緋色のスティック

ぱっち8

第0章

プロローグ「光る道の向こうへ」


―出会ったすべての人と瞬間に、ありがとう。


―そして、まだ誰も知らない"光る閃き"に、これから出会う―




シニア日本代表として臨む国際大会の夜――スタジアムのナイトライトが鮮やかにフィールドを照らし、人工芝の青と照明の白が美しい対比を描いている。観客席からは期待に満ちた息遣いと歓声が渾然となって響き、一瞬の静寂を破った。




「背番号8、相原緋色!!」




アナウンスの低く重い声が響く瞬間、緋色の胸は激しく高鳴った。背後からはシニア日本代表キャプテンの力強い声が届く。




「ほぉ…珍しく緊張してるな? さぁ、いくぞ、緋色!」




その掛け声に、緋色は大きく深呼吸し、膝をわずかに曲げた。スティックを握る手のひらに、汗がにじんでいる。




――幼い頃、土のグラウンドでは何度も転び、桜の降るあの場所で幼なじみのあの子と手をつないで走ったあの日。


――母・けいの温かな微笑み、父・巧真の穏やかな眼差し。


――「いつもそばにいる」という約束。




目を閉じると、懐かしい記憶が蘇る。視界の隅が金色に光ったような感覚――自分でも説明できない、初めての不思議な感覚。胸の高鳴る音と歓声が、気持ちをどんどん高ぶらせていく。




目を開けると、観客の歓声が波のように押し寄せてきた。緋色は新たなステージの幕開けを、全身で感じていた。




光る道の先を見つめ、スティックを力強く握りしめる。




「――さぁ、……いくぞっ!!」




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