第13話

『振られたら俺が記憶消してやるから砕けてこい』


 師匠はなんでも出来るし、前に言っていた記憶を消してやると言った冗談もただの冗談ではなく本当にできる事なのであろう。

 

「ヤーサ、本当にいいのかい?」


「はい」


「無くした記憶ってのは戻せるものじゃないんだぞ? ましてや学園全体から成績以外の自分に関する記憶を消すなんて相当な規模の術式だぞ?」


 前言ってもらったことを信じ、ヤーサはすべてを消し去りたくなって師匠の下を訪ねた。


 来てそうそうにピリピリしているヤーサに何事かと思いつつ、話を聞いてみると詳しくは聞かないで欲しいがフラれたから前言っていた記憶を消す術式を教えて欲しいと懇願された。


 ヤーサにあんな馬鹿なこと言うんじゃなかったなと後悔しつつ、思い直さないかと軽い説得をする。

 

「はい」


「何があったか知らねぇが考え直してみないか?」


「いえ、お願いします」


 自分なんかはいない方がエルちゃんは幸せになれる、そう信じてヤーサはリセットの魔法を使う。


 ズキズキとどこかが痛むのはあの連戦で体がボロボロだから、もしくは全部気のせいなんだと自分に必死に言い聞かせながら師匠に懇願する。


「……わぁったよ、これ以上は何言っても無駄だ。この紙に術式が書いてある。お前なら五分もあれば使えるようになるだろ。ちなみに俺には効かねぇからよく覚えとけ」


 根負けしてしまった師匠はあんな馬鹿な口約束でも約束は約束だと思い仕方なく大規模記憶削除の魔法の術式を教える。


「はい、ありがとうございます」


 紙を渡すといいながら師匠はとても嫌そうに力強く本当は渡したくないけど渋々だからなといった風に持っていた。


 本当にいい師匠である。

 

 感謝しつつ貰った紙を見ると確かに難しい術式ではあるがヤーサにできないレベルでは無いと理解する。


 最も、今の時点でヤーサにできない術式など死者蘇生や時間の巻き戻しといった理論上は可能かも?と言われているレベルのものだけなのでほぼ無いに等しいといっていいだろう。


 こうしてヤーサは学園から消え去った。

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