H-1 「初めて見る世界の色 -全年齢版-」
孤独。
そんな言葉がSNSをはじめ、いろんな場所でつぶやかれているけれど。
もし自分が何も挑戦していなかったら、今の自分はいなかっただろう。
ボクは「林田豪」として存在してから、5年くらいは平気だった。
小学校に入る頃には、何かがおかしいと思っていた。
なぜ、ボクが話しかけると、女子はびっくりした顔をするのか。
なぜ、ボクが近づくと、男子はそっけなくなるのか。
「ボクが生きているから? ボクはこんなに普通じゃないから?」
聞いてみたかったけれど、怖くて言えなかった。
父さんは「そんなことはない」と言った。
母さんは「おかしいのは周りのみんなの方だ」と教えてくれた。
ボクはボクのままでいい、と。
それでも、ボクは一度も「生まれてきてよかった」と思えたことはなかった。
周りは楽しそうにしていた。男子も女子も、みんな青春を謳歌していた。
高校を卒業し、ボクはアルバイトをしながら、自分の好きなことに挑戦するためにお金を貯めた。
ネットで見つけた、初めての体験型アトラクション。
お金さえあれば、新しい世界を見られる。ボクみたいな普通の人でも。
19歳の夏、貯めた10万円を握りしめて、ボクは初めてその体験施設に行った。
受付の人に案内されて、ドキドキしながら部屋に入る。
そこには、やさしく笑うスタッフが立っていて、ボクをサポートしてくれた。
その日、ボクは初めてできることの楽しさ、誰かと一緒に挑戦する喜びを知った。
「自分の顔やコンプレックスなんて関係ないんだ」
そう思えた瞬間だった。
*
*
施設のスタッフ、ふみのちゃん。
初めて会った時、ボクの不安や緊張に気づいて、優しく励ましてくれた。
「大丈夫、楽しめばいいんです」と笑う彼女を見て、ボクは安心した。
そして、ボクは初めて心の底から楽しむことができた。
それからボクは、他の体験施設を渡り歩いたり、新しいことに挑戦するたびに、ふみのさんの言葉を思い出す。
「失敗してもいい、楽しむことが大事」
その日から、ボクは自分を卑下するのをやめた。
誰かに認めてもらうのではなく、自分自身で世界の色を知ることができるのだと知ったから。
ボクはここにいる。
林田豪として、生きている。
そして今日も、新しい体験に挑戦する準備をしている。
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