少年貴族に転生して、メイドと一緒にクルマ旅。~超快適ギフト「置き配」で旅から旅へのまったりスローライフを満喫します~

天宮暁

プロローグ

 夜の森の奥で、ホーホーとフクロウが鳴いている。


 ここは地球じゃないんだから、フクロウによく似た別の鳥なんだろうけど。


 街道沿い、森の開けた宿営地にクルマを停め、テントを張って、焚き火を起こして。

 ゆらめく暖色の光が、やさしく俺とリーシュカのいるキャンプ地と、愛車であるフルタ・ハイルークを照らしてくれる。


 焚き火以外にも光源はある。

 リーシュカのやわらかな太ももに、まだ十歳の小さな頭を横たえた俺は、70インチのスクリーンに映し出された映画をただぼんやりと楽しんでいた。

 スクリーンに映画を映し出すのは最新鋭のプロジェクターだ。


 メイド服姿のリーシュカは、今年で十五歳。

 俺付きのメイドとしてずっと仕えてくれている。

 今回実家から追放を食らった俺に、ほとんど着の身着のままでついてきてくれた。

 きっと過酷な旅を覚悟してたんだと思う。

 それでも俺を放っておけないと思ってついてきてくれたんだ。

 ほんとうにありがたい。


 でも、


「まさか、旅先でこんな贅沢な時間が過ごせるなんて、思いもしませんでした。それもこれもノエル様のおかげです」


 と、リーシュカは、俺の少し癖のある真珠色の髪をやさしく梳いてくれる。

 そのリーシュカからはフローラルなボディソープの匂いがする。


『おい、ノエルよ。この漫画の続きはないのか?』


 その声のしたほうに顔を向ける。


 そこにいるのは、白い大きな狼だ。

 前世の動物園で見たライオンやトラよりももう少し大きいくらいだろうか。

 それだけ聞くと恐ろしい感じだが、その瞳にはたしかな知性が宿っている。


「オボロ、その漫画はそれが最新刊だよ」


『何!? これでは続きが気になって眠れないではないか!』


「フライドポテト追加してあげるから、別の漫画で我慢してよ」


 俺はそう言ってリーシュカの膝枕から頭を起こす。


「『置き配』」


 女神様からもらったギフトの名前を唱えると、俺の手元にタブレットが現れた。

 俺と女神様とで作り上げた万物通販アプリを立ち上げ、ハンバーガーチェーンのフライドポテトを注文する。

 オボロの体格に合わせてLサイズを五つだ。


 次の瞬間、俺の目の前に、ハンバーガーチェーンの紙袋が現れた。


 正確には、紙袋を重そうにぶら下げたカーバンクルのクルルだな。


「遅くにありがとう、クルル」


 人見知りのクルルはふるふると頭を振って、俺が紙袋を受け取るなり消えてしまった。


 その紙袋を、横合いから首を伸ばしてきたオボロが牙でくわえて持っていく。


 俺は立ち上がったついでに冷蔵庫を開き、


「リーシュカ。ホットココア飲む?」


「あ、わたしが作りますよぉ」


「いいって。すぐだし」


 俺は二杯分の牛乳を耐熱容器に移すと、冷蔵庫の上の電子レンジで加熱する。

 そのあいだにマグカップにココアを入れておき、温まった牛乳を少しずつ注いで混ぜていく。


 できあがったココアの片方をリーシュカに渡しつつ、俺はリーシュカの座る二人用キャンプチェアの隣に腰を下ろす。


 季節は春だが、夜になると少し冷える。

 焚き火の炎がココアの湯気をぼんやり照らす。


 見ればオボロは、ゴザの上に寝転がって、木皿にどっさり盛ったフライドポテトをつまみながら、爪の先で器用に漫画本のページをめくっている。

 仮にも山神様とは思えないくつろぎっぷりだ。


 俺はココアをすすりながら、映画の続きへと意識を戻す。


 ――前世ではこんなゆったりした時間はなかったな……


 いくら多忙だったとはいえ、休みを作ってキャンプに行くくらいは、やろうと思えばできたのかもしれない。


 でも、そんな心の余裕はなかったし。


 そうやってキャンプに行ったとて、自然の中では不便なこともいろいろある。

 不便を楽しむのもキャンプの醍醐味なのかもしれないが、仕事で疲れ切った脳にはちょっとツラい。


 自然の中でゆったり自分の時間を過ごしたいが、不便な思いはしたくない――


 そんなわがままを叶えてくれるのが、女神様から授かったギフトである。


 その名もずばり、「置き配」。


 規格外の力で無双して俺TUEEEとかはできないけど、戦いなんてしないで済むならそのほうがいいし。


 女の子にモテまくってハーレム、なんていうのも、前世でアラサーからアラフォーへと進化するところだった俺からするとむしろダルい。


 そんなことより俺がほしいのは、小さくていいからじんわりと噛みしめる幸せだ。


 他に車のいない道をドライブする気持ちよさとか。

 静かな森の中でキャンプするくつろぎとか。

 リーシュカの膝枕のぬくもりとか。

 毛並みのいいオボロをモフる快感とか。

 大きなスクリーンで映画を見る贅沢とか。

 食べたいと思った時にすぐに配達してもらえるできたてのポテトの美味しさとか。

 自分で作ったココアを自分で楽しむとともに、親しい人にもおいしいと言ってもらえる嬉しさとか。


 異世界だからって何も、最強やら冒険やらを求めなくたっていいじゃないか。


「うん、幸せってこういうことだよなぁ」


 と、しみじみつぶやく俺は、十歳にして実家を追われた少年貴族には見えないかもしれないな。






―――――

という感じで、メイドさんやもふもふとキャンプしたりドライブしたりのスローライフを送りつつ、たまにちょっと冒険するような作品になってます!

「おもしろそう」「続きに期待!」と思ってもらえましたら、この下にある評価☆やいいね♡をポチって、ぜひともご応援くださいませ。

コメントやレビューも歓迎です。いつも温かい言葉に励まされてます!

本日は6話目(第5話)まで更新、その後はしばらく一日二話、落ち着いたら毎日一話の更新となります。

ノエルの旅路に末永くお付き合いいただけましたら嬉しいですm(_ _)m

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