれば依頼者の立場が悪くなるのでは?どんな権力者でも殺人の依頼など体が悪いでしょう」
「いやならない。知らないだろうからこれも教えよう」
目を細めニヤリと笑ってみせる。悪意のかけらなどない純粋な笑顔で、言葉を発した。
「【パラディン狩りは正当な職業】だ。ユグドでは限定的に【殺人が合法化】されている」
その言葉を理解した瞬間、理解できない恐怖と言い表すことのできない不気味な感覚が襲い、背筋がぞっとした。形だけが同じ人間なのに、全く別の生き物にように感じてしまう。
もしかするとアークという世界は、思っていたよりも恐ろしい場所なのかもしれない。殺人が合法化されているなど、元の世界の常識が通じない。急にこの世界が歪に見えてきた。
「人殺しが…合法?嘘だろ…」
そんな言葉を聞いて、オレンジ髪の少女は心底楽しそうに不敵な笑みを浮かべる。
底知れぬ恐怖。理解できないものへの困惑がジワリと心をえぐる。
「なるほど。ならば私たちが今からあなた方を斬っても、正当防衛になりますね?」
そう言って剣を向けると二人は首をかしげて見せた。
「いや戦わないけど。ターくんが壊された時点であんたらの勝ちさ。あぁーくやしいなー」
おどけたように肩をすくめて見せるが、悔しがってなどいない。どう聞いても棒読みだ。
「嘘つき。今回はただの視察で悔しがる要素はゼロ」
「ベッキー、本当の事をいうなよぉー」
クリーム髪の少女はベッキーと名前のようだ。
どうやら今回はただの様子見。しかし、あの迷いのない動き。様子見と言う感覚だろうが、実力が足りなかったら容赦なく命を奪うつもりではあっただろう。
「今回は引く。でも…“その力”、面白そうだね…楽しみだ」
冷静で感情に揺るぎのなかったベッキーが豹変する。舌なめずりをして目を細め、まるで好物のおやつを前にする子供の様に無邪気に笑う。戦闘狂か?心底楽しそうなのは分かる。恐怖を感じるくらい楽しそう。
『失礼、ちょっと下品だったね』と愉悦に浸る2人の表情に反し、月光が照らす不気味な瞳が俺たちをとらえて離さない。新しいおもちゃを見つけて喜ぶ、期待と夢に満ち溢れた子供のような純粋な目をしている。めっちゃ怖いんだが。
「戦う気がないと言いましたが、自分たちの命を狙ってくる相手を生かして返すと思いますか?それとも命が惜しくなりましたか?」
ユイカちゃんから刺さるような明確な闘志を感じる。空気が震える。
そりゃ自分たちに敵意を向ける相手をむざむざ逃がすのは、後の事を考えてもよくない。俺としてもできれば早期決着をつけて、これからの旅を少しでも安全に過ごしたい。
「当然命は惜しいよ。1つしかないから大切にしないとね。君は大好物を先に食べる派?」
「あなたは後で食べる派ですね」
「そう!正直、今の実力は拮抗していると思ってる。アンタらはまだまだ強くなれるし、今食べるには勿体ない。強くなったところで戦いたい。あ、これは別に戦えばこっちが勝つって意味でも、いつでも仕留められるって意味でもないよ」
「俺たちは戦闘狂でもバーサーカでもない。やるべき事をやりたいだけだ。あなた方が、俺たちの成長を待つ前に来るかもしれないと思うと安心して旅ができない。なら、危険因子を摘み取るのが先決でしょう。まぁ…どうあれ、夢の邪魔は絶対にさせないけどさ」
絶妙に距離があるので、二人の逃げ足の早さ次第では踏み込んでも間に合わない。
しかも無闇に踏み込んだらやられる気がする。あの機械人形を操る以外の能力もわからない。できればもう少し距離を詰めたい。
「安心しろ。パラディン狩りは21時以降しかできないし、私たちが再戦するのはまだまだ先…【円卓の騎士】を半分倒してから、又は聖剣を4本に触れてからだ。そう言えば名前を名乗ってなかったな。あたしがエリーでこっちが」
「ベッキーだ」
オレンジ髪の少女エリーは不敵に笑う。ベッキーはまたつまらなそうな表情へと逆戻り。
「いやぁーその時が楽しみだなー!」
「全然楽しくありません。あなた方といつか再戦しなくてはいけないと思うと気が重くて仕方がない」
「釣れないこというなよ、パラディン・ユイカ。再戦する時には正真正銘の力を見せてあげるよ」
「【ドールマスター】としての実力を、ね」
【円卓の騎士】、【ドールマスター】…また知らない単語が出てきた。覚える事が多いよ。
その言葉を言うと満足したように二人は振り返り、帰路に着こうとする。
「ちょっと待ちなさい!まだ話は終わっていません!」
逃がすまいとユイカちゃんが射撃。弾丸は的確に足に向かっていくが、当たることなくすり抜け、地面に当たる。二人の姿は闇に溶け込み、最初からいなかったように姿が消えた。
「じゃあね、パラディン。またいつか」
その言葉だけが残り、気配が急激に遠くなっていく。
エリー&ベッキー…なんか面倒な人たちに絡まれてしまったものだ。
でもわかったことは─この世界は優しくはない。
誰もが英雄を求めているような夢のある世界ではない。
ある宵闇の中。
『どうだった?軽くて手合わせした感じは?』
「良いと思うよ!あれなら任せられる」
「まだ成長途中で完全に力を出し切れていないけど…このまま順調に行けば、必ず届く」
『それを聞けて大満足だ!やっぱり…あの二人だからこそ未来を切り開ける。期待が高まるね。さぁ…見せてくれよ、英雄たち』
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